「さあ、続いて大将戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「チーム『バウンティハンター』、ダビド選手、意気込みをお願いします……」
「頼れる弟が3ポイント取ってくれた。この流れに乗りたいところだね」
「ありがとうございます……次、お願いします」
「はい! チーム『近所の孫』、ウィリアン選手、意気込みの程をお願いします!」
「……自分は己に課せられたミッションを遂行するのみです」
「ありがとうございます! 次、お願いします!」
「は、はい! チーム『武士と戦士と騎士』、モ、モンジュウロウ選手、意気込みを!」
「……多くは語るまい、勝つだけだ」
「し、渋いコメントを頂きました! つ、次、お願いします!」
「はい~チーム『覆面と兄弟』、匿名希望選手、ぶっちゃけ今どんな感じ~?」
「……勝利しか頭に無い」
「おっ、静かな気合いがひしひしと伝わってくるね~じゃあ、お返ししま~す」
「さあ、四人がリングに上がろうとしています……解説は昨日惜しくも敗退したチーム『人間上等』のシバさんにお願いしています。シバさん、この大将戦、どう見ますか?」
「……なんで俺がこんなことしなきゃならねえんだよ!」
「まあまあ、そう言わずに……昨日の試合ではなかなか伝わらなかった獣人の方の魅力をこの会場の皆さんに伝えると思って……」
「ちっ、しょうがねえなあ……」
実況の方が立ち上がったシバさんを宥めます。シバさんは席に座ります。遠回しに馬鹿にしているような気がするのはわたくしだけでしょうか。
「では、改めて……注目選手などはいらっしゃいますか?」
「まあ、そりゃああのサムライだろうと言いたいが、あのウィリアンって奴もなかなか侮れないと思うぜ。昨日同じリングの上に立ってそれは感じた……」
「なるほど……四人がリングに上がります……審判が今、開始の合図を出しました!」
「そらっ!」
「!」
「おっと! ダビドが最初に仕掛けた! 投じたカードは鋭かったが、匿名希望、これを難なく躱してみせる!」
「……それくらい躱してもらわなきゃ困る……それっ!」
「むっ!」
「ダビド、間髪入れず、ウィリアンに向かってカードを投げつけるが、これもウィリアンが簡単に回避する! ダビド、勝負を焦っているのか⁉」
「いや、狙い通りだ……」
「えっ⁉ シバさん、どういうことでしょうか?」
「見てみろよ」
「! こ、これは、匿名希望とウィリアンがかなり接近している! 激突は必至!」
「あの白スーツ、上手く誘導しやがった……」
「はっ!」
「くっ!」
匿名希望さんが近距離で水の魔法を放ちますが、ウィリアンさんがこれを躱します。お互いが少し距離を取って対峙します。
「そのまま潰し合ってくれ! さてと!」
「ぬっ!」
「『ストレート』!」
「甘い!」
「ダビド、モンジュウロウに向かって5枚のカードを投じたが、モンジュウロウ、これを刀で斬り捨てる! これは意外な展開だ!」
「あえてサムライに勝負に行きやがったか……へっ、嫌いじゃねえぜ」
シバさんが腕を組んで笑みを浮かべます。
「……確かに少々意外でござったな……」
「もっと小ズルく立ち回ると思ったかい? それもアリっちゃアリなんだが、決勝のことを考えると、アンタらにはここで消えてもらいたいと思ってね!」
「その勝負受けて立つ!」
「喰らいな! 『ストレートフラッシュ』!」
「むっ⁉ 真っ直ぐな軌道と放物線が混じって……ぐぅ!」
「ダビドのカードを躱しきれず、モンジュウロウ、片膝をつく!」
「へっ、格好つけて一本の刀で戦っている場合じゃないだろう! 四刀流で戦った方が身のためだと思うぜ!」
「……御忠告痛み入る」
「モンジュウロウが四本の刀を構えたぞ!」
これが見たかったとばかりに会場も盛り上がります。
「そうこなくっちゃな……行くぜ! 『ロイヤルストレートフラッシュ』!」
「! 先ほどよりも格段に速さと威力が上がっている!」
「しかもカードは5枚だ、四本の刀でどう防ぐ……って⁉」
ダビドさんだけでなく、会場中が驚きました。モンジュウロウさんが五本目の刀を口に加えて、ダビドさんの投じた五枚のカードを切り捨てたのです。
「……」
「そ、そんなバカな……五刀流だと?」
「ふぉんとうるーとふあっきりだんでんしたおもえはない……」
「えっ、何だって⁉ フガフガしてて、何言っているか分かんねえよ!」
「ふきはり!」
「がはっ⁉」
「おおっと! モンジュウロウ、一瞬の隙を突いて、ダビドを倒した!」
「ダビド、敗北! 0ポイント!」
「……五本目も用いたのは久々でござる。世界はやはり広い……さて……むっ」
「ああっと、ウィリアンが鋭い出足で匿名希望の両手両足を抑え込んだ!」
ウィリアンさんが匿名希望さんのマウントを取る形になります。
「距離ばかり取ると、水の魔法が厄介ですからね。こうして両手両足を抑えたら、魔法も使えないはずでしょう!」
「……だ」
「えっ、なんですか? 降参ですか? って⁉」
「⁉」
再び会場中が驚きました。匿名希望さんが顔を近づけたウィリアンさんに口づけをしたのです。覆面越しとは言え、大胆というか、意味の分からない行為に何人かの女性客からは悲鳴が上がります。
「ぐっ⁉ うおお……」
「ウィリアン、突然苦しみ出し、リングアウトした! おっと、水を吐いている⁉」
「口移しで水を大量に流し込みやがったんだ……なかなかエグいことしやがるな」
シバさんが顔をしかめます。
「出来れば使いたくはない技だったが致し方ない……」
匿名希望さんがゆっくりと立ち上がり小声で何やら呟きます。
「ウィリアン、敗北! 1ポイント!」
「……ということはこの時点で、準決勝Aブロックの勝者はチーム『武士と戦士と騎士』、『覆面と兄弟』に決定! 2チームが決勝に進出です!」
実況の方が興奮気味にアナウンスし、会場が大いに沸きます。モンジュウロウさんが匿名希望さんに近寄り、何やら言葉をかけています。
「そのような魔法の使い方があるとは……なかなか常識外れでござるな」
「刀を口にくわえる奴にだけは言われたくはない……」
「はっはっは! それもそうでござるな! 決勝でお手合わせ願いたいものです、それではお先に失礼仕る!」
豪快な笑い声を上げ、モンジュウロウさんは悠然とリングから降ります。
「……」
それとは対照的に匿名希望さんは静かにリングを降ります。
「さあ、続いては準決勝Bブロックです! 明日の決勝に進む残りの2チームは果たしてどのチームになるのか! 皆様、開始までしばらくお待ちください!」
「さて、わたくしたちの出番ですか……」
わたくしは立ち上がり、ルッカさんたちとともに控室に向かいます。
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