「ここか……!」
僕らは街の郊外までやってくる。
「ヒャッハー!」
モヒカン頭の集団が悪さを働いている。『ギャング・イハタゲ』とかいう連中だ。
「ふむ、通報通りだな、あの程度ならば我々二人だけでも問題はない……」
ムツミさんがゆっくりと前に進み出る。
「ム、ムツミさん!」
「なんだ?」
「い、いや、刀がまだ出来上がっていないんじゃないですか⁉」
「ああ、新しいのがまだ時間がかかるそうだからな」
ムツミさんが両手をパッパッと広げたり閉じたりする。
「だ、大丈夫なんですか⁉」
「まあ、問題はない……!」
「ぐえっ⁉」
「⁉」
ムツミさんが素早い足取りでモヒカン頭との距離を詰め、みぞおちに拳を入れる。
「て、てめえ!」
「はっ!」
「どはっ!」
殴りかかってきた男をムツミさんは軽々と投げ飛ばす。自分より大きい体格なのに……。
「……この通り、刀を使えないときの為、体術の類は体得してある」
ムツミさんが両手を広げる。
「す、凄い……」
「お、おい! 『夢の遊撃隊』の奴が来やがったぞ!」
「慌てるな、飛んで火に入るなんとやらだ……」
「そ、それもそうだな……」
モヒカン頭たちが下卑た笑いを浮かべる。ムツミさんが少し首を傾げる。
「……気に入らんな、なんだその余裕は?」
「それはこれがあるからだよ!」
「!」
「あ、あれは!」
男たちが次々と鎧のような者を装着する。鎧ではなくて、パワードスーツとか言ったか。
「まさか! 雑兵たちにまで出回っているのか⁉」
「へへっ!」
「しまっ……」
「遅いぜ!」
「がはっ!」
懐に入られたムツミさんが腹部にキックを喰らう。
「おらあっ!」
もう一人のパワードスーツがパンチを振るう。ムツミさんは顔面への直撃を避けたが、肩にパンチを喰らってしまう。ムツミさんは肩を抑えて膝をつく。
「……くっ」
「へへっ……雑兵にやられる気分はどうだい?」
「手も足も出ねえって感じだな、やっぱり凄いぜ、このスーツはよ……」
「おいおい、面白そうなことやっているじゃねえか」
「俺らも混ぜろよ」
スーツを着た男たちが続々と集まってくる。
「って、この女、ムツミとかいう奴じゃねえか!」
「ああ、だが見ろ、このスーツがありゃあ敵じゃねえ、かわいいもんよ」
男たちは膝をつくムツミさんを見下ろす。
「へっ、正義の味方気取りが、ざまあねえなあ」
「この女のせいで兄弟たちがどんどんとブタ箱にぶち込まれたんだ」
「そのお礼はちゃんとしなくちゃな、いたぶってやろうぜ」
「ああ、いたぶった後にぶち込んでやるぜ」
「良いねえ、色んな意味で兄弟の絆が増すな」
「がっはっは!」
「ま、待て!」
「あ~ん?」
「ぼ、僕が相手だ!」
ムツミさんとギャングの間に僕が割って入る。颯爽と……というイメージだったが、足ががくがくと震えてしまい、いまいちかっこがつかない。これでも凶悪かつ巨大なモンスターを相手にしてきたことは何度かあるのだが……あのパワードスーツというのが、未知なる力なので怖い。人の力を格段に引き上げる鎧? どう戦えば良いんだ?
