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「それでは皆様お待ちかね! 『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝、1回戦Cブロック先鋒戦、選手の入場です‼」
「おおおおおっ!」
「まずは北口ゲートから入場は、チーム『武士と戦士と騎士』、遥か東方の島国からやってきたサムライ、モンジュウロウだ! リポーターのマールさん、お願いします」
「はい、こちらマールです……。モンジュウロウ選手、意気込みをお願いします……」
「剣の道に終わりなし……この大会で腕を試させて頂く!」
リポーターさんの問いに、不思議なヘアスタイルをした男性が力強く答えます。わたくしも初めて見ましたが、メアリが言うには“チョンマゲ”という髪型だそうです。
「刀は大丈夫なのですか?」
「街の鍛冶屋で購入した模造刀に変えてある……わずかな時であれ、侍の魂とも言える刀を手放すのは気が進まないが、決まり事には従うまでだ……」
「……ご協力ありがとうございます。お返しします……」
「では、次は東口ゲートから入場の、チーム『天界』、自称死神、ウェスだ! リポーターのシャクさん、お願いします」
「はい! こちらシャクです! ウェス選手、意気込みの程ををお願いします!」
「ちょっと待て、自称とはなんだ! 我はれっきとした死神だ!」
リポーターさんに拡声器を向けられた赤髪の少女は不満気に叫びます。
「あ~そういうお年頃なのですね……」
「お主……信じていないだろう? この翼を見ろ!」
ウェスさんは背中の黒い翼をリポーターさんに見せます。翼がピクピクと動きます。
「へ~よく出来た衣装ですね……お返しします!」
「つ、続いて、南口ゲートから入場は、チーム『狐の目』、東方の妖艶なクノイチ、フジだ! リポーターのヌーブさん、よろしくお願いします」
「は、はい! こ、こちらヌーブです! フ、フジ選手、意気込みを!」
「……ふふっ、緊張している? 貴女、かわいいわね……」
クノイチとは女のニンジャを指すそうで、彼女はニンジャ特有の装束を身につけていますが、豊満な肉体を備えており、装束がはちきれそうになっているので、同性としても正直目のやり場に困ってしまいます。フジと呼ばれた女性は長く少しウェーブのかかった黒い髪を妖しげにかき上げながら、リポーターさんの頬をつんつんとされます。
「あ、ありがとうございます……そ、それで意気込みをお願い出来ますか?」
「……もうバレちゃったけど、私たちの狙いはこの国に眠る財宝なの。まあ、盗みに入っても良いんだけど、この大会の優勝者にはなんでも望むものが与えられるっていうから、じゃあ、優勝しちゃおう♪って思っているわ……」
「ど、堂々の優勝宣言を頂きました! お、お返しします!」
フジさんのコメントに会場もどよめきます。というか盗むつもりだったのですか。
「最後に、西口ゲートから入場は、チーム『赤点』、北東にある有名学園の落第生にして女番長、アナスタシアの登場だ! リポーターのフルカさん、お願いします!」
「はい~こちらフルカ~。アナスタシア選手、意気込みを適当によろしく~」
「って、なんだよ! チーム『赤点』とか落第生とかよお……」
長い銀髪に強気そうな眼差しをした女性は不満を露にします。
「……そのように申告があったんだって~チームメイトさんから」
「なに~? ったく、アーニャのやつめ、勝手なことを……まあ、任せるってアタシが言っちまったからな……」
「落第しちゃったの~?」
「正確に言えば保留状態だ……追試で合格点取る代わりにこの大会で優勝すれば、考え直してくれるらしい……正直な話、追試は厳しそうだからな……」
「ふ~ん、女番長なら、かえって箔が付くって感じだけどね~」
