それから程なくして、それぞれ頼んだ料理が私たちが座る丸い机に並んだ。ただただ、私の幕の内定食と、会長のサンドイッチよりも、お姉ちゃんの真っ赤なスパゲティにたっぷりと注がれた、これまた真っ赤なタバスコソース。それで終わるまいと、いかにも辛そうな赤茶のミート。唐辛子も丸々一本入っており、見ただけで火を噴きそうなスパゲティに、目を奪われた。
「ほ、ほんとに食べるのそれ……」
「さっきもそうだったけど、姉妹なのに知らないのかい?君の姉はこの学園じゃ激辛女王と呼ばれているほど、辛いの平気なんだよ?」
「え、えぇぇぇ!?う、嘘じゃないんですか!?」
「そんなに疑うなら見てみなよ。私でも少し引いちゃうほどだから」
苦笑いしながらも会長はミリシャに指を指す。視線をずらせば、お姉ちゃんはしっかりと手を合わせ、目がキラキラと輝かせている。と捉えた矢先、先が割れ、いかにも何か刺せそうなほどに鋭く……はないが銀のフォークで赤いスパゲティをぐるりと巻き取り、口の中へ放り込む。
「うぅーんっ!美味い!辛い!美味い!」
「嘘……本当に食べてる」
「だから言ったよ?彼女は激辛女王だって。それはそうと食べながらでいいんだけど、話聞いてくれるかな」
「そういえば話があるんでしたよね。それで話って?」
とりあえず、お姉ちゃんは一旦無視して会長と私二人で話を進める。というか、お姉ちゃんは多分、食べるのに集中して話なんて聴く気は無いと思うから、必然的に二人で話を進めることになるんだけど。
「単刀直入に、二人とも生徒会入ってほしいんだ」
食べ始めてまだ少ししか立ってないのに、両肘を立て手を口の前に持ってくると、今までにないほど真剣な顔をしてとても大事な話を始める会長。……って、
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
「声が大きい、ここ食堂だよ?行儀良く食べないと、食堂の人に申し訳ないよ」
「すごくご尤もですけど、でも生徒会だなんて……そんな急に言うから」
「急?わたしは言ったよ?『このツケは近いうちに』って。それにその料理食べちゃったよね?それの代金払ったの誰だっけ?」
ニタァと不敵な笑みを浮かべ、私たちが犯した大遅刻の罪を掘り返してくる会長。やっぱこの人腹黒いな……なんなら漆黒のお腹って言っても似合いそうなほどだ。それに奢るって言ったのは、私たちが可哀想とか思ったからじゃなくて、完全に私たちに拒否権を与えない為だろう。
(な、なんという策士……)
はめられていた事に実感が沸くと、もはや言葉なんて出るわけもなく、嫌な顔を浮かべながら、首を縦に振って肯定するしか出来ない。
(……まぁお姉ちゃん居るならいっか)と横目で幸せそうに激辛料理を食べてるミリシャを見つつ、私は短くため息を吐いた。刹那、少し前に私が考えていたことが当たってしまった。というのも。ちゅるっと麺を吸い上げた直後、私の視線に気付いたのか前を見て。
「ん?何の話?」
と、凄く不思議そうな目をして問いかけてきたのだ
(はぁ……本当、マイペースなお姉ちゃんだ……)
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――そんなことがあって、私ことユイと、ミリシャは生徒会に強制的に入る事になった。私は入学式のこ魔法陣を解析した経緯があって会計、書記に。お姉ちゃんは人脈が幅広い為か副会長、並びにわがままで副書記に任命された……んだけど。ここ最近は掲示物を作ってばかり。
「あーもー!なしてこんな暇なん!?エルゥ会長はん!」
「私に聞かないで……暇なのは確かだけど掲示物多いからね。とはいえ生徒会が四人になったし、掲示物も大体作り終わったし、おかげさまで書類も終わったし……明日からしばらくは生徒会お休みかな」
生徒会には強制的に入った私と、お姉ちゃんを除くとあと二人居る。一人は副会長で独特な訛った口調が特徴のルルナ・チューナー先輩。長い茶髪を横で一まとめにしていて、なによりかわいいと評判なほどおっとりしているのに、すごく飽きっぽい性格なのが残念な先輩。もう一人は生徒会長、エルゥ先輩。お姉ちゃん同様に人脈が広い先輩だ。
あ、もう一人生徒会に欠かせない人が居る。と言っても先生だし、もうそろそろくると思うんだけど――
「呼ばれてないけどじゃっじゃーん!」
「ミナカ先生!ってそれは?」
「ふふーん!聞いて驚けー!三週間後に学校対抗の試合だぞー!」
生徒会室の扉が急に開くと同時に、白衣姿で出てるところは出てるスタイルのいいロングポニテの先生――ミナカ・カミナ先生が、ご満悦の笑みで手に持っていた紙を突き出した。それも、何もかかれてない真っ白な面を。
多分何も言わなければ、それはそれで気づくと思うけど、その後が可哀相だ。そう思って口を開いた瞬間、お姉ちゃんが私が言おうとしていた事を、先に口に出した。いや、なんなら先輩たちも突っ込もうとしてたに違いないけど。
「センセ……その紙裏だと思う」
「え、あ……本当だ……こ、こほん……聞いて驚けー!三週間後に――」
「「「「テイクツーやめろ」」」」
裏面だと気づいて、直ぐに表面に直すと、可愛らしい咳払いをしてあたかも今のミスを無かったかのように、同じ言葉を言い始める。しかし内容は絶対一緒。そう悟ったのは私だけでなくその場に居る生徒会役員。故か見事みんなの気持ちが一つとなって、生徒会役員全員同時につっこみをいれた。
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