「きょじんさ~ん、意気込みお願い出来ますか?」
「ああ?」
リポーターさんが果敢にこの巨人さんに対してコメントを求めます。
「フレデリックという名前がある……」
「じゃあ、フレちゃん」
「フ、フレちゃん⁉」
「どうしてこのチームに?」
「“タイマン”で負けたからな……」
「へっ?」
「一族の戦士として、“タイマン”に負けたものは勝ったものに服従しなければならない……そんなわけで、やつらについて行っているというわけだ」
「ふ~ん、目的とかあるの?」
「現状からの解放だな。優勝すれば思うがままなんだろ?」
「そうみたいだね~」
「ならば勝つだけだ……見識を広げると言う意味でもあいつらとの旅も悪くはないがな」
「なるほどね、お返ししま~す」
「あ、ありがとうございました……? ああ、失礼、お一人飛ばしていました。南口ゲートのリポートをお願いします!」
「こ、こちらは南口ゲートです! チーム『狐の目』のタカ選手! り、凛とされていますね……じゃ、じゃなくて、意気込みをお願いします!」
拡声器を向けられたのは綺麗な長い黒髪をポニーテールでまとめた女性です。リポーターの方がおっしゃったように、凛とした目鼻立ちをしておられますが、口元だけ赤いスカーフでお隠しになられています。
「忍びは多くを語らないもの……全力で勝ちにいく」
「自信たっぷりなコメントを頂きました! お返しします……」
「あ、ありがとうございました……さあ、中堅戦に臨む四人がリングに上がりました……今、審判が開始の合図を出しました!」
「ふん! タイマンでなくても構わん! 踏み潰されたくないやつはとっとと俺の近くから離れろ! もっとも逃げる場所があるかな?」
「おおっと! フレデリック、巨体を生かして、次々とリングを踏み壊していく! このままだと、皆、リングアウトになってしまうぞ!」
「……仕方ありませんわね」
「ええっ⁉ セーヴィ、拳銃を構えたぞ! 場内がどよめきます」
わたくしも驚きます。このムスタファ首長国連邦にもそれなりに流通するようになってきた武器とはいえ、この格闘大会で使用していいものなのでしょうか。
「やかましいわね……よろしいですか? これはあなたたちの考えるような命をただ奪うものではないのですよ。“魂を射抜く”銃なのです、お分かり?」
「セーヴィのよく分からない説明にコロシアムにいるほぼ全員が首を傾げているぞ!」
「もう! なんで分からないのですか⁉ “氷の魔女”であるわたくしが懇切丁寧にご説明して差し上げているのに!」
「ごたくは結構だぜ、魔女さん! 踏み潰されたくなかったら降参を選びな!」
「フレデリックがセーヴィに向かって、その大きな右足を振り上げる!」
「論より証拠ですわね!」
「セーヴィが飛んだ!」
「これでも喰らってお休みなさい!」
「! ……?」
「おっと、フレデリック、宙を舞ったセーヴィの銃撃を喰らったが、ピンピンしているぞ! これはどうしたことか!」
「わたくしの氷の弾丸が北国育ちのあの巨人さんには大して効果がなかったということ⁉ まさかの相性最悪の相手⁉」
「よく分からねえが、何発も撃たれたんだ! 少し痛い目を見てもらうぞ!」
「!」
「フレデリックが右の掌を広げ振りかぶった! 宙を舞うセービィを叩き落とす気か!」
「テュロン!」
「キュイ!」
「おおっと、ウヌカル、指笛を鳴らしたかと思うと、あの肩に乗っていた小動物がオオカミほどの大きさになったぞ! これはどういうことだ⁉ そして、今度はウヌカルの方がその動物の背中に飛び乗った!」
「デカブツ! こっちを潰してみろ!」
ウヌカルさんがフレデリックさんを挑発します。
「何? 足元をちょこまかと……うっとおしい! 望み通りお前らから潰してやるよ!」
「はっ!」
「おらっ!」
「甘い!」
「このチビ! ……はっ⁉」
「……ようやく気づいたか」
ウヌカルさんはでたらめに逃げ回っていたわけではなく、縄を使ってフレデリックさんの太い両足を結んでしまったのです。
「バ、バランスが保てん! う、うおお!」
フレデリックさんの巨体がリング外に倒れ込みます。
「フレデリック、敗北! 0ポイント!」
「次はお前だ! 自称魔女!」
「だから本物ですから! 貴女、お告げがどうとか言っていましたわね?」
「言っていたな、それがなにか?」
「よろしいのですか? 天界に属するわたくしに弓ひくような真似をして……」
