「さて、西の塔は私たちが攻略担当ですね。張り切っていきましょう!」
マイクが『魔法>科学』と『近所の孫』の二チームの五人に声をかける。
「強力な障壁魔法を塔の周囲に感知……外部からの破壊工作は難しいと思われます」
塔を見たヴァレンティナが報告する。レイが反応する。
「バリアノヨウナモノヲテンカイシテイルノカ、キョウミブカイナ……」
「あんたたちの方がよっぽど興味深いけどね……」
シャーロットが小声で呟く。
「塔か……うっ!」
塔を見上げたウィリアンが頭を抑える。ジェーンが声をかける。
「ウィリアンさん、大丈夫ですか?」
「え、ええ、少し頭痛がしただけです……すみません……」
「それでは、塔の中に入りましょう!」
「おお~っと、今ちょうど『魔法>科学』と『近所の孫』の二チームが塔に入るところに間に合ったよ~頑張ってね~」
「リポーターのフルカさん……他の塔への情報中継を担ってくれています」
「各自がそれぞれに出来ることをこなしているのね……」
ヴァレンティナの言葉にシャーロットが頷く。
「突入します!」
ウィリアンを先頭に六人が塔の内部に入る。
「む⁉ 黒い影……?」
塔の内部には黒い影が多数蠢いている。マイクが杖を構えながら首を傾げる。
「人の生命力を吸収したことによって出来上がった影……ハサン氏の情報によると、この塔の警備兵のようなものだそうです」
ヴァレンティナが情報を伝える。シャーロットが尋ねる。
「倒しても問題ないのよね?」
「ええ、問題ないとのことです」
「よし! このシャーロットのバリツを喰らいなさい!」
シャーロットが影の群れに突っ込んでいく。ジェーンが慌てる。
「シャ、シャーロット!」
「自分が援護します!」
ウィリアンがその後に続き、巧みな体術を駆使して影を撃退していく。
「はっ! ……動き方から判断するに、軍隊格闘術だと思われますが、該当する軍隊がありません……どこか秘密部隊の所属でしょうか……」
「フン! ……キオクソウシツダトイウガ、カラダハウゴキヲワスレテイナイヨウダナ……ヒジョウニキニナルソンザイダ」
「味方の詮索よりまずは敵の撃退を優先して下さい!」
今にも分析を始めそうなヴァレンティナとレイに対し、ジェーンが声を上げる。
「影にはこれです。『栄光』!」
「!」
マイクが杖をかざすと、先端から眩い光が放たれ、影の群れが霧消する。
「この階層は片付きましたね! 上の階層に向かいましょう!」
いくつかの階層を経て、多くの影を撃波すると、一番上の階層にたどり着く。
「どうやらここが最上階層のようね……」
シャーロットが呟く。
「へえ……ここまでたどり着くとはな」
「だ、誰⁉」
奥の方から虫の顔をした人型の生物が歩いてくる。
「む、虫⁉」
「ク、クワガタだ!」
マイクが少年のように目をキラキラとさせて声を上げる。シャーロットが呆れる。
「なんでちょっと嬉しそうなのよ……」
「それも無理もないでしょう! あの立派な顎を見て下さい!」
「え? あれは二本の角じゃないの?」
「それはカブトムシですよ!」
「知らないわよ! だからなんでテンション上がっているのよ⁉」
「あれを見て心が躍る人はこの世に沢山いますよ!」
「ソウナノカ?」
「人によります……私は当てはまりませんが」
レイの質問にジェーンが若干顔をしかめながら答える。シャーロットが問いかける。
「まあ、それはいいわ。貴方、何者なの?」
「俺の名はリュカヌ。そっちのとんがり帽子の言う通りクワガタの虫人だ」
「ちゅ、虫人?」
「獣人とか鳥人とか、魚人とかいるだろう? あれの虫版だよ」
リュカヌと名乗った者はざっくりと説明する。シャーロットが顎に手を当てる。
「そういう種族もいるのね……初めて知ったわ」
「極めて稀少な種族だそうです」
ヴァレンティナが呟く。シャーロットが尋ねる。
「そんなレアな御方が何故ここに?」
「俺ら虫人は人間どもに熱狂的に好かれたり、その一方で徹底的に嫌われたりと、色々あってね……その中間が無いんだよ、ちょうどいいっていう状態がさ……」
「……つまりは平穏が欲しいと?」
