「お疲れ様でした」
わたくしは控室に戻ってきたシルヴァンさんを労います。
「面目ない、準決勝に続いて1ポイントとは……」
「いえ、ガルシアさんに3ポイント奪われなかっただけ上々です」
「そう言ってもらえると助かるよ……うっ」
シルヴァンさんがお腹のあたりを抑えます。
「早く医務室へ」
「いや、その前に……大将戦についての考えを聞きたい……一体どのような作戦を考えているんだい?」
「それは……まあ、流れに任せてというか……」
「それはどうかと思うよ」
「同感だ」
シルヴァンさんがわたくしの曖昧な返答を切って捨て、ルッカさんも同調します。
「で、では、どうすれば? もちろんわたくしなりに分析してみましたが、大将戦のメンバーの中でわたくしが一段も二段も格が落ちます」
「……現状ポイントは4チームとも3ポイントで横一線だ。つまり焦ってポイントを取りに行く必要はないってことだ」
「ふむ……」
シルヴァンさんの言葉にわたくしは頷きます。ルッカさんが口を開きます。
「まずは様子見が最善手だと思うぜ、不用意に動いた方が負ける」
「や、やはり、そうでしょうか?」
「見たところサムライもそこまで積極的に行く方じゃねえ、剛腕のおっさんもドンと構えるタイプだ、動きが読めねえのがあの覆面だが……まあ、リスクは冒さないんじゃねえか?」
「なるほど……」
わたくしはルッカさんの分析に頷きます。シルヴァンさんが再び口を開きます。
「あの覆面が鍵を握ってくるだろうね。まずあの選手に注意を払った方が良いと思うよ」
「う~ん、謎が多い選手なのですよね……ここまで見てきて水系統の魔法の使い手だということくらいしか分かりません」
「その魔法もほぼ一種類しか使っていねえしな」
ルッカさんが肩を竦めます。シルヴァンさんが腕を組んで呟きます。
「一番底が知れない選手だということか……それでもあのサムライの剣技やラティアス卿の剛腕を凌駕するものを持っているとまでは思えないけども」
「……」
わたくしは心の中で『ポーズ』と唱え、続けて『ヘルプ』と唱えました。聞き覚えのある女性の声が脳内に聞こえてきます。
♢
「はい、こちら転生者派遣センターのアヤコ=ダテニです。なにかお困りですか?」
「ティエラです。度々すみません、ご相談したいことがありまして……」
「大将戦の作戦ですか?」
「す、凄い! よく分かりましたね」
「大体の予想はつきます……」
「どうすればいいでしょうか?」
「私は格闘技の専門家ではありませんので……」
「わたくし、今、迷っているのです」
「聞いていませんね、こちらの話」
「当初はなんとなくその場の流れで戦おうという作戦を立てていたのですが……」
「それはまた……作戦と呼ぶのもおこがましいお考えですね」
アヤコさんが呆れたように呟きます。
「そうですか?」
「そうですよ、実質ノープランみたいなものじゃないですか」
「作戦が無いのが作戦! みたいな……」
「正気の沙汰とは思えません」
「き、厳しいことをおっしゃいますね」
「真面目にお話を伺っている証です」
「チームのお二人からは反対されまして……お二人は揃って、慎重策をとるべきだと……」
「賢明なお考えだと思います」
「アヤコさんはどうお考えですか?」
「そうですね……下手に動くと、もしかすると、三人と順番に戦うことになりかねません。それこそ、その場の流れでね」
「三人と順に……」
「全員を倒さなければ優勝は出来ないわけですから。しかし、その場合、とても体力が持つとは思えませんね」
「そうですよね……」
「ですが、結局のところは……」
「え?」
「ティエラ様がどうされたいかということだと思います。迷ったのならご自身の直感に従うのが良いかと。その世界で多少なりとも経験を積まれてこられたわけですし」
「それは……」
「私から言えるのはこれくらいですね……すみません、他の相談者の方が待っておられますので、この辺で失礼します。ご健闘をお祈りしています」
「あ、ありがとうございます……『ポーズ解除』」
♢
「おい、大丈夫かよ? いきなりボーっとして?」
「あ、ああ、ルッカさん、大丈夫です。シルヴァンさんは?」
「医務室に行ったよ。あそこからでも試合は見られるからな」
「そうですか、あ、そろそろ時間ですね、それでは行って参ります」
わたくしはリングに向かいます。
「さあ、いよいよ大将戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「チーム『悪役令嬢』、ティエラ選手、意気込みをお願いします……」
「……ここまで来たら優勝あるのみです!」
「……元気の良いお言葉ありがとうございます……次、お願いします」
「はい! チーム『剛腕』、ラティウス選手、意気込みの程をお願いします!」
「幾多の苦難を乗り越えここまで来た……後は栄光を取り戻すだけだ」
「ありがとうございます! 次、お願いします!」
「は、はい! チーム『武士と戦士と騎士』、モ、モンジュウロウ選手、意気込みを!」
「相手にとって不足無し……全力で臨む!」
「と、とても力強いコメントを頂きました! つ、次、お願いします!」
「はい~チーム『覆面と兄弟』、匿名希望選手、今どんな感じ~?」
「……いい感じだ」
「おっ、ちょっとノリ合わせてくれたね~じゃあ、お返ししま~す」
「さあ四人がリングに上がろうとしています……解説は昨日惜しくも敗退したチーム『赤点』のアンナさんとチーム『龍と虎と鳳凰』のソウリュウさんにお願いしています。まずはアンナさん、この大将戦、どう見ますか?」
「そうですね……恐らく慎重な立ち上がりになるでしょうね」
「慎重ですか?」
「ええ、これが最後の試合ですから、少しのミスが敗北に直結するわけです。よって大胆な策は取りにくいのではないかと」
「なるほど……ソウリュウさんはいかがでしょうか?」
「概ね同意見だ。まずは我慢比べになるだろうな……」
「そうですか……ううっ」
「ど、どうした、急に泣き出して?」
「い、いや、決勝は皆さんまともな解説をして下さってありがたいなと……」
「泣くほど辛かったのか……」
「色々とお疲れ様です。ハンカチをどうぞ」
「どうも……四人がリングに上がった! 審判が開始の合図を出しました!」
「はっ!」
「「「!」」」
「お、おっと! ティエラがいきなり動いたぞ!」
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