「む! それは確かにそうだが……バレなきゃ問題ないだろう!」
「なっ⁉」
「行くぞ、テュロン!」
「キュイイ‼」
「ウヌカルの相棒、テュロン、高い跳躍力を見せて、セーヴィに迫る!」
「少し、お痛が必要ですわね!」
「ぐっ⁉」
「キュ⁉」
「おおっと、ウヌカルとテュロン、セーヴィに届かず、落下していく!」
「各々の心の臓を凍らせて頂きました……魂を射抜くとは、こういうことも出来ます。さて、そのまま落下したら大怪我ですわね……」
「おっと、地面に雪の絨毯のようなものがしかれ、ウヌカルたちは激突を免れた!」
「ウヌカル、敗北! 1ポイント!」
「心の臓ですが、間もなく動き出すので、ご心配なく……って聞こえてないですわよね」
「……心優しい魔女殿もいたものだ……」
「ん? そういえば、貴女がまだ残っていたわね……さっさと終わらせてあげる!」
「セービィが銃を乱射! しかし、タカには一発も当たらない!」
「そ、そんな馬鹿な! 何故躱せるの⁉ こ、これがニンジャの超スピード……⁉」
「そんな大したものではない……目線や銃口の向きなどでおおよその発射方向は推測出来る……それに従って動いているまでだ」
「! い、いつの間に背後に! ぐはっ!」
「セービィ、タカの手刀一発で倒れ込んだ!」
「セービィ、敗北! 2ポイント! タカ勝利! 3ポイント!」
「タカ! 洗練された忍術の動きで氷の魔女を圧倒! これがニンジャの実力か! Cブロック中堅戦はチーム『狐の目』が勝利! ……さあ、続いては大将戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「はい……チーム『武士と戦士と騎士』のセリーヌ選手、現在やや優位ですが……」
「……優位に立っているからと言って、油断はしない……」
銀色の重々しい甲冑に身を包んだブロンドヘアーの女性が真っ直ぐな眼差しと落ち着いた口調でお話しされます。
「セリーヌ選手は大陸中央騎士団の所属だったそうですが、何故この大会に?」
「栄えある御前試合であのサムライに敗れ、私のエリートとしての地位は失墜した……」
「……そうなのですか? どうしてそんな因縁の相手と行動を共に?」
「借りを返す為だ……勝利をしなければ私は祖国には戻れない……」
「そうですか。てっきりモンジュウロウさんに好意を持っているのかと……」
「な、なんでそうなる!」
「違いますか?」
「だ、誰があんな寝相の悪い男など!」
「……では、この大会に臨む意気込みをお願い出来ますか」
「……今、言ったように私には戦うべき理由がある。悪いが負けられない」
「そうですか……次、お願いします」
「はい! チーム『天界』のアズさん! 現在最下位タイですが……」
「まあ、まだ挽回可能っしょ!」
「あ、明るいですね」
「まあね、それがウチの取り柄みたいなもんだし!」
リポーターさんに拡声器を向けられた金髪の小柄な女性が明るく答えます。
「では、意気込みをお願いします!」
「死神と魔女の仇は悪魔が取るよ!」
「……お友達の間で流行っているのですね、分かります……」
「あれ? まさかまだ信じていない系? ウケるんだけど!」
「本当に仲が良くて羨ましいです!」
「まあね……ウチらカルテットはズッ友だし! あ……」
「カルテット? お一方足りないようですが……」
「う、うん……」
アズさんは悲しそうに背中の翼をはためかせます。
「こ、これは大変失礼しました! 次、お願いします!」
「こ、こちらは南口ゲートです! チーム『狐の目』のナスビ選手!」
「ナツコです!」
「え? でも登録ではナスビと……」
「そんな珍妙な名前ではありません! 私はナツコです!」
「ナ、ナスは美味しいと思いますが……」
「そんな問題ではないです! ……縁起が良いからと言って、食べ物の名前など……」
黒髪でショートカットの女性が、ぶつぶつと呟きます。
「い、意気込みをお願いします!」
「なんで忍びなのに目立っちゃっているのか分かりませんが……勝ちにいきます!」
「ち、力強いコメントを頂きました! 次、お願いします」
「は~い、西口ゲートで~す。チーム『赤点』のアンナ選手……意気込みをどうぞ」
「頑張ります……」
「見るからに真面目そうだけど、なんで女番長と一緒にいるの?」
