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第二話 中足を制する者は霜山を制す⑥

公開日時: 2022年1月1日(土) 21:22
文字数:1,671



今日も不藤さんは来なかった。


新学年が始まって3日だ


休みが続けば続くほど学校には来ずらくなる


「道引先生、不藤さんのこと何か聞いてますか?」


「この後不藤の親御さんに電話するつもりです」


僕の方を見ずに原津森くんの方を見ながら生返事をする道引先生は楽しそうな顔をしている


教壇から見る教室の中で僕の目から見る原津森くんは特に引っかかりはない


先輩先生方は原津森くんのことを問題児だと言うけど僕にはそうは見えない


今朝も霜山くんと何やら話していたし、積極的で快活な生徒に見える


放課後のチャイムを合図に解放されていく生徒達


この中で気になるのは原津森くんよりもその後ろの席の安見さんだ


一番後ろの一番端の席を自分から選んだようには僕には思えない


そこしか居場所が無いように見てて感じてしまう


小中高大とボッチだった僕の勘は安見さんに反応している


一度ちゃんと話をしてみたいと思う


「芥川先生」


「はい」


「始まりますよ」


脚を組んで片腕で教壇に頬杖をつく道引先生はやはり原津森くんを見ている


どこからそんなちょうどいい高さの椅子を持ってきたのだろうか


僕の勘が安見さんに反応しているように


道引先生の勘はきっと原津森くんに反応している


僕が原津森くんのことを知らなすぎるから何も問題なんて無いと感じてしまうだけなのだろうか


道引先生と同じ風景を見ているのに


原津森くんを見ているのか安見さんを見ているのか自分でも分からないくらい視界が思考に奪われている


道引先生は僕に言ってきたけど


一体何が始まるんですか?












「原津森ちょっといいか」


「え何?帰りたいんだけど?」


霜山が一丁前に覚悟を決めたカッコいい顔をしている


まあ聞いてやるか


「オレ唐揚げ好きなんだ」


知らねーよ


その見た目で嫌いだったらビビるわ


「今日の弁当に入っててさ、朝あんな話ししたから柔道の練習後に母さんがよく唐揚げ作ってくれたのを思い出したんだ」


ああ、その話ね。


「母さんが夜飯作り過ぎるのは元々オレが頼んだからだ」


「ずっとオレの為にしてくれてた事が、今、オレの為になってないのはオレのせいだと思った」


「母さんの苦労を無駄にしてるのはオレだ」


「だからちゃんと伝えた」


「痩せたいことも、モテたいことも、感謝してることも」


「夜飯の量を減らしてほしいことも全部」



モテたいことはともかくとして


踏み込んでちゃんと戦ったのか


「昼休みに電話したから近くに居た女子に聞かれて恥ずかしかったけど」


攻めの中足を全然知らんヤツに打つなよ


「ちゃんと踏み込んでみたら分かったんだ」


「オレはやめてほしい事しか伝えてなくて、やめてほしい理由までちゃんと伝えてなかった」


「お前の言う通りやめろって叫びながらあっち行けしかしてなかったんだよ」


霜山って、素直なヤツなんだな。


「んで、母ちゃんは何て?」


「協力するって言ってくれた」


「今日の夜から健康的なメシに変えてくれるって」


「オレの経験上、明日にはまた大盛りが出てくるぞそれ」


「そん時はまた戦うわ」




霜山は三年間柔道をやっていた


強くなるために三年も辛いことに耐えたんだ


すごいと思うわ


空腹も母ちゃんも根性で攻略して本当に痩せちゃうかもな



「よかったな霜山。んじゃ帰るわ。」


「前に出してきた紙あるか?」


「え?」


「署名してやる」


忘れてた...


何でタダで霜山なんか助けてんだオレは!


「霜山ぁ!」


「霜山ぁあ!!!」


「うるさいよっ」


「お前良いやつだな!」


何こいつ急に高まってんだ


散歩行く前の犬かっ


「いいよ早く紙出せよっ」


「お前ちょっと痩せたか?」


「は?」


「朝から少し痩せたか?」


「カッコいいな」


こいつは


人としてどうかしてるな。


「うん。やっぱ署名やめるわ」


「霜山ぁあ!」


「服掴むなっ」


「さっきまでの塩対応はどこ行ったんだお前っ」




もう少し時間がかかると思ったが意外に上手くやったな。


これでようやくお前の都知事攻略が始まったわけだ


この一歩は進化の証だ


お前の伸び代は私が埋めてやる



「芥川先生」


「はい」


「行きましょうか」



原津森くんが何やら大喜びしているのを確認してから道引先生は組んでた脚をスラっと伸ばして立ち上がる


「どこにですか?」


「不藤に電話っ」










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