クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
だんご3

11話 漁村の抱える問題

公開日時: 2020年9月3日(木) 17:00
文字数:3,539

「二人とも、起きてください」

ルナが尻尾につけた水を振り撒いてくる。仕方なく起き上がって凝り固まった体をほぐす。


「ほら、コーディア起きろよ」

俺の隣で寝ている少女の肩を揺らす。手の甲で目を擦ると、大きく欠伸をして目を覚ました。


「おはよう……」

「おはよう」

川の水で顔を洗い、昨夜残した木の実を食べる。


「なあ、コーディア。獣人差別ってなんだ?」

昨日の服屋でのやり取りをふと思い出して尋ねる。寝起きで思考がまとまっていないのか、だいぶゆっくりと話し始めた。


「獣人差別ってのは……私達みたいな獣人を差別することよ。文字通りね。内容は多岐にわたるけど、一番多いのが労働用の奴隷として働かせること。人よりも力があり、魔物よりも融通が利く。魔法に耐性を持つ者が少ない。こんな感じで働かせてるのよ」


昔の世界と似たようなものかと頷いてみる。

「で、昨日言われた愛玩用ってのもあるのね。洋服を買って、撫でて、自己満足のために獣人の自由を奪うこと。たまに夜伽の相手をさせる奴もいるらしいわ」


「……何か、訊かない方がよかった?」

「別に、構わないけど……ただ」

「ただ?」


「私は運がいいなぁって思ったのよ。だって絶体絶命の状況で助けられて優しい仲間ができたんだもの。できすぎた話よね」

「それなら、コーディアは当分の運を使い果たしたな」


「私の身に何か起きてもユウスケが助けてくれるでしょ?」

「それはどうかな。届かないことだってあるかもしれないよ」

木の実の最後の一欠片を口に放り込んで朝食を終える。


「それじゃあ、ギルドにでも行ってくるよ」

「私も行くよー」

コーディアも食事を終え、肩に手をかけて背中にしがみ付いてくる。普段ならなんて事ないのだろうが、二日連続で硬い地面をベッドにしているのだから体の節々が痛む。


「辛いから降りてくれ……」

「鍛えなきゃ、またあいつらに襲われるぞ」

「横田なぁ……絶対ディアスにチクってるだろうなぁ」


「ディアスって、アルデミアの国王でしょ?」

「そうそう」

「国王に見つかるとなんかまずい事でもあるの?」


「俺はルナの生け贄にされてね。でも、ルナが魔王を一緒に倒してくれないかって言うから手伝う事にしたんだ。そんで、ディアスに居場所がバレると殺しに来るんじゃないかと思ってるんだ」


「それは大変ね……。まあ、ルナがいればどうにでもなるでしょうよ」

「そうだといいんだけどなぁ」

イーリアの町の門をくぐってギルドへ向かう。はぐれないようにコーディアをおんぶしてやる。

背中がミシリと嫌な音をたてたが気にしない気にしない。


「横田といえばあいつアビリティ使わなかったな」

「横田ってどんなアビリティ持ってるのよ」

「確か、【魔剣】と【弱点察知】かな」


「なるほどね。【魔剣】は魔に染まった剣を使わないと発動しないからしょうがないわね。【弱点察知】は集中しないと弱点が見えてこないの。使いこなせれば最強の部類に入るんだけど初心者には向かないアビリティね」


「コーディアって意外に詳しいんだな 」

「小さい頃は本の虫って呼ばれてたからね」

「小さい頃、か。今は何歳なの?」

「十七歳よ」


「俺の一個上か。見た目じゃ判断できないもんだな」

そんな他愛もない話をしていると、目的地であるギルドに着いた。

「お、少年。昨日は大活躍だったそうじゃないか」


ギルドに入るなりいきなり肩を組んで労ってくる受付嬢。朝からこのテンションは少々辛い。

「さて、そんな少年に折り入って頼みがあるんだ」

「なんすか」


「イーリアから東の方にね、漁村があるのよ。そこで困った事が起きてるのね。行って解決してきてくれないかしら?」

「遠い?」

「結構遠い。馬車で二日、三日ね。でも……」


彼女は声を落とし、俺の耳元で囁いた。

「空を飛べば半日で着くわよ」

ピタリ、と思考が停止する。そしてすぐに活動を再開し、思案に暮れる。

いつ見られた? どこで見られた? どうなる? どうする?

いや、空を飛ぶからといってドラゴンである必要