♢
「!」
マッシブな肉体をした男がチーム『覆面と兄弟』の三人に詰め寄る。イフテラム卿が叫ぶ。
「コマンダー・ペンギン、任せたぞ!」
「卿の娘さんと有力貴族の兄弟か……あいにく手加減などが出来ない性質でね。少々痛い目をみてもらうよ……」
「なにがなんだか分からないけど、やる気なら相手になるぜ! 『雷電脚』!」
ブリッツが先手を取って、男にキックを喰らわせる。
「痛っ⁉」
「へっ! 自分が痛い目みてんじゃん! ん⁉」
「ん……?」
コマンダー・ペンギンと呼ばれた男性は顔の半分をマスクで覆っており、口元しか見えないが、ブリッツのキックを無防備に喰らったわりには平気そうである。
「ら、『雷迅脚』!」
「うおっと⁉」
またもブリッツのキックが決まるが、コマンダー・ペンギンは少し体をのけ反らせただけで、これも平気そうである。ブリッツが首を傾げる。
「き、効いてないのか?」
「いいや、効いているぞ。なかなかのキックだな、少年」
「そうじゃなくて! 電撃を帯びたキックだぞ⁉ 痺れないのかよ!」
「電撃……もしかして魔法か?」
「ああ! 俺は雷系統の魔法を使える!」
「そう言われると……少しビリッときたような……」
「そう言われると⁉」
「魔法ってものは、存在しないと思えばその者にとってはないものとなる!」
「い、いや、そうはならないだろう!」
「要はハートの問題だよ、少年!」
コマンダー・ペンギンが自分の左胸を指して、ニヤッと笑う。
「い、意味が分からん!」
「その内に分かるさ! ふん!」
「ぐはっ!」
コマンダー・ペンギンの強烈なビンタが炸裂し、ブリッツが吹き飛ばされる。
「ブリッツ!」
エイスが声を上げる。コマンダー・ペンギンがエイスの方に向き直る。
「さて……お次は君かな?」
「くっ、『氷結』!」
エイスが片手を振りかざすが、コマンダー・ペンギンの肉体は凍り付かない。
「うん? ちょっと涼しかったかな?」
コマンダー・ペンギンが首を傾げながら、エイスに近づく。
「そ、そんな! 魔法が通じないなんて⁉ どはっ!」
コマンダー・ペンギンの強烈なビンタを喰らい、エイスが吹き飛ばされる。
「通じないわけでもないのだが……鍛錬で案外どうにかなるものだよ」
「ならないだろう⁉」
「はっ!」
「のおっ⁉」
「え⁉」
コマンダー・ペンギンとエイスが驚く。リリアンがコマンダー・ペンギンに突如抱き付いたからである。リリアンが叫ぶ。
「エイスさん! 下半身だけ凍らせて!」
「あ、ああ!」
「ぐっ⁉」
リリアンとエイスの体が半分凍り付く。リリアンが間髪入れず叫ぶ。
「ブリッツ! わたくしたちを目がけて雷を落として!」
「え、ええ……?」
「早く!」
「ど、どうなっても知らないよ!」
「うぎゃあ⁉」
ブリッツが雷を落とすと、コマンダー・ペンギンが叫び声を上げて倒れ込む。
「う、上手く行った……」
氷が砕け、リリアンが膝をつく。エイスが尋ねる。
「ど、どういうことだい?」
「わたくしには魔法が通じるのですから、わたくしと密着していれば、意識がわたくしに向き、凍って動けなくなります」
「わ、分かったような分からないような……しかし、雷はどういう理屈だい?」
「避雷針と同じ理屈です。より高い方に雷が落ちるということ……これもわたくしが抱き付いたことにより、わたくしに意識を集中してしまい、無防備になったのでしょう」
「な、なるほど……しかし、自らに向かって雷を落とせとはなかなか無茶なことを……」
「ある程度のリスクを冒さないと勝てない相手だと判断しました」
リリアンがため息をついて寝転がる。
♢
「!」
ハサンがチーム『悪役令嬢』の三人との距離を詰める。イフテラム卿が声を上げる。
「ハサン! その忌々しいガーニの娘は徹底的に痛めつけろ!」
「……」
「ハサンさん、どうして……?」
「ふん!」
「危ねえ!」
ハサンがティエラに襲いかかるが、ルッカが間に入り、攻撃を受け止める。
「む!」
「その風体……枕元のおっちゃんだよな? 味方みたいなもんだと勝手に思っていたが、どうやら思い違いみたいだったな……『火殴』!」
「はっ!」
ルッカの渾身の拳をハサンは簡単に受け流す。
「ちっ! 『火蹴』!」
「それっ!」
「ぐっ……ぐはっ!」
ハサンも鋭い蹴りを繰り出し、ルッカの蹴りを吹き飛ばす。さらにハサンはその勢いでルッカに蹴りをくわえる。蹴りを喰らったルッカは倒れる。
「『蔦生える』!」
「ん!」
シルヴァンが蔦を生やし、ハサンに巻き付ける。
「まずはその動きを封じる!」
「ほおっ!」
「なっ!」
ハサンが突風を巻き起こした為、蔦が引き千切れる。
「そらっ!」
「がはっ! ……か、風魔法の使い手か……」
ハサンは一瞬でシルヴァンとの間合いを詰め、シルヴァンに拳を喰らわせる。シルヴァンは成す術なく崩れ落ちる。
「ふう……」
ハサンはティエラに向き直る。ティエラは戸惑いながらも身構える。
「どういうつもりか分かりませんが、向かってくるのなら仕方ありません……」
「……!」
「速い! 『怒土百々』!」
ティエラが地面を砕き、土塊をいくつも浮かび上がらせる。
「むん!」
ハサンが風を吹かせ、土塊を吹き飛ばす。
「まあ、そうなりますわよね!」
「⁉」
ティエラがハサンとぎりぎりまで接近する。
「迎えうつまでです! 『土制覇』!」
「ぬおっ⁉」
至近距離から衝撃波を喰らったハサンは仰向けに倒れ込む。
「まさに風のような素早さ……カウンターを合わせる要領でなんとかなりましたわ……」
「むっ……儂は何を……?」
「ハサンさん!」
「! そ、そうか、四戦士として操られてしまったか。己を律していたつもりだったが……」
「正気に戻ったのですね」
「うむ、だが……奴らは我々の比ではないぞ」
「奴ら?」
「各自もう少し技を練らなければならん……さらに倍の数で挑まんと苦戦は必至じゃ……」
「倍の数……三人ではなく六人?」
「そ、そうじゃ……ごふっ!」
「ハ、ハサンさん!」
「ど、どうやらここまでのようじゃ……」
「ハ、ハサンさん! !」
「どおっ⁉」
屈み込んだティエラの尻を触ろうとしたハサンの腹にティエラは拳を喰らわせる。
「……どうやら心配はなさそうですわね」
「ば、馬鹿な……四戦士が全員敗れただと⁉」
「父上、貴方の企みは破れましたよ……」
リリアンがイフテラム卿に淡々と告げる。
「ま、まだだ!」
「⁉ こ、これは!」
激しい地響きがしたと思うと、コロシアムからも見えるくらいの大きな八本の塔が街を包囲するように出現する。イフテラム卿が笑う。
「四戦士を倒したくらいで調子に乗るな! あの八本の塔さえ抑えていればこの国の掌握は成ったも同然! さらに塔を守る『八闘士』には貴様らとて敵わん! さらばだ!」
「⁉」
強風が吹いたかと思うと、イフテラム卿の姿は既に無かった。
「八本の塔……八闘士……」
ティエラが塔を見上げながら呟く。
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