「これで4チームとも、3ポイントで横一線だな」
わたくしの二つ隣の席に座るシルヴァンさんが呟きます。
「え? そうか……あ、マジだ」
わたくしとシルヴァンさんの間に座るルッカさんもポイントを指折り数え納得します。
「どのチームが勝ち上がるでしょうか?」
メアリがわたくしに尋ねてきます。
「そうですね、どうなるでしょうか……」
「すでにエース格のモニカ嬢を出してしまったチーム『バウンティハンター』は厳しそうだな、しかも彼女が0ポイントだったのも厳しい」
シルヴァンさんがご自身の考えを述べます。ルッカさんがそれに反応します。
「あの白スーツのダビドって奴のカードさばきはなかなかだと思うけどな」
「わたくしも体感しましたが、あのカードは見えないです……しかも鋭利な刃物のような鋭さと石が当たったかのような重さを兼ね備えています」
「そういや1回戦で当たったんだったな」
「貴重な体験談だね。確かに考えてみれば1回戦では底を見せていなかった。コウとは戦わずに自らリングを降りたからね。なんというか……そういう勝負勘がある男が勝利にこだわったらどうなるかは分からないところがある」
シルヴァンさんはこくこくと頷きます。
「厳しいつったら、チーム『覆面と兄弟』だろう。あの覆面、水の魔法をそれなりに使えるみてえだが、一人はともかく、二人を倒せるとは思えねえぜ」
「ああ、そう言われるとそうですね、皆勝ち抜くためには、自分以外の誰か二人を倒さないといけないのですね」
ルッカさんの言葉にわたくしは頷きます。
「誰かが潰し合ってくれれば楽になるが……それは皆考えることだろうな。案外、その辺りの駆け引きが上手そうなのはダビドか、これは『バウンティハンター』の勝ち抜けもありえそうだな」
「おいおい、さっきと言っていることが変わっているじゃねえかよ」
「検討しているんだよ、考える材料が増えれば、導き出す結果も自ずと変わってくる」
ルッカさんの茶々もシルヴァンさんは冷静にあしらいます。
「潰し合わせるとなると誰と誰でしょうか?」
「それはチーム『武士と戦士と騎士』のモンジュウロウとチーム『近所の孫』のウィリアンだろうね。1回戦全体を見回しても、この二名はかなりの実力者なんじゃないかな」
わたくしの問いにシルヴァンさんが答えます。
「俺は剣術に関してはは少しかじったくらいだが、四刀流ってのはかなり無茶苦茶だよな、今まで見たことも聞いたこともねえよ」
ルッカさんが笑います。
「それについては同感だ。あの太刀筋に対応するのは困難だろう。正面切って戦うのは出来る限り避けたいね」
シルヴァンさんも笑みを浮かべます。
「しかし、ダビドさんが上手くそこをウィリアンさんとの激突に誘導していく……という流れでしょうか?」
「まあ、そうなるだろうね」
わたくしの問いかけにシルヴァンさんが頷きます。
「あのウィリアンさんという方、1回戦ではあの凶暴かつ極悪非道なガルシアさんを抑え込んでおられました。細身なのに凄いなと思いました」
「ガルシアさんへの印象最悪ですね、メアリ……。それはともかく、確かに一瞬の早業でしたね、あれはどういう体術なのでしょう?」
「軍人とかなんとか言ってなかったか?」
「そうらしいね、どうやら気の毒なことに記憶喪失らしいけど。俺も詳しくはないが、軍隊格闘術の一種じゃないかな」
「どこの軍隊だよ?」
「だからそこまでは分からないよ。ただ、実力の底を見せていないという点では、彼もまたそのような印象を受けるね」
シルヴァンさんは淡々と話します。ルッカさんが腕を組んで呟きます。
「待てよ、そうなると……段々覆面の奴も怪しくなってきたな」
「考えを変えるのかい?」
「よくよく考えてみたら不気味な存在だと思わねえか?」
「不気味というか怪しいとは思っているよ。よくよく考えなくても」
「何か奥の手を残しているということですか?」
わたくしはルッカさんに尋ねます。ルッカさんは首を傾げながら答えます。
「いや、それはどうか分からねえけど……あのいけ好かねえサタア兄弟の奴らが二試合連続で大将に据えているんだ、何かあるんじゃねえか?」
「いけ好かねえって……」
わたくしは苦笑します。シルヴァンさんが顎に手をやって呟きます。
「……確かにサタア兄弟が大将を譲っているのは少し気になるね。チームとしての戦略もあるのかもしれないけど」
「あいつらに戦略なんて御大層なもんねえだろう」
「君にそんなことを言われるのは、彼らにとっても心外だろうな……」
「あんだと?」
「け、喧嘩はやめて下さいよ……」
わたくしはルッカさんを宥めます。シルヴァンさんがため息交じりに呟きます。
「……とにかく言えるのは、あの兄弟以上の魔法の使い手だってことだろう」
わたくしは心の中で『ポーズ』と唱え、続けて『ヘルプ』と唱えます。
♢
「どう思われます?」
「いや、私は予想屋のおじさんではないのですが……」
アヤコさんが戸惑っておられます。
「参考までに意見を伺いたいのです」
「……格闘技に精通しているわけではないので」
「思いつきでも構いません」
「……純粋な戦闘力だけ見るならば、モンジュウロウさんとウィリアンさんが優位なのではないでしょうか……ですが……」
「ですが?」
「ここまでのこの大会を見る限り、実力者がそのまま勝っているわけではありません。互いの相性や戦いの流れというものもあるでしょう」
「互いの相性、戦いの流れ……」
わたくしはアヤコさんの言葉を反芻します。
「よって、残りのお二人にも十分勝機はあるでしょう。そんなことよりいいのですか?」
「何がですか?」
わたくしの問いかけにアヤコさんはため息をついてから答えます。
「……観戦するのは結構ですが、大事なのはこの後の皆さん自身の戦いのことですよ。対策などは立てなくていいのですか?」
「まあ、対策を全く立てていないわけではないのですが……正直、わたくしたちに戦略などあってないようなものですからね」
「そんな調子で大丈夫なのですか?」
「後は野となれ山となれです」
「ひ、開き直っていますね……まあ、かえってその方が良いかもしれませんが」
「ありがとうございます」
「別に褒めてはいませんが」
「お話が出来て、少し気分が楽になりました」
「それは何よりです。御健闘を祈っております……すみませんがそろそろ失礼します」
♢
「……」
「……お嬢様?」
「はい?」
「そろそろ大将戦が始まりますよ」
「ああ、そのようですね」
わたくしはリングに注目します。
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