シャーロットをリュカヌが指差す。
「なかなか鋭いね、嬢ちゃん。そういうことだ、俺は種の保存の為にも一族にとって平穏な世界、居場所を望んでいる……この塔で番人として働けば、そんな世界を作り上げることも可能だって趣旨の求人情報を偶然見かけてね」
「ちょっと待って、求人情報⁉」
「連絡してみたら面接があって……」
「面接⁉ 誰と⁉」
「結果……古の八闘士の一人に選ばれたってわけさ」
「八闘士ってそういうものなの⁉」
リュカヌの説明にシャーロットが只々困惑する。
「というわけで、別に恨みはないんだが……この塔を守るのが俺の大事な仕事なんでね……容赦なく叩き潰させてもらうぜ!」
「む⁉」
「まずは厄介な魔法使いからだ!」
リュカヌが一瞬でマイクとの距離を詰め、腹部に拳を放つ。
「がはっ……!」
「へえ、体を捻って、急所への直撃を避けたか。意外と格闘センスもあるんだな」
「さ、最低限の護身術は習得しております……」
「所詮最低限だろう? 次で終いだ! む!」
ヴァレンティナとレイがリュカヌとマイクの間に割って入る。
「マイクお坊ちゃまをお守りします。データの少ない珍しい相手ですが……レイさん、援護をお願いします。『フィンガーミサイル』!」
「チュウジントハタシカニメズラシイナ……『アイビーム』!」
ヴァレンティナが右手の指からミサイルを発射し、レイが目からビームを放つ。
「危なっ!」
リュカヌが背中の羽をはためかせ、ミサイルとビームをすんでのところで躱す。
「! ヒコウシタカ、マスマスメズラシイ……」
「うるせえな! お前らの方がよっぽど珍しいだろうが!」
「⁉」
「おらあっ!」
地上に降り立ったリュカヌは両手でヴァレンティナとレイをそれぞれ掴み、マイクに向かって勢いよく投げつける。
「ぐわっ!」
二人と派手にぶつかったマイクは倒れ込む。
「ふん! 半分片付いたな! 次はどいつだ!」
「私が相手よ! バリツを存分に味わいなさい!」
シャーロットがリュカヌに果敢に挑む。
「バリツは知らねえが、なかなかの体さばきだ! だが……甘いな!」
「ぐっ……!」
シャーロットの体にリュカヌのカウンターパンチが決まり、シャーロットが倒れる。
「シャーロット!」
「心配すんな、手加減はしてやった……しばらくは起きれねえだろうがな……」
「くっ……」
ジェーンが苦い表情を浮かべる。その隣でウィリアンが呟く。
「思い出した……」
「え⁉」
「自分に課せられたミッションは虫人の調査! その圧倒的な力を研究すれば、我が軍の戦力増強に繋がる! 研究サンプルとして確保させてもらう! うおおっ!」
ウィリアンが鋭い出足でリュカヌの懐に入り、腹部にパンチを放つ。
「ぐほっ⁉」
「もらった!」
「調子に乗るな!」
「むっ⁉」
リュカヌが大きな顎を開き、ウィリアンを挟み込む。
「研究サンプルとか抜かしやがったな! 痛みつけるだけにしといてやろうと思ったが、気が変わった! てめえはここで始末する!」
「ぬ、ぬおおおっ!」
「なっ⁉ 顎を押し返しているだと⁉ 細身の癖になんて力だ!」
「ウィリアンさん、そのまま抑えていて下さい!」
ジェーンが叫ぶ。リュカヌがジェーンを一瞥し、笑う。
「はっ、やめとけよ、栗毛の嬢ちゃん! 人間の女の力なんてたかが知れてる!」
「……こういう便利な物があります」
ジェーンが注射器を掲げる。リュカヌが戸惑う。
「そ、そんな物、どうするつもりだ!」
「こうするのです!」
ジェーンは自らの右腕に注射を打つ。すると、右腕が大きく膨れ上がる。
「⁉ バ、バカな⁉」
「はあっ! 『パンチ』!」
「がはっ……!」
パンチを腹部に受けたリュカヌは崩れ落ちる。ウィリアンも力尽きたように倒れ込む。
(……た、倒せた。そ、それにしてもウィリアンさん……潜入調査が主な部隊所属となるとシャーロットが追っている例の事件に何か関係が……? まあ、今は休みましょう……)
ジェーンは首を静かに左右に振ってその場に座り込む。
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