「アタシもそう考えたんだが、母ちゃんがうるさくてよ……うぜえって思うときもあるけど、やっぱりこの世でたった一人の肉親だからな……悲しませたくはねえからよ……」
「……綺麗な顔してるけど、彼氏とかいるの~?」
「い、いや、気になる野郎はいるけどよ……って、なんだその質問⁉」
「なんか結構喋ってくれるから流れで聞いてみた」
「プ、プライベートなことは答えねえ!」
「ちぇ、まあいいや、お返ししま~す」
「さあ、4人がリングに上がりました……審判が今、開始の合図を出しました!」
「ふん、人間ども……“炎の死神”である我が戯れに遊んでやる……!」
「ウェスが自分の身の丈以上に長い鎌を構えたぞ!」
「し、審判! あれ、アリなのか⁉」
アナスタシアさんが抗議します。
「心配するな、銀髪……これは“魂を狩る”鎌だ、無闇矢鱈に傷を付けるものではない……」
「訳分からねえこと言ってんじゃねえぞ! そろそろそういうのは卒業しな!」
「おっと!」
「なに⁉」
「アナスタシア、良い踏み込みを見せたが、ウェスが空を飛んで躱したぞ!」
「そ、その翼、マジモンだったのかよ!」
「だからさっきからそう言っておるだろう! まあ良い、落第生、貴様から始末してやる!」
「⁉」
「なっ!」
ウェスさんがアナスタシアさんとの距離をあっという間に詰め、彼女に向かって鎌を振りましたが、その間に入ったモンジュウロウさんがその攻撃を受け止めました。
「鎌使いとは興味深い! 拙者がお相手仕る! ふん! せい!」
「ちぃ!」
「モンジュウロウ、鎌を弾いて、すぐさま反撃を操り出しましたが、ウェスも後方に飛んでそれを躱しました!」
「貴様如きの剣士なぞ、幾度となく相手してきたわ!」
「まだ若いのに……なかなか壮絶な人生を……」
「だから! 我は死神! 貴様らとは生きた年月が違う! 喰らえ!」
「うおっ!」
「おおっと! ウェスの鎌から炎が噴き出たぞ!」
「ふふっ! どうだ! 容易には近づけまい!」
「ふむ……ならば……」
「なんだ……?」
「モンジュウロウ、刀をもう一本取り出したぞ!」
「ふん! なにかと思えば二刀流か! 芸のないことだ!」
「違う……」
「なんだと⁉」
「モンジュウロウ、刀をもう二本取り出し、裸足になった両足の指の間に挟んだぞ!」
「世にも珍しい、四刀流の剣技を喰らえ!」
「ば、馬鹿な! 太刀筋が読めん! ぐはっ!」
「峰打ちだ、勘弁なされよ……」
「ウェス、敗北! 0ポイント!」
「ふふふっ、お見事ね、お兄さん。殿方ってやっぱり強くなくっちゃね……」
「む……そなたは……」
フジさんが拍手をしながら、モンジュウロウさんに歩み寄りますが、モンジュウロウさんはしかめ面をして距離を取ります。
「あら、どうして離れるの? 見たところ同胞でしょう? 仲良くしましょうよ」
「くのいちと仲良くして得したことなどない……」
「あら? 損したことあるの? ならばもっと警戒するべきだったわね……」
「ぬ⁉」
「おっと! モンジュウロウが膝をついてうなだれたぞ!」
「さてと……最後は貴女ね……」
フジさんが視線を向けると……アナスタシアさんが鼻をつまんで立っていました。
「サムライのおっちゃんに何嗅がせやがった?」
「へえ? そこに気が付くとは……意外と頭が回るようね……。良いわ、教えて上げる。これは“幻惑香”というものを嗅がせたのよ。これを嗅ぐと、どんなに屈強な者でもしばらくはまともに動くことすら出来なくなるの」
「ふ~ん、オバサンの加齢臭隠しも兼ねてんのか?」
「! 生意気な小娘が! ……ぐはっ!」
フジさんが目にも止まらぬ速さで迫りましたが、アナスタシアさんの強烈なボディーブローがフジさんの腹に突き刺さりました。
「ニンジャってのはとにかく素早いってのは聞いたことがある……ただ、素直に間合いに入ってくれればこっちのもんだぜ……」
