クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
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一章 異世界暮らし

1話 全員転移

公開日時: 2020年9月1日(火) 15:00
文字数:3,689

「それじゃ、ホームルーム始めるぞー」

担任が教卓の後ろに立って言った。ガヤガヤと話していた生徒達が席につき、担任が口を開いた。


夏休み前、と言うこともあって午前中で帰れる。担任の長話を聞き流しつつ、この後の予定を考える。

──まあ、殆ど友達がいないからゲームしかすることないけど。


「最後にお前達に重要なお知らせがある厳選なる抽選の結果、お前達が選ばれた」

「何にですか?」


学級委員の女子生徒が手を挙げて尋ねる。

「それはだな、これからこのクラス三十一人には世界を救う旅に出てもらう」


「……演劇の話すか?」

スクールカーストで言う一軍の#横田__よこた__#シロウが鼻で笑いながら聞き返す。


「演劇ではない。異世界に行くのだよ!」

パチンと担任が指を鳴らした。教室の床に白チョークで描いたような魔法陣が現れる。クラス全員がざわめく中、担任だけは涼しい顔をしている。


「剣と魔法の世界へ、ようこそ──」

眩い光に目がくらむ。視界の点滅が収まり、目の前が開ける。

「ここは……」


赤いカーペットに鉄の鎧を着た兵士が数人並んでいる。正面の玉座には王様のような服を着た担任が座っていた。


レンガを積み上げたような壁に、燭台が突き刺さっている。いくつもの炎で室内は明るく照らされていた。


「改めてようこそ。私が統治する、アルデミア国へ」

「先生、これはどういう事ですか?」

委員長が再度質問を投げ掛ける。


「君達を騙していたことを謝ろう。私はこの国の王、ディアスだ。ディアス・アルデミア。一学期から学者達を各地に送って視察させていた。そして君達が一番優秀だった」


ローブを身に纏い、王冠を頭に乗せている。顔は担任そのものだが、装着しているものが俺に違和感を与える。


「では、生徒手帳を出してくれたまえ」

担任──もといディアス王に言われた通りポケットから生徒手帳を引っ張り出す。

「あれ……何だこれ」


俺が取ったのは黒い革の手帳だった。表紙には坂下ユウスケと白い文字で書かれていて、その下の星マークは緑色の光で満たされている。


「それはグリモアと言って一人一人の人生を記した手帳だ。何かしら行動を起こすと勝手に記録されていく。故にその人物がどのような生を辿ってきたかがわかるのだ」


「あの、先生じゃなくて王様? ここは日本なんですか?」

「違うぞ。ここは日本とは別次元にある世界。あちらの言葉で言えば異世界だな。ここ最近魔王が代替わりして被害が増えてきているのだ。だから君達をアルデミアに喚んで戦ってもらおうと思ったのだ」