「ナーシャ……アナスタシアとは子供の頃からのくされ縁ですから……学園からお目付け役を仰せつかったというのもありますが……」
「ふ~ん、意気込みお願い出来る?」
「現状、かなり厳しいですが……やれるだけのことはやってみます!」
「おお、静かだけど気合い十分みたいだね~それじゃあ、お返ししま~す」
「あ、ありがとうございました……さあ、大将戦に臨む4人がリングに上がりました……今、審判が開始の合図を出しました!」
「じゃあ、行くわよ!」
「おっと、ナスビが長い柄の武器を持ちだしたぞ!」
「私はフジ姉のように怪しげな術は使えないし、タカ姉のように優れた体術の持ち主でもないの! そもそも忍者なんてやる気なかったし! ……まあ、それはともかくとして、わりと自信のあるこれを使わせてもらうわよ!」
「グレイブか……そちらの国ではナギナタとか言うのであったな」
セリーヌさんがゆっくりと進み出ます。
「博識ね! あ、安心して! 切っ先は丸くしてあるから命の心配はないわ!」
「心遣い痛み入る……だが、無用なことだ、その切っ先が私に届くことはないからな」
「! 言ってくれるじゃないの!」
「ナスビが鋭い踏み込みで突きを数度繰り出すが、セリーヌ、それを躱してみせる!」
「そ、そんな⁉」
「悪くない攻撃だが、相手が悪かったな……!」
「ならば! なに⁉」
「それも読んでいる……こちらから仕掛ける!」
「ぐはっ……」
セリーヌさんの放った一撃でナスビさんが崩れ落ちました。
「このサーベルも模造のものに変えてある……心配するな」
「な、なんで私の攻撃をことごとく躱せたの……」
「……軌道が素直過ぎるな。甲冑部分を避けて、あらわになった頭部を狙ってくるのは読めていた。喉とすねを狙ってくる流派だということも知っていたからな……」
「さ、流石はエリート女騎士ね……」
「ナスビ、敗北! 0ポイント!」
「さっさと終わらせる! 次は貴様だ!」
「おおっと! マジビビった!」
セリーヌさんの攻撃をアズさんはヒョイと後方に飛んで躱します。
「その翼はやはりまやかしではないか……やるな悪魔め」
「あ、ちなみにウチは“光の悪魔”って呼ばれているから♪」
「どうでもいい情報だな……天界の連中が何故に下界に降りてきた?」
「この大会で活躍すれば、いなくなったあの子にも届くと思って……」
アズさんが遠くを見つめます。
「そうか、カルテットとか言っていたな……亡き友に勝利を捧げるのか……くっ」
「あれ? まさか泣いている系?」
「その手の話にはどうも涙腺が弱くてな……」
「……言っておくけど、生きてるよ?」
「は?」
「だって“闇の天使”だよ? そんな簡単に死ぬわけないじゃん♪」
「い、いなくなったとか言っていたじゃないか!」
「うん、方向性の違いで脱退したの」
同じような方向性にしか見えませんが、わたくしはまたも黙っておくことにしました。
「お、おのれ! 涙を返せ!」
「いやそんなん知らんし!」
「ぐはっ⁉ こ、これは雷……?」
「光は光でも雷光なんだよね……その鎧はよく通電しそうだね!」
「当たらなければ良いだけのこと!」
「す、素早い! ただ近づかせないよ!」
「ちぃ! 雷の柱で防壁を! これでは容易に近づけん!」
「盛り上がっているところ大変申し訳ありませんが……」
「「なっ⁉」」
アンナさんが眼鏡の縁を触りながら、片手の小瓶をかざして何やら呪文を唱えます。
「まさか、巨人を封印した魔法か⁉」
「マジで⁉ やばっ⁉」
「……流石に対応策を持っているようですね」
「当たり前だ、危険な魔法使いとも幾度となく戦ってきた!」
「概ね右に同じだし!」
「ならば、その逆です」
「「⁉」」
アンナさんの小瓶から凄まじい衝撃波が飛び出しました。アズさんはリング外に吹っ飛ばされ、セリーヌさんはガクッと膝を突きました。
「封印魔法の応用形です。封印に使う膨大なエネルギーを解き放ちました……」
「が、学生の身分でそのようなことを……お、恐るべし……がはっ」
「アズ、セリーヌ敗北! 1ポイントと2ポイント! アンナ勝利、3ポイント!」
「……ということは、Cブロック勝者はチーム『武士と戦士と騎士』と『赤点』に決定! 2チームが準決勝に進出です!」
会場が大いに沸き立ちます。
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