「……あそこに見えるのが山賊さんたちの根城にしている洞窟ですか?」
「ああ、報告によると間違いないよ」
物陰に身をひそめながら問いかけるわたくしに対し、シルヴァンさんが頷きます。
「成程……隠していやがるが、わずかに灯りが点いているな。騒ぎ声も聞こえてくる」
「恐らく酒盛りでもしているのだろうね」
ルッカさんの言葉にシルヴァンさんは同調します。
「人数はどれくらいだ?」
「はっきりとは分からないけど、全員で十五人くらいのようだね」
「なら、一人頭五人倒せば余裕だな」
「簡単におっしゃいますね……」
「隙を突けば楽勝だろ」
ルッカさんは事もなげに言ってのけます。
「そうは言っても……!」
「行くぜぇ!」
ルッカさんが突っ込んでいきます。まさしく隙を突いた形となって、いきなり見張りに立っていた山賊さんを二人とも殴り飛ばしました。
「な、なんだ⁉」
山賊さんたちが戸惑う声が聞こえてきます。
「殴り込みだ!」
「なっ……!」
「馬鹿、先走り過ぎだ!」
わたくしとシルヴァンさんが慌てて続きます。
「ちぃ!」
「!」
ガタイの良い山賊さんが勢いよく殴りかかってきますが、わたくしは落ち着いてその攻撃を躱します。お酒が入っているためか、少し足元がふらついているようです。わたくしはそれを見て、冷静さを持つことが出来ました。
「はっ!」
「ぐはっ!」
わたくしの放ったパンチが山賊さんの顎を正確に捉えます。山賊さんは倒れ込みます。
(イケる!)
自信を得たわたくしは次の相手に向かいます。
「どおっ!」
「⁉」
ルッカさんが倒れます。
「どこの誰だか知らんが、あんまり調子に乗るなよ、ガキが!」
「くっ……」
「オラッ……!」
倒れたルッカさんを蹴ろうとした山賊さんが崩れ落ちます。そこにはシルヴァンさんが立っていました。
「シルヴァンさん!」
「相手の方が多いのだから、囲まれやすい! その辺をもうちょっと考えなきゃ!」
「う、うるせえ!」
ルッカさんは素早く立ち上がり、シルヴァンさんの背中に背をピタリとつけます。
「へえ……背中を預けてくれるとは……信頼してくれているってことかな?」
「違えよ! 視界を限定する為だ! こうすれば、360度見る必要無えだろ!」
「ほお……意外と頭が回るんだね……」
「馬鹿にすんな!」
シルヴァンさんとルッカさんが言い合いを始めます。
「色男どもが、余裕ぶってんじゃねえぞ!」
「そらっ!」
「うおりゃ!」
「ぶはっ!」
シルヴァンさんとルッカさんが襲いかかってきた山賊さんたちを返り討ちにします。
「色男ども? 一人しか見当たらないようだけど……?」
「いちいちうるせえんだよ!」
二人は言い合いを再開します。わたくしは思わず二人を諌めます。
「お二人とも! 言い合いをしている場合ではありません!」
「女! そういうてめえもよそ見してんじゃねえ!」
「ふん!」
「どわっ!」
わたくしも向かってきた山賊さんを退けます。ほとんどの山賊さんを倒しました。
「……ふう、あらかた片付きましたか……」
「ば、馬鹿な……な、何者だ、てめえら!」
山賊さんの頭目らしき方が叫びます。
「悪党に名乗る名は無えよ」
ルッカさんが吐き捨てます。シルヴァンさんが尋ねます。
「頭目さんかな? そろそろ降参した方が良いと思うよ?」
「くそっ! お、おい、てめえの出番だ! なんとかしろ!」
頭目さんが呼びかけると、奥の方からひと際大きな男性が姿を現します。
「お、大きいね……」
「へっ! どうせ見掛けだけだろ!」
「むん!」
「どわあっ!」
「おわっ!」
大男さんに殴り掛かったルッカさんですが、殴り返されて、吹っ飛ばされ、シルヴァンさんとぶつかり、倒れ込みます。大男さんはわたくしの方に向き直ります。
「マ、マズい! 恐らく用心棒だ! ここはひとまず撤退しよう!」
シルヴァンさんが叫びます。しかし、わたくしは敢えて一歩進みます。
(ハサンさんに教わったあの動き……試してみるのは今です!)
「……」
大男さんがゆっくりと向かってきます。わたくしは教わった動きを再現します。
(下、斜め下、前、そして拳を地面に!)
「⁉」
「ええっ⁉ なにかまた凄いのが出ましたわ!」
わたくしは驚きます。拳を地面に叩きつけると、衝撃波が発生し、その衝撃波に乗って、砕けた土がいくつもの土塊となって、大男さんの大きな体にぶつかります。大男さんは仰向けに倒れ、動かなくなります。
「な⁉ こいつまでやられるとは……逃げるぞ!」
「はっ、しまった!」
「がはっ!」
わたくしたちの隙を突いて、頭目さんが逃げ出しますが、何者かによって、吹き飛ばされ、わたくしたちの近くに転がります。視線を向けると、ローブを纏い、フードで顔を隠した人物がそこに立っていました。
「あ、あなたは……?」
「……」
「⁉ ちょ、ちょっと待って! ぐっ!」
ローブの人物は無言のまま、足早にその場を立ち去りました。わたくしは引き留めようとしましたが、バランスを崩して膝を突きます。どうやら慣れない技を使って、思ったよりも消耗してしまったようです。
「大丈夫かい?」
「あ、ありがとうございます」
やや間を置いて、シルヴァンさんがわたくしの手を取って、引き起こしてくれました。
「顔も知らない元フィアンセだったけど、俄然君に興味が湧いてきたよぉっと⁉」
「あ、す、すみません……またやってしまいましたわ」
どうやらシルヴァンさんはわたくしの頭をポンポンとしようして下さったみたいですが、イケメンとのフラグを危険信号と反射的に捉えてしまうわたくしはシルヴァンさんのお腹に強烈なパンチをお見舞いしてしまいました。
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