クラス全員で異世界に転移するまではいい、でも男の俺が踊り子って誰得よ

発情体質の踊り子♂がクラスメイトと魔王倒す
荒瀬竜巻
荒瀬竜巻

人徳の差

公開日時: 2021年8月11日(水) 17:15
文字数:1,868

「別に恥ずかしくないと思うぜ」


「惚れたやつでも天使だなんてそうそう言えねえもんな」


「男だぜ小川……」


俺の処女非処女の件ですっかり頭に血が上っていた喜助は、ようやく正気に戻ったらしい。自分が恥ずかしい事を言ったのがようやく分かったらしく、俺の座っているソファーに顔を隠す手もろとも埋まっている。


何の慰めにもならないと思いつつも、そっと背中をさすってあげる。それを機に、周りからもその勇気を讃える声が聞こえた。本当に生真面目な印象しかなかったが、こうしてみると、人並みに怒って人並みに恥ずかしがる俺たちと同じ高校生なんだなと認識を改める。周りの声が優しいのは元々喜助の人徳が素晴らしいものだからだろうな。


「まあ誰に何と言われようがこいつはオレのもんだがな」


「黙れヤンキー」


「レイプ魔」


「強姦野郎」


「全員この場で〆てやる」


そして仁への言葉が冷たいのは、人徳がゴミだからだろう。別に強姦されたわけじゃないし、レイプ魔ではないけれど、すぐ手が出るのは何とかした方がいいと思う。ついでに言うと金色に染めた髪も黒くすればいいと思う。


「別にレイプも強姦もされてないから大丈夫だぜ」


まあ盗み聞きはされたけどそれはこちらも悪い部分はあるし、謝られたからセーフだ。


「ほら見ろ」


「可哀想に……真田に口止めされてんだな」


「瀬戸、なめてんのか」


人徳がゴミとかそんな次元じゃなかった。いつもおとなしい分類の瀬戸未来ですらこの言いようだ。俺に対してはすごく優しいから、それを周りにも発揮したらいいのに。家族や好きな人だけに優しいヤンキーってフィクションだけかと思っていたけど、想像以上に身近にいた。


真田が悪い事をしてない事を、どう説明しようかと考えあぐねていると、肩をトントンされた。どうしたとそちらを向くと誰もいない、こっちこっちと愉快な声が聞こえる方向は明後日だった。これは所謂アレだ、大人の背中を叩いて、見つからないように回る小学生あるあるみたいな感じだろう。こんなことするやつクラスに一人しかいない。


「梓!おれもヨシヨシして!」


柿原健吾、あだ名が柿原社長もしくは社長。何故かと言うと、こいつは圧倒的に自由人なんだ。社長出勤の如く遅刻は当たり前、登校していてもふらっとどこかに行く。シンプルに精神年齢が低い。だが人が嫌がることはしないし、お人好しな一面もある。つまりは天真爛漫。俺も何度か席が近くになった時はあったが、言動が幼いだけで普通に性格は良かった。こんな言動でも好かれるのはそれが理由だろう。


「はいはい。いい子いい子」


俺の前に背中を晒して、今か今かと待ち侘びる健吾の頭を優しく撫でた。言っておくが子供扱いをしてしまっているのはわかっている。元々身長は160㎝ぐらいで低い上に、この言動だから、ついつい弟みたいに感じてしまう。そして俺に弟はいるのだが、あまり仲は良くなく、距離感が分からずに必要以上に子供扱いしてしまう次第だ。


「ありがとう!おれ梓大好き!」


子供扱いに不満を見せることは決してなく、むしろ向き直って俺を抱きしめた。仁みたいに大きな身体でがっちり掴むわけじゃない。小さな身体でされるハグといった表現の方が正しいそれは、また同い年なのに弟扱いしてしまう原因になってしまうなと少し困った。


「おれ大人になったら梓をお嫁さんにすんだ!」


うんそれは辞めておいた方がいいな。仁に刺されるぞ。今でもは?って顔してる。今更男相手だとかはもう言わない。だがこれだけは言わせてくれ。俺の方がデカいのに嫁かよ、俺貰われるのか。


「待てよ、いくら柿原でもそれは許さん」


「じゃあみんなのお嫁さん?」


「違う、奪い合うんだ」


ダメだ、健吾と周りの温度差が違う。ひょっとして健吾だけは俺の事を家族というか、そう言う意味で好きなのかもしれない。


「わかった!おれも梓とエッチなことしたいから頑張る!」


前言撤回だ。そうだそうだ、こいつも俺たちと同じ男子高校生だ。喜助と同じく認識を改めねば。同性しかいないからといって高らかに宣言するのはどうかと思う。


「俺もプロポーズさせてくれ!これ以上負けたくない!」


「オレも!」


「じゃあみんなで一列にならぼっか」


喜助や健吾のことで完璧にスイッチが入ってしまったのか、プロポーズ合戦が始まってしまった。外を見るともう夜更けだから、明日やればいいのに……いやプロポーズ明日やるって意味わかんねぇな。慣れすぎだわ。


そのまま大騒音騒ぎになるのは必須で、ベルトルトさんにもう寝るよう言われた、ごめんなさい。俺が体験した人生で最も濃い1日は、こうして幕を閉じた。

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