「くっ……やられただと⁉」
「パワードスーツ隊が行くぞ!」
パワードスーツを着た男が三人迫ってくる。
「よっしゃ! 続けて行こうか!」
「い、いやいや! さすがに無理ですよ!」
僕はアギさんの声に反発する。アギさんは首筋を抑えながら前に出る。
「しゃあないなあ……」
「え? アギさん、危ないですよ⁉」
「大丈夫、大丈夫……!」
「むっ!」
「そらそら!」
「がはっ!」
「ぐはっ‼」
「ごはっ⁉」
飛びかかったアギさんが素早く攻撃を繰り出すと、パワードスーツの男たちは倒れる。
「す、すごい……! どうやったんですか⁉」
「功夫が成せる業だよ……」
「あ、そういうのはいいですから」
僕は手を左右に振る、アギさんは唇を尖らせる。
「む……そこは素直に『功夫すごい!』って言うとこでしょ」
「そこまで純粋じゃないです」
「ああ、汚れちゃったんだね……」
「そういう言い方やめてください」
「……やりますね。さすがはドリームキャストの一員……」
「!」
スキンヘッドでガタイの良いスーツ姿の男性が現れる。
「パワードスーツの装甲が薄いところを的確に狙った攻撃……お見事です……」
「……誰ですか?」
僕はアギさんに尋ねる。
「エゲン……ギャング・イハタゲの幹部のようなものだよ」
「幹部……」
「部下たちが世話になりました……借りは返させて頂きます」
エゲンが袖まくりをする。
「はっ、武器やパワードスーツもなしでアタシに勝てると思っているの?」
「ちょうど良いハンデです……」
「言ってくれるじゃないの!」
「‼」
アギさんが一瞬でエゲンの斜め上のところまで飛ぶ。
「遅い!」
「ふん!」
「ぎゃあ!」
アギさんが鋭い蹴りをエゲンの頭部にお見舞いしたが、地面に転がったのはアギさんの方だった。アギさんは右足の甲を抑える。エゲンはそんなアギさんを見下ろしながら、自らのスキンヘッドを撫でながら、淡々と呟く。
「貴女とこうして戦うのはほぼ初めてでしたか……私の頭は岩を砕くほど固いのです……」
「ぐっ……」
「足の甲が砕けたのでは? ご自慢のスピードも活かせませんね……」
「ま、まだ、片足が残っているよ……ちょうど良いハンデだ……」
「ふん……減らず口を……!」
「ぐはっ⁉」
エゲンが思い切りアギさんを蹴とばす。アギさんが僕の方まで転がってくる。
「ア、アギさん⁉」
「だ、大丈夫、ガードはしたよ……」
アギさんは起き上がる。それでも声は苦しそうだ。
「受け身も取りましたか……さすがの格闘センスですね……さっさと終わらせます」
エゲンがこちらに向かって悠然と歩いてくる。アギさんが舌打ちする。
「ちいっ……」
「アギさん! 僕を使って下さい!」
「ええっ⁉」
「あのデリケートな部分は持ってきた手ぬぐいで覆いますから!」
僕は懐から取り出した手ぬぐいを広げて見せる。
「そ、それはこの際どうでも良いんだけど……問題はそこじゃないよ」
「え?」
「アタシは武器の類はからっきしなんだよね……」
「! そ、それなら、こういうのはどうです?」
僕はアギさんに耳打ちする。アギさんは驚く。
「そ、そんなこと出来るの?」
「多分!」
「た、多分って……まあやるしかないか!」
「はい!」
僕はローブを脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。大事な部分だけ手ぬぐいで隠してあるが。エゲンが戸惑う。
「な、なんだ……?」
「グローブとブーツと化せ!」
「了解!」
「なっ⁉」
「はあっ!」
水のグローブとブーツと化した僕を両手両足に装着したアギさんがエゲンに攻撃する。
「ぐはっ……ば、馬鹿な……」
「強烈な『打撃』ですね!」
「ああ、良い感じだよ!」
「テレスたちが言っていたのはこれか……」
「その石頭を砕く!」
「調子に乗らないで頂きたい!」
エゲンがアギさんの右腕を掴む。
「しまっ……!」
「手ぬぐいを巻いたのは失策でしたね! 睾丸の場所が丸わかりです!」
エゲンがそう叫ぶと、大きなハンマーが出現する。エゲンはそれを掴み、振りかぶる。
「アギさん、回避を!」
「遅いですよ!」
「ぐわっ⁉」
エゲンが振り回したハンマーがアギさんに当たり、アギさんが吹っ飛ぶ。エゲンが掌を広げて呟く。掌から水が流れ落ちる。
「……なるほど、私の場合は『衝撃』が使えるというわけですか……ぐっ⁉」
エゲンが左脇腹を抑える。アギさんが半身を起こして笑う。
「ふふっ、カウンターが見事に決まったね……さすがアタシ」
「ま、まさか痛めた右足で蹴りを繰り出すとは……ここは退かせてもらいます」
エゲンはその場から撤退する。倒れていたものは身柄を拘束された。その後……。
「……お疲れさまでした」
劇を終えたアギさんに僕は声をかける。
「ああ、お疲れ~♪」
「アギさんの『喜劇』、評判以上でした! なんというか、人の心の機微というものをすごく上手に捉えているというか……」
「ふふっ、いつもよく観察しているからね……」
「! パトロールはそういう意味で行っていたんですね……」
「まあ、皆と触れあうのが好きなのが一番なんだけどね。それより、ユメナムちゃん、君の根性もなかなかだよね。アタシ、気に入っちゃったよ。これからもよろしくね♪」
アギさんがウインクしてくる。どうやら認めてもらったようだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!