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「さあ! いよいよ始まります! 『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝! このクーゲカのコロシアムに詰め掛けた大観衆のボルテージも最高潮であります!」
「うおおおおっ!」
拡声器と呼ばれる道具を使って叫ぶ男性――実況アナウンサーと呼ばれる方だそうです――に呼応し、観衆の皆さんが怒号のようなうなり声を上げられます。コロシアムが激しく揺れるのをわたくしはリングに通じる通路で感じます。
「あらためて、試合形式を確認します! 1チーム1人ずつリングに上がり、4人で行うバトルロイヤルに臨みます! リングアウトや戦闘不能状態に陥った場合や目潰しや急所を狙った攻撃を行った場合などは負けとみなします! 4人の内、最後まで勝ち残っていた選手に3ポイント、次いで2ポイント、1ポイント、0ポイントとなります。計3試合行い、合計ポイントで争います! 1回戦、準決勝は上位2チームが勝ち残れます!」
「ごたくはいいから早く始めろ!」
「そうだ、そうだ!」
「お、おっと、観客の方々は早くもヒートアップしております! えっと……あ、準備出来た? ご、ごほん、それでは皆様お待ちかね! 『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝、1回戦Aブロック先鋒戦、選手の入場です‼」
「おおおおおっ!」
「まずは北口ゲートから入場は、チーム『三国一』、はるか東方にあるという島国からやってきた強さを追いかける求道者、コウだ! リポーターのマールさん、お願いします」
「はい、こちらマールです……。コウ選手、意気込みをお願いします……」
「い、いや、特にないな……」
リポーターと呼ばれる黒髪の女性からの問いに、ボロボロな服装をした男性が戸惑いながら答えます。顔つきなどから判断するに、確かに東方から来た方のようです。
「この大会に参加した目的は? やはり富や名声ですか?」
「ちょ、直接的だな⁉ じ、自分はただ純粋に強さを追い求めているだけだ!」
「ほう……チームメイトの方に聞いてみましょうか? 実際どうなのでしょうか?」
「……カッコつけているけど、ただの食い逃げ犯よ、コイツは!」
深いスリットの入ったドレスを着た女性が大声を上げます。男性が慌てます。
「ひ、人聞きの悪いことを言うな! 出世払いだと言っているだろう!」
「そんなの待っていられないわよ!」
「と、とにかく……勝つ以外にない!」
コウと呼ばれた男性は精悍な顔つきに戻り、力強く宣言されました。
「では、次は東口ゲートから入場の、チーム『バウンティハンター』、賞金稼ぎとして名高い、コスタ兄弟の兄、ダビドだ! リポーターのシャクさん、お願いします」
「はい! こちらシャクです! ダビド選手、意気込みの程ををお願いします!」
「……そんなことより、君の青い髪、とっても素敵だね……」
「あ、ありがとうございます……」
「この後空いてる? どうだい、食事でも? ギャンブルで大勝ちして、金はあるんだ」
「え、えっと……ある意味やる気は十分なようで……お、お返しします!」
金髪に中折れ帽子を斜めに被った男性に迫られ、真面目そうな女性は困惑しています。
「つ、続いて、南口ゲートから入場は、チーム『ボイジャー』、屈強な海の男、グラハムだ! リポーターのヌーブさん、よろしくお願いします」
「は、はい! こ、こちらヌーブです! グ、グラハム選手、意気込みを!」
「……」
見るからに屈強な肉体をした大柄で褐色の男性は目を閉じて黙り込んでおられます。これには赤髪の女性が戸惑ってしまいます。
「あ、あの? な、なにか一言お願い出来ないでしょうか……?」
「……乗りかかった舟だ、やるからには負けない……」
「じ、自信ありのコメント頂きました! お、お返しします!」
「最後に、西口ゲートから入場は、チーム『悪役令嬢』、あの悪名高いガー二家の令嬢、ティエラ=ガー二がこの首都のコロシアムに堂々と殴り込みだ! リポーターのフルカさん、お願いします!」
「はい~こちらフルカ~。ティエラちゃん、意気込み適当によろしく~」
「わ、わたくしだけ扱いが雑じゃありませんか⁉」
「そんなことないって~」
白髪の女性が気怠そうにわたくしに拡声器を向けてきます。
「と、とにかく、わたくしは優勝しか見えていません!」
「おっ! 大胆な発言だね~」
「ふざけんな!」
「お前なんか負けちまえ!」
観客席から罵声が聞こえてきます。
「ある意味、人気ナンバーワンだね~」
「……気にしておりません」
「クールだね~じゃあ、お返ししま~す」
「さあ、四人がリングに上がりました……審判が今、開始の合図を出しました!」
(色々なパターンが想定出来ますが、わたくしが御三方側だったら、まず考えるのは!)
「女を倒すのは気が進まんが……」
「かわいいお姉さん、悪いけど先に退場してもらうぜ♪」
「……悪く思うなよ」
(まあ、そうなりますわね!)
三人の男性がわたくしに向かってきました。
(リングは結構広いですが、三人相手には逃げきれない! ここは!)
「コウ、ダビド、グラハムの三人がまずはティエラ潰しに動いたぞ! おっと、ティエラがなにやら構えを取ったぞ!」
「土墾慕!」
「⁉ おおっと、ティエラ、目にも止まらぬ速さで技を繰り出した!」
(多対一用のこの試合形式にもっとも適している技! 手応えはあった……⁉)
わたくしは目を疑いました。三人が無傷でその場に立っていたからです。
「そ、そんな……⁉」
「悪くない連撃だったが、少し軽いな……」
「!」
いつの間にか、わたくしの近くにコウさんが立っていました。わたくしより一回り大きいコウさんがわたくしよりも体勢を低くされます。
「腹を狙うぞ! しっかり防げ!」
「わ、わざわざ予告⁉ 舐めないで下さる⁉ っぐお⁉」
わたくしは咄嗟に腹部のガードを固めます。しかし、コウさんの放った拳はわたくしのガードをものともしない威力でした。わたくしは後方に吹っ飛ばされてしまいます。
「この『青天拳』はそう簡単に防げるものではない……」
「ぐっ……」
かろうじて受け身を取ったわたくしは、なんとか立ち上がります。
「おいおい、女の子相手にマジになり過ぎだろう?」
「覚悟を持った相手に手を抜くのはかえって失礼というものだ……」
「あ~そういう価値観? おたく、俺とは合わないね~。えっと、ティエラちゃんだっけ? 悪いことは言わないからギブアップしなよ」
ダビドさんは帽子を抑えながら、わたくしに提案をしてこられます。
「お、お断りします!」
「しょうがねえなあ……ちょっとビビらすか、『ストレート』!」
「なっ! ト、トランプのカードが鋭利な刃物の様に……⁉」
投じられた5枚のカードがわたくしの手足の服を切り裂きます。
(距離を取らないと! はっ⁉)
「生きていれば、同じくらいか……『サイクロンラリアット』!」
「ぐはっ!」
グラハムさんが繰り出した技を喰らい、わたくしはあっけなくリング外に吹き飛ばされてしまいました。審判さんが告げます。
「ティエラ、敗北! 0ポイント!」
「ま、負けた……⁉」
リングの下で大の字になりながら、わたくしは愕然としてしまいました。
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