「……わ、私としたことが、安い挑発に引っかかって……」
フジさんが崩れ落ちました。
「フジ、敗北! 1ポイント!」
「ん? 1ポイント? ……まさか!」
「……ふう」
「サムライのおっちゃん⁉ 立ち上がったのか⁉ あの香を嗅いでどうやって……⁉」
モンジュウロウさんの両膝に刀が刺さっていました。
「あの程度の術にかかるとは……拙者もまだまだ未熟!」
「い、痛みで強引に目覚めたのかよ……」
「隙有り!」
「! しまっ……」
わずか一瞬の交錯でアナスタシアさんは倒れ込みます。
「アナスタシア、敗北! 2ポイント! モンジュウロウ勝利! 3ポイント!」
「モンジュウロウ! 迫力に圧されたアナスタシアの隙を見逃さず、強烈な一撃! これがサムライの実力か! Cブロック先鋒戦はチーム『武士と戦士と騎士』が勝利! ……さあ、続いては中堅戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「はい……チーム『武士と戦士と騎士』のウヌカルさん、モンジュウロウさんの戦いぶりについて一言お願い出来ますか……」
「……サムライとか言って、恰好つけているが、案外どスケベだぞ、あいつ……」
独特な民族衣装に身を包んだ小柄で藍色の髪の女性が冷めた口調でお話しされます。
「そうなのですか?」
「ああ、武者修行とか言って世界中を回って、泣かせた女は星の数ほどいる」
「……本当ですか?」
「ああ、ずっとではないが、しばらく一緒に旅しているから、よく知っている……」
「……では、何故に貴女はそのような男性と旅をしているのですか?」
「……お告げがあったからな」
「お告げですか?」
「ああ、我が一族ではお告げは絶対のものだからな……まあ、良くも悪くも、奴と一緒にいると退屈はしないが」
「……その肩に乗っているかわいらしい動物はなんでしょう?」
リポーターさんがウヌカルさんの右肩にちょこんと乗っているリスのような小さい動物を指し示します。
「これはテュロンだ」
「リスですか?」
「テュロンはテュロンだとしか言い様が無いな……どうやら私の故郷近くにしか生息していないみたいだな」
「その子もリングに上がるのですか?」
「ああ、大事な相棒だからな。一応申請はしてあるぞ、問題はないはずだ」
「そうですか……次、お願いします」
「はい! チーム『天界』のセーヴィさん! 0ポイントとかなり厳しいスタートとなってしまいましたが……」
「あの子がやらかすのは想定内です……」
「想定内ですか」
「ええ……」
リポーターさんに拡声器を向けられた白髪の小柄な女性が淡々と答えます。
「では、意気込みをお願いします!」
「死神の不始末は魔女が片付けます……」
「ああ、そういうのがお友達の間で流行っているのですね……」
「……貴女、もしかしてまだ信じていないのかしら?」
「仲が良くて羨ましいです!」
「わたくしの白い翼をご覧なさい」
「次、お願いします!」
「だからよくご覧なさいよ!」
セーヴィさんが背中の翼をパタパタとはためかせますが、リポーターさんはそれには全く目もくれません。
「は~い、西口ゲートで~す。チーム『赤点』のフレデリック選手……意気込みをどうぞってあれ? 眼鏡のあなたは次の出番じゃないの?」
「ちょっとお待ち下さい……」
グレーの長い髪で眼鏡をかけた真面目そうな女性が小瓶を取り出します。
「なにそれ?」
「少し離れて下さい……」
「え? ……はい」
「出でよ……」
小瓶から煙がもくもくと立ち込めたかと思うと、巨人の男性が姿を現しました。
「きょ、巨人⁉」
わたくしを含め、会場中が再び驚きに包まれます。
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