「……なんだこいつ?」
「おい、男もイケるってやついるか?」
「……この面ならお断りだ」
「だってよ!」
男が拳で僕を殴り飛ばす。いや、手の甲ではね退けたと言った方が正しいか。僕は派手に吹っ飛ばされ、近くの建物の壁に突っ込む……はずだった。僕は動かずにその場に立っていた。僕は殴られたはずの頬を抑える。
「あ、あれ……い、痛くない?」
「! な、なんだと⁉」
男たちが驚く。ムツミさんが笑う。
「はっはっは!」
「!」
「水のかたまりならば、殴っても蹴ってもほとんど意味がないからな……」
「な、何を言っていやがる!」
「なに、独り言だ……ユメナム!」
「は、はい!」
ゆっくりと立ち上がったムツミさんが手袋をはめて、僕に声をかけてくる。
「反撃開始だ!」
「はい!」
僕はローブを脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。
「な、なんだ⁉」
男たちがたじろぐ。そりゃあそうだろう。ムツミさんが叫ぶ。
「剣と化せ!」
「了解!」
「なっ⁉」
「はあっ!」
水の剣と化した僕を掴み、ムツミさんが男たちに斬りかかる。
「ぐはっ……」
「ば、馬鹿な……」
スーツを砕かれた男たちが信じられないといった表情で、次々と崩れ落ちる。
「ふむ……やはり見事な斬れ味だな。どうしてだ?」
「強く念じると硬さなどが増すみたいですね」
剣の状態のまま、僕は答える。ムツミさんが首を捻る。
「それだけか?」
「使い手の技量も関係するのかもしれません」
「ふっ……お世辞はいい」
お世辞みたいになっちゃったが、そういうことも当然関係してくると思うんだよな。まあ、全ては推測でしかないのだけど……。
「ひっ、兄貴たちがやられた!」
「て、撤退だ!」
「逃がさん!」
ムツミさんが剣(僕)を振るい、逃げようとした男たちも残らず叩き伏せた。スーツが砕けた男たちがその場の至るところに転がる。
「や、やりましたね!」
「ああ、制圧完了か……」
「雑兵如きで良い気になられては困るな……」
「! 貴様は……」
そこに銀髪で鳥のトサカのような髪型をした黒ずくめの男が現れる。
「この光宗とも遊んでくれないか?」
男が鞘から長い刀を引き抜く。僕が尋ねる。
「光宗っていう奴ですか?」
「いや、それは刀の名前だ。奴の名前はテレス……ギャング・イハタゲの用心棒というか、幹部のようなものだな」
「テレス……」
「ムツミ嬢……喋る剣を用いるとは、以前見かけたときとは違うようだな」
「気分が変わってな……はあっ!」
「ふん!」
ムツミさんが勢いよく斬りかかるが、テレスは事も無げに受け止める。
「なっ⁉」
「こんなものか? 拍子抜けだな……!」
テレスが刀を振るう、目にも止まらぬ速さの攻撃をムツミさんが喰らい、後退する。
「くっ、捌き切れなかった。これほどまでとは……」
「私が出るまでも無かったようだな……さっさと終わらせる!」
「ムツミさん! 剣を思いっきり振って下さい!」
「! わ、分かった!」
「! 目、目に何かが……水か⁉」
ムツミさんが僕を振るうと、何かが飛び出し、テレスの目に入り、テレスがたじろぐ。何が入ったのだろうか。水滴だ、そういうことにしておこう。僕は間髪入れず叫ぶ。
「ムツミさん! 今です!」
「色んな意味で汚い気がするが……そうも言ってられんか!」
「ちぃっ!」
「ぬっ⁉」
テレスが手を握ると、僕に痛みが走り、次の瞬間、大量の電気が流れ、痺れる。ムツミさんは膝をついてしまう。テレスが掌を広げて呟く。掌から水が流れる。
「……なるほど、私の場合は『電撃』が使えるというわけか」
「! ま、まさか、僕を使ったのか⁉ ど、どうやって⁉」
「ユメナムとやら……我々に協力する研究者が言うに、睾丸が貴様の妙な力の源だという」
「な、何を言っているんだ⁉」
「わ、私にも分からん! ……くっ、これはなかなか力を消耗するようだ。ここは退く……」
テレスがその場から離れる。早くも研究対象になっているのか……。っていうか、相手にも僕は使えるのか。良いも悪いもタ〇キン次第ってわけか。何を言っているんだ、僕は。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!