【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第3話(4)逆境に打ち勝つ

公開日時: 2023年8月20日(日) 00:05
文字数:2,068

「くっ……やられただと⁉」

「パワードスーツ隊が行くぞ!」

 パワードスーツを着た男が三人迫ってくる。

「よっしゃ! 続けて行こうか!」

「い、いやいや! さすがに無理ですよ!」

 僕はアギさんの声に反発する。アギさんは首筋を抑えながら前に出る。

「しゃあないなあ……」

「え? アギさん、危ないですよ⁉」

「大丈夫、大丈夫……!」

「むっ!」

「そらそら!」

「がはっ!」

「ぐはっ‼」

「ごはっ⁉」

 飛びかかったアギさんが素早く攻撃を繰り出すと、パワードスーツの男たちは倒れる。

「す、すごい……! どうやったんですか⁉」

「功夫が成せる業だよ……」

「あ、そういうのはいいですから」

 僕は手を左右に振る、アギさんは唇を尖らせる。

「む……そこは素直に『功夫すごい!』って言うとこでしょ」

「そこまで純粋じゃないです」

「ああ、汚れちゃったんだね……」

「そういう言い方やめてください」

「……やりますね。さすがはドリームキャストの一員……」

「!」

 スキンヘッドでガタイの良いスーツ姿の男性が現れる。

「パワードスーツの装甲が薄いところを的確に狙った攻撃……お見事です……」

「……誰ですか?」

 僕はアギさんに尋ねる。

「エゲン……ギャング・イハタゲの幹部のようなものだよ」

「幹部……」

「部下たちが世話になりました……借りは返させて頂きます」

 エゲンが袖まくりをする。

「はっ、武器やパワードスーツもなしでアタシに勝てると思っているの?」

「ちょうど良いハンデです……」

「言ってくれるじゃないの!」

「‼」

 アギさんが一瞬でエゲンの斜め上のところまで飛ぶ。

「遅い!」

「ふん!」

「ぎゃあ!」

 アギさんが鋭い蹴りをエゲンの頭部にお見舞いしたが、地面に転がったのはアギさんの方だった。アギさんは右足の甲を抑える。エゲンはそんなアギさんを見下ろしながら、自らのスキンヘッドを撫でながら、淡々と呟く。

「貴女とこうして戦うのはほぼ初めてでしたか……私の頭は岩を砕くほど固いのです……」

「ぐっ……」

「足の甲が砕けたのでは? ご自慢のスピードも活かせませんね……」

「ま、まだ、片足が残っているよ……ちょうど良いハンデだ……」

「ふん……減らず口を……!」

「ぐはっ⁉」

 エゲンが思い切りアギさんを蹴とばす。アギさんが僕の方まで転がってくる。

「ア、アギさん⁉」

「だ、大丈夫、ガードはしたよ……」

 アギさんは起き上がる。それでも声は苦しそうだ。

「受け身も取りましたか……さすがの格闘センスですね……さっさと終わらせます」

 エゲンがこちらに向かって悠然と歩いてくる。アギさんが舌打ちする。

「ちいっ……」

「アギさん! 僕を使って下さい!」

「ええっ⁉」

「あのデリケートな部分は持ってきた手ぬぐいで覆いますから!」

 僕は懐から取り出した手ぬぐいを広げて見せる。

「そ、それはこの際どうでも良いんだけど……問題はそこじゃないよ」

「え?」

「アタシは武器の類はからっきしなんだよね……」

「! そ、それなら、こういうのはどうです?」

 僕はアギさんに耳打ちする。アギさんは驚く。

「そ、そんなこと出来るの?」

「多分!」

「た、多分って……まあやるしかないか!」

「はい!」

 僕はローブを脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。大事な部分だけ手ぬぐいで隠してあるが。エゲンが戸惑う。

「な、なんだ……?」

「グローブとブーツと化せ!」

「了解!」

「なっ⁉」

「はあっ!」

 水のグローブとブーツと化した僕を両手両足に装着したアギさんがエゲンに攻撃する。

「ぐはっ……ば、馬鹿な……」

「強烈な『打撃』ですね!」

「ああ、良い感じだよ!」

「テレスたちが言っていたのはこれか……」

「その石頭を砕く!」

「調子に乗らないで頂きたい!」

 エゲンがアギさんの右腕を掴む。

「しまっ……!」

「手ぬぐいを巻いたのは失策でしたね! 睾丸の場所が丸わかりです!」

 エゲンがそう叫ぶと、大きなハンマーが出現する。エゲンはそれを掴み、振りかぶる。

「アギさん、回避を!」

「遅いですよ!」

「ぐわっ⁉」

 エゲンが振り回したハンマーがアギさんに当たり、アギさんが吹っ飛ぶ。エゲンが掌を広げて呟く。掌から水が流れ落ちる。

「……なるほど、私の場合は『衝撃』が使えるというわけですか……ぐっ⁉」

 エゲンが左脇腹を抑える。アギさんが半身を起こして笑う。

「ふふっ、カウンターが見事に決まったね……さすがアタシ」

「ま、まさか痛めた右足で蹴りを繰り出すとは……ここは退かせてもらいます」

 エゲンはその場から撤退する。倒れていたものは身柄を拘束された。その後……。

「……お疲れさまでした」

 劇を終えたアギさんに僕は声をかける。

「ああ、お疲れ~♪」

「アギさんの『喜劇』、評判以上でした! なんというか、人の心の機微というものをすごく上手に捉えているというか……」

「ふふっ、いつもよく観察しているからね……」

「! パトロールはそういう意味で行っていたんですね……」

「まあ、皆と触れあうのが好きなのが一番なんだけどね。それより、ユメナムちゃん、君の根性もなかなかだよね。アタシ、気に入っちゃったよ。これからもよろしくね♪」

 アギさんがウインクしてくる。どうやら認めてもらったようだ。

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