「さあ、続いて大将戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「チーム『悪役令嬢』、ティエラ選手、意気込みをお願いします……」
「今は4チーム横一線で3ポイント! 2ポイント以上を確実に取ります!」
「……冷静な現状判断ありがとうございます……次、お願いします」
「はい! チーム『剛腕』、ラティウス選手、意気込みの程をお願いします!」
「フランソワもガルシアも苦戦を強いられた。ままならないのが人生だ。私が取り返す」
「ありがとうございます! 次、お願いします!」
「は、はい! チーム『赤点』、ア、アナスタシア選手、意気込みを!」
「アンナが望みをつないでくれた。この流れを無駄にするつもりはないぜ!」
「と、とても熱いコメントを頂きました! つ、次、お願いします!」
「はい~チーム『龍と虎と鳳凰』、ソウリュウ選手、今どんな感じ~?」
「要は3ポイント取ればいいのだろう、分かりやすくて助かる」
「落ち着いてるね~じゃあ、お返ししま~す」
「さあ四人がリングに上がろうとしています……解説は昨日惜しくも敗退したチーム『魔法>科学』のヴァレンティナさんとチーム『怒髪天』のディーディーさんにお願いしています。まずはヴァレンティナさん、この大将戦、どう見ますか?」
「4チームとも3ポイントで横一線です。つまり自分より最低でも二人は蹴落とさなければなりません。どのタイミングで誰が誰に仕掛けるのかが注目ポイントですね……」
「なるほど、例えば誰が仕掛けるでしょうか?」
「各々の性格なども踏まえると、アナスタシア選手あたりがかき回すのかと……ラティウス選手やソウリュウ選手などはじっくり様子を見て行きそうですね」
「ふむ……ティエラ選手はいかがでしょうか?」
「正直1回戦ではほとんど何も出来ていませんでした……その反省をどのように活かすのか……果敢に攻めるか、慎重に様子を伺うのか……案外キーパーソンかもしれません」
「ありがとうございます……ディーディーさんはいかがでしょうか?」
「HAHAHA! これだけ多くのギャラリーが注目しているんだ! とにかくド派手なフィーバーを期待するぜ!」
「フ、フィーバーですか……?」
ディーディーさんのハイテンションぶりに実況の方は若干引き気味になります。
「ああ、俺もここで暴れまくるぜ、YEAH‼」
「い、いや、ここで暴れられると困るのですが……」
「始まるようですよ……」
「お、おっと四人がリングに上がった……審判が今、開始の合図を出しました!」
「別に恨みはねえが、消えてもらうぜ!」
「⁉」
「アナスタシアがティエラに迫る!」
「おらっ!」
「くっ!」
わたくしはなんとかアナスタシアさんの繰り出したパンチを躱します。
「へえ……ただのお嬢様ではねえみてえだな、これはどうかな?」
「むっ⁉」
「アナスタシアが猛然とラッシュを仕掛ける!」
「ちっ⁉ 当たらねえ⁉」
わたくしは冷静にアナスタシアさんの連続攻撃を躱します。意外と言ったら失礼かもしれませんが、わりと規則正しいリズムで攻撃されてくるので、予測しやすいのです。しかし、このままジリ貧です。わたくしは後方に跳んで、あえて距離を取って反撃します。
「『土制覇』!」
「『気合』!」
「はっ⁉」
わたくしは驚きました。わたくしの放った土魔法の衝撃波をアナスタシアさんが直立不動で受け止めたのです。アナスタシアさんが語りはじめます。
「アタシはここから北東にある国の名門魔法学園の学生でな……落第生扱いだけどよ」
「は、はあ……」
「魔法に関する知識はさっぱりだが、ある程度の耐性はついた!」
「だ、だからと言って気合でどうにかなるものですか⁉」
「なっちまったもんはしょうがねえだろう!」
「アナスタシアのこの言葉! いかがでしょうか、ヴァレンティナさん?」
「極めて非科学的ですね……まあ、そもそも魔法を科学に当てはめて論じるのがナンセンスですが……彼女は元々魔法に耐性のある特異体質なのかもしれません」
「HAHAHA! 良いノリしてるぜ、銀髪の彼女! そう! 世の中ってのは案外ノリでなんとかなっちまうもんなのさ!」
ディーデイーさんの上機嫌な言葉が耳に入ってきますが、わたくしとしてはそれどころではありません。魔法が通用しないのであれば、戦い方を練り直さなければなりません。
「考える隙は与えねえ!」
「しまった⁉」
アナスタシアさんがわたくしの懐に入ってきます。わたくしはガードしようとします。
「……まとめてケリをつけよう、『龍王烈火拳』‼」
「「⁉」」
ソウリュウさんの拳から放たれた赤いドラゴンのような形状をした衝撃波がわたくしとアナスタシアさんを襲います。
「『怒土百々』!」
わたくしは地面を砕き、跳ね上がったいくつかの土塊で衝撃波をなんとか凌ぎます。
「何⁉」
「えっ⁉」
技を繰り出したソウリュウさんもわたくしも驚きます。アナスタシアさんが腕組みをしたまま、ソウリュウさんの攻撃を耐えてみせたのです。
「……『根性』!」
「わ、技を出したみたいに言うな! 単なるやせ我慢だろう! 次こそ決める!」
「ソウリュウがドラゴンと化して、アナスタシアとティエラに迫る!」
「未来ある若人たちがこれ以上潰し合うのは忍びない……『剛拳』!」
「「「⁉」」」
「おおっと、沈黙を保っていたラティウスがその剛腕を一振り! 凄まじい衝撃波が発生! リングの半分を覆い尽くす!」
「HAHAHA! まったくクレイジーなおっさんだぜ!」
「ど、どうなった……? 煙が晴れていく……おっと⁉ アナスタシアとソウリュウがリング外に! ティエラがかろうじてリング上に残っている! こ、これは一体?」
「記録した映像を巻き戻して確認します……」
「え、そ、そんな事が出来るんですか?」
「……確認終了しました。ラティウス選手の一撃をほとんど無防備だったアナスタシア選手と、警戒薄だったソウリュウ選手がまともに喰らってしまい、リング外に吹き飛ばされました。一方、寸前で気付いたティエラ選手は土系統の魔法を繰り出して、バリアのようなものを発生させ、衝撃を幾分緩和することに成功した模様です」
「そ、そうですか……」
「HAHAHA! まさかそんな便利な機能があるだなんて、お姉ちゃんを一家に一人は欲しいところだね!」
「ご注文はアルバートエレクトロニクスまでお願いします。やや値が張りますが……」
「HAHAHA! 褒めてもディスカウントされないか! 参ったね、これは!」
「ディーディーさん、ちょっと黙っていて下さい! 審判が駆け寄るぞ!」
「アナスタシア、ソウリュウ、敗北! よって、ラティウス、ティエラ、勝利!」
「審判の宣告が出ました! ……ということはこの時点で、準決勝Bブロックの勝者はチーム『剛腕』、『悪役令嬢』に決定! この2チームが明日の決勝に進出です!」
実況の方が興奮気味にアナウンスし、会場が大いに沸きたちます。ラティウスさんがわたくしに話しかけてきます。
「ガーニ家の御令嬢がここまでやるとは正直驚きだ」
「むしろ卿の剛力に驚かされました……」
「はっはっは、流人生活で少々鍛え過ぎたかな? 明日もよろしく」
「お、お手柔らかにお願いしますわ……」
ラティウスさんが去った後、力果てたわたくしはリングに寝転がりました。
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