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第一話 署名を制する者は日常を制す②

公開日時: 2021年12月17日(金) 22:06
更新日時: 2021年12月17日(金) 23:23
文字数:2,494



『私はお前の正体を知っている。放課後、ロードプルの4階に来い』


新しいクラスの新しい席で


始業式中もずっとズボンのポケットで温めておいたものを確認した


机の下に隠すようにして読んだことに恥ずかしささえ覚えた


今どき手紙か。


紛らわしい。


オレのときめきを返せ。


二年になったばっかのオレの下駄箱の場所を知ってるってことは多分同じクラスのやつだ


そして雑魚。


ロードプルに行くことはオレの日課だ


わざわざ呼び出さなくても行くんだよ。


それを知らないということはコイツはたまにしか対戦しに来ないんだろ?


そんなヤツには負けない


どうでもいい


オレが本当の意味で戦いたい相手はただ一人だけだ。











下を見れば運動場


上を見れば小さな飛行機


教室の中を見るより外を見ていた方が気が楽です。


今年も窓際の席で安心しました


しかも一番後ろ。


そしてまた


この人のすぐ後ろの席です。


何を見ているのだろう


手紙?


前のクラスでもこの人はいつもうつむいてばかりだったけど今日は何だかうつむき方に精気があります


まさかラブレター?


ごめんなさい


それは無いですね


私はこの人の背中しかほとんど見たことがないけど


多分モテません。


時々、背中が半透明になってこの人の前の席の人が透けて見えてしまうほどにこの人には色がありません


周りは綺麗で個性的で


すごく華やかに見える


この人はその中には居ません


そして


私も同じです。


きっと他の人から見たら私も半透明で


初めからこの教室に私は存在していません。


今日は始業式だけど


明日が卒業式ならいいのに。











教室の前に来るとドキドキする


学生の頃、このドアを開けるのが苦手だった。


どうやらそれは大人になっても変わらないらしい


お腹が痛い...


今すぐにでも帰りたい...


それでも...


僕は心に決めたんだ


僕のように孤独に学校生活を終えてしまう


そんな生徒が一人として居ないようにする。


僕は助けを求めることが出来なかった


求める勇気がなかった


そんな勇気が無くてもちゃんと話を聞いてくれる大人がいる


そう思ってもらえる教師になりたくてここまで来たんだ


学校で学ぶことは勉強だけじゃないし


学校で教えることも勉強だけじゃない


このドアを開ければ、僕の教師生活が始まる











懐かしいなー。


緊張して緊張して


それでも自分を奮い立たせて


息を呑んでから教室に入る


私にもそんな時期がありましたよ。


まあ、とはいえ


新学年の幕が上がるこの瞬間だけはさすがに少し身が引き締まる


「芥川先生大丈夫ですか?」


「はいっ!」


「では参りましょうか」


「はいっ!」


あなたが今手にかけたそのドアは


あなたの力で手に入れた未来への扉です


一年間よろしくお願いします芥川先生












「ちゃんと席着けよー」


バタバタと騒がしいヤツらだ


チャイムが聞こえんのか?


道引先生は少し不機嫌そうに教壇まで風を切る


勢いよく教室に入ったものの結局僕は声が出なかった...


スンと軽快に生徒名簿を置いて


教壇の端と端を軽く握りながら道引先生はスイッチを入れるように少し微笑んだ


「今日から君たちの担任になる道引だ。それと新任の」


道引先生は堂々としている


僕は緊張で頭がおかしくなりそうだ


人前に立っている自分が信じられない


せっかく覚えた生徒達の名前も頭がパンクして教室のあちこちに散らばってしまった


もう誰が誰だか分かんない


「それと新任のー?」


...あっ!


「芥川です!よろしくお願いします!」


慌てて頭を下げたら謝罪みたいになっちゃいますよ芥川先生


うちの学校は今学期から複数担任を導入したらしいがちょうどよかった


背は低くて


髪はボサボサ


目はくりっとしていて


黒ぶちメガネ


スーツは似合ってない。


一見頼りなさそうだが熱意のある芥川先生にははしゃいでいる一般的な生徒を任せるとしよう


私には私のやるべきことがある。


心に決めた何かを思い出したかのように道引先生は僕一人を教壇に置いて窓際の後ろの席の方にスラスラ歩き出した


段々遠ざかっていく背中を目で追っているとその先には机におでこが当たろうかというくらいにうつむいて自分の世界に入っている生徒が居る


先輩先生方が言っていた


僕の担当するクラスには一人問題児が居ると。


弾け飛んだはずの生徒達の名前が一つだけ僕の元に帰ってきた


多分


きっと


あの子が原津森くんだ。


他の生徒達が新しいクラスに浮かれて騒いでいる中


原津森くんの机の前で


道引先生の足が静かに止まった





「舐めとんかワレ」











道引先生が段々と私の方に近づいてくる。


さっきまで教壇に居たはずなのにスラスラと一直線に。


正確には多分、原津森くんに近づいてきているのだと思います。


道引先生は美人です。


授業以外でも校内で何回か見かけたことがあるけど


綺麗な髪をいつも後ろでくくっていて


膝上のスカートから生えている細い足で密やかに歩く様はまるでどこかの女諜報員のよう。


こうやって近くで見ると目鼻立ちもくっきりしていて完全に怒っていることが見て取れます


目の前で仁王立ちしている道引先生に原津森くんはまだ気づいてないご様子。


そんなに手紙長いの?


そろそろ顔を上げないとやばいと思うけど。











浮いた。


一瞬、体全体が宙に浮いて元座っていた席に着席した。


ビックリして思わず顔を上げたらそこには鬼が居る。


体が浮く前に何か聞こえたような気がしたがそれどころではない


何が起きたか整理がつかないことと鬼に睨まれていることでしばらく金縛りにあっていたが


今もガッシリと鬼の手によって掴まれている襟首が物語り始めた


オレは多分、言うことを聞かない子猫のように首根っこを持ち上げれたんだと思う


おそらく片手で。


「おい原津森、お前の机の下にはそんなに楽しいもんがあるのか?」


なんで小声なんすか


しかも超耳元で...


「あ、いや、ただ考え事してただけ...っす...」


「次私の前で同じことしたらな」


はい。次、同じことしたら...?


...。


「まあいい。とりあえずこのホームルームが終わったら職員室来い」


次同じことしたらどうなっちゃうんですか?


「絶対に職員室に来いよ」


「え、はい...」


「もし来なかったらな」


もし、来なかったら?


...。


鬼の手の呪縛が解けフッと首元が軽くなる


「みんな静かにしろーちゃんと席着けー」


来なかったらどうなっちゃうんですか?











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