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第二話 中足を制する者は霜山を制す③

公開日時: 2021年12月25日(土) 10:42
文字数:2,890



このアニメは古くてもう置くことはないと思ってた。


神です。


ロードプルは神です。


当時どうしても欲しかったのにお小遣いが尽きてしまってゲットできなかった


恨めしそうにガラスにおでこをつけて2人を見つめてたことを思い出します


ルルーショとスザケくん。


ルルーショとスザケくん!


なんで置いてるんだろう


他のUFOキャッチャー達は今時のキャラを囲っているのにこの台だけコードギアズ祭りだ


思わず全部取ってしまうとこだった...。


とりあえず袋もらいに行こ。


両手に抱えても溢れちゃうし落としたくない。


店員さんに言ったら特大サイズがもらえる


この子達は安全に持って帰らなきゃ


家に着くまでがUFOキャッチャーです。


「すみません。袋ください」


「....。」


「あ、ありがとうございます」


すごい薄目で見られながら無言で渡してもらいました


取りすぎはあれですよね、ダメですよね、


ごめんなさい。


でも今日だけはお許しを!



「おー安見」


「へ?」



思わず両手に持ったパンパンに膨れたビニール手さげを体の後ろに隠しました


情けない声出しちゃった...




「こんなところで偶然だなぁ」


道引先生なんでここに...?



「お前が取ったのかそれ?」


「あ、いやこれは...」



隠し切れてないよ安見


ぬいぐるみも


お前の本性も




「ここよく来るのか?」


「たまに...」



たまに、ねぇ。

それだけの量は素人がどれだけ金をかけようともそう簡単に取れるもんじゃない

しかも中身は相当偏った趣味だ



「お前、好きな事ないんじゃなかったか?」


「....すみません」



責めてるんじゃない


私はお前の素顔を見たいだけだよ




「安見、私はお前の正体を知っている」


「え?」


「こんな話がある」


「3年ほど前の話しだ」












「私の知り合いがゲームセンターを経営していたんだが残念なことに潰れてしまってな」


「原因はUFOキャッチャー」


「ある少女が店にやってくる度にその店からは根こそぎアニメの人気キャラが居なくなったそうだ」


「普通一回や二回では景品は取れない設定になっている。店も商売だ。そうホイホイ取られても困るからな」


「けどその少女はそんな設定なんかもろともせずにひたすら取り続けらしいんだ」


「ぬいぐるみ、フィギュア、お菓子、あらゆる種類のクレーンゲームを攻略して、持ち帰った」


「店主は白目をむきながらその子のことを悪魔の少女と名付けた」


「悪魔の少女はUFOキャッチャーでは飽きたらず、太鼓の職人やビートメイニアにも手を出して少女が演奏を始めれば大勢の人が引き寄せられたという」


「そのギャラリー達は本来店にお金を落としてくれる存在だ。しかし悪魔の少女の演奏に満足してゲームをすることなく店を後にする人間が続出した」


「店主のトレードマークであるちょびヒゲはパラパラと抜け落ち、二度とヒゲが生えてこない体になってしまったという」



あ...


あぁ...


ごめんなさい...



「しかし」


「店主はその悪魔を止めようとはしなかった。」


「少女が持っている悪魔の力は、少女が自分の努力で掴み取ったものだからだ」


「最初は全然ダメだった。いくらお金を使っても上手くならなかった。まだ幼い少女がそう何回もお金を入れることはできない」


「だから毎日通って他の人がプレーしているのを観察して小さなノートにまとめていたという」


「少女は諦めなかった。」


「店主はその過程を知っている。その過程で少女が店に落としてくれたお金には価値があると信じた」


「だから悪魔の少女のことは恨んでないらしい」


「ぞ?」


な、なんで顔を寄せてくるんですかぁ


「ちなみに、あそこのカウンターに立っているのがその店主だ」


先生が指をさした先を見てみると


あ!


さっきの薄目で袋くれたおじさん!


ここで働いてるんだ!


遠くから見ても分かるくらい今もまだ薄目!


絶対まだ許してもらえてないと思います!



「お前じゃないよな?」


「え?」


「悪魔の少女。」


「な!」


「まさかぁー!」


「ちなみにその少女はメガネをかけてたらしいぞ?」


「あー...」



今更ゆっくりメガネを外しても遅いんだよ安見


お前は面白い子だね。


私が少し微笑むと、照れたように私より控えめに微笑む


その笑顔は前髪にもメガネにも隠れてない




「そういえば先生は何でこんなとこに居るんですか

?」


服装は学校のままだし風紀的な見回りか何か?




「うーん」


「まあ」


「そうだねぇ」


「お前この店の名前は知ってるか?」


「え、ロードプルです」


「じゃあ私の名前は?」


「道引...先生っ」


「そういうことだ」




どゆこと?




「それ持ってやる」


「え?」


「手さげっ」


「え、あ、はい。」



手さげを渡す瞬間そのまま手を引かれるかと思いました。


それくらい先生はいたずらな顔をしています



「安見、今から先生がいいところに連れてってやる」













こんな危険なとこには初めて来ました。


1階はクレーンゲーム系


3階は音ゲーゾーン。


2階でゲームをすることはないですが、3階に上がるついでに少し偵察したことがあります


メダルゲームや大きな筐体のアーケードゲームが置いてあってこの階は少し薄暗かった


ゲームの光り方も派手で暗闇で光が踊っていました。


何かいけないところに迷い込んでしまったようなそんな気分になったのを覚えています


そんな2階が可愛く思えるくらい


ここ4階は危険でした。


もうすぐ夜だというのに熱帯雨林の早朝みたいにモヤが懸かっていて鬱蒼としています


カビ臭くて少し汗臭くて何年も使われてない体育系の部室みたいな匂いがします


くすんだ灰色をしたコンクリートの打ちっぱなしが周りを囲んでいて床は学校の廊下みたい。


硬くて冷たくて、人が何時間もいる場所じゃない。


四角いフロアにズラッと横並びに筐体と椅子が詰め詰めに並んでいます


8台くらいでしょうか


その反対側にも同じ数だけの筐体があって全て満席。


今戦っている人達が作り出す熱気がモヤと汗臭さを生んでいる


そう確信していいくらい皆さんの背中は“戦闘中”です


そんな中でもある1台だけ


異様な熱を放出している台があります


まるで人気アトラクションみたいに行列ができていて


並んでいる人達が交代で次々とゲームにお金を入れていきます


緊張していたり


復讐に燃えるような顔をしていたり


中には感謝してる人まで居ます


そして


段々私の番が近づいてきました



「先生これって」


「格ゲーだよ。」



何か問題でも?と言わんばかりに悪い角度で口角が上がっています


格ゲーはしたことがありません。


人と対戦するのは緊張するし、負けたらショックです。


現に私の前に並んでた人達は次々に苦々しい顔をしながら舌打ちをして私の後ろに並び直しに来ます


負けたのにありがたがってる人も居るけど。


こっちの列が負けてるってことは


向こう側の人が勝ってるってことだよね


一回も負けてない。


画面は対面式で、向こう側にも同じゲームがあって人が座ってる


相手の顔は見えない


でもいざ画面の前に座ると真正面から睨まれているように感じます


椅子の高さも合わないし


後ろからの視線もすごいし


どうやって操作したらいいかも分からない



「安見、とりあえずいっぱいボタン押せ」



ゲーム機に100円を入れてくれる道引先生の声は優しくて、何だか最後の見送りのようです。


私はどうなってしまうんでしょうか。








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