「無理ですよ! 私達、ただの高校生ですよ!?」

「安心しなさい。グリモアの最初のページを開いてごらん。そこにアビリティが書いてあるから」

表紙を捲ると、アビリティというページがあった。二つ単語が載っている。


【モンスターマスター】と【剣術c】。

「おい四郎、お前何だった?」

横田の友人が互いに見せ合って喜びあっている。


「俺は【魔剣】と【弱点察知】だ。そっちは?」

「【槍術ss】だけ……何かがっくし」

「お前は……あー、どんなんだ?」


横田が誤って、俺に話しかけてきた。おそらく異世界にやって来て浮かれていたのだろう。

俺は所謂二軍。決して派手ではないが、根暗でもない。


そんな中堅層である。彼と俺は同じクラスの奴だという認識でしかなく、話したことも無い。


「えっと……【モンスターマスター】と【剣術c】だよ」

「モンスターマスターだと!?」


ガタッとディアス王が立ち上がった。物凄い形相で俺を睨み付けて近寄る。反射的に俺は後退る。

「貴様、魔王との戦争の最中であるのに魔物と関わりを持つアビリティだと!?」


「それは、俺のせいじゃ……」

消え入りそうな声で呟くが王の怒声の中では全く通らない。

クラスメイトが俺に目を向けている。

そこそこ仲の良かった奴らは身を寄せ合ってひそひそ話し合っていた。


目立たず無難にがモットーだったのに一気に有名人になってしまった。

「衛兵よ! この者を地下牢にでもぶちこんでおけ!」


「はっ!」

きびきびと俺の腕を掴んで引きずる。

我が異世界ライフ、これにて終幕と思ったその時──。

「た、大変です! 銀竜が攻めてきました!」


階下から息を切らした兵士が走ってきた。

「何!? 何故このタイミングで──」


はっ、とした表情で俺に目を向けた。次第に憎悪へと変わっていく。

「そうか……貴様が呼び寄せたのだな? この場で殺してしまえ!」

兵士が俺の首を落とすために剣を抜いた瞬間、王様の背後の壁が破壊された。

そこから美しい銀色の鱗を持った竜が入ってきた。


「やはり今日でしたか。アルデミアに複数の勇者が現れると聞いたので来てみれば。魔王様の情報は正しかったようですね」

銀竜は俺達を一瞥すると、小さく溜息を吐いた。


役目を全うして嬉々とすべき場面であるはずなのに、銀竜の表情はどこか浮かない。


「この中から一人、勇者を生け贄に捧げれば他は見逃しましょう」

暫しの沈黙の後、銀竜が口を開いた。

「生け贄?」

横田が尋ね返すと、銀竜が頷いた。そして彼は俺に目を向けた。


「お前、モンスターの味方で人間の敵なんだろ?」

「ち、違う!」

「王様だって言ってたじゃないか。お前があいつを呼んだって」

「知らないよ!」


横田の仲間も俺を掴んで引きずっていく。横田達は表では優秀な生徒を装っているが、裏ではいじめを行っていると聞いたことがある。


よってたかって弱者をいじめるのは彼にとって苦ではないのだろう。

さらに俺は横田とは他人どうし。ほぼ関わりがなかった。


つまりこいつの中では自分に無関係な人が死ぬだけだ。そして一人を捨てて大勢を助けるという重要な決断をしたのだから周りからの株は少し上昇しただろう。


「ほら、銀竜。お望み通り生け贄をくれてやるぜ」

背中を蹴飛ばされ、無様に転がって銀竜の前へ。鋭い爪の生えた手に掴まれる。


「確かに、生け贄は貰いました。今回は見逃しましたが次回は本気で殺しにいきますから」


大きな翼をはためかせ、銀竜は飛び立った。

「お、お前! 俺をどうするつもりだ!?」

「別に食おうなどとは思っていません」

アルデミアから十分に離れた所にあった崖に着陸する。


「ふむ……? 貴方、他の人間とは違う香りがしますね」

「それって……旨そうな匂い?」


「いえ、魔族に近いような……そんな香りが」

「それって、このアビリティに関係ある?」


ポケットからグリモアを出して銀竜に見せる。

「貴方はモンスターマスターだったのですね。ふむ……」

銀竜はじっと俺を見つめて何かを考え込んでいる。

「決めました」


「何を?」

「私は貴方と暮らします」

「…………!?」

俺が突然の申し出に戸惑っていると、銀竜が語り出した。


「先代の王は人と仲良くすることを目標に動いていましたが、今の王は我々のみの世界を築くことを目標としています。私は魔王空軍の最高責任者でしたが、王の無慈悲な殺戮にはついていけなくなりました。そして今日、モンスターマスターの貴方に出会ったのです」


「はぁ……俺と暮らす理由が分からないんだけど」

「モンスターマスターのもとには魔物が集まってくると言われています。そこで打倒魔王を目標として我々の反抗組織を作りましょう、と言うことです」


「ふーん、皆から嫌われたしやることも無いし。いいよ、その反抗組織作りを手伝おうじゃないか」

「感謝します」


ペコリと頭を下げる。モンスターは悪の生き物とゲーム等では決まっていた。だが実物は人と同じような心を持っているようだ。


「まだ名前聞いてなかったな」

「そういう場合は貴方から名乗るべきでは?」

「そうですかい。俺は坂下ユウスケ」


「私はルナ。よろしくお願いしますね、ユウスケ」

「ああ、よろしく」

互いに目を細めて笑う。笑ったのなんていつぶりだろうか。作り笑いではない、本当の笑顔。


「反抗組織を作るっても拠点が必要だな」

すぐに表情を戻して話を進める。


「それならいい場所があります。背中に乗ってください」

ひんやりとした背中によじ登り、翼の付け根を掴む。


「落ちないように気をつけてくださいよ」

一度、がくんと大きく揺れたがそれ以降はまったく揺れることがなかった。涼しい風を頬に受ける。

横田のやつ、俺が生きてると知ったら驚くだろうな。


別に復讐とかは考えてはいないが悲惨な目にあってくれると嬉しいもんだ。

「ユウスケ、あの辺りです」

ルナの肩口まで行って顔を出す。

森の中にぽっかりと円形の空間があった。

「確かに、あそこなら拠点としても申し分ない広さだな」

「ただ、一つ問題があるのです」


「問題?」

「私、建築のアビリティがありません。ユウスケも無いでしょう?」

「もちろん」

「なので拠点を建てるにはお金が必要なのです」

「どうやって稼ぐ?」


「やはりギルドに登録して依頼をこなすしか無いでしょうね」

「えぇ……登録って言ってもモンスターマスターって嫌われてるんでしょ?」


「一部からですね。アルデミアを筆頭にその周辺の地域がいくつかです。それにギルドは如何なるアビリティの所持者でも受け入れますから」


「そうなのか……」

「そうと決まれば早速行きましょうか」

拠点予定地上空を旋回していたルナはアルデミアの反対方向へ移動し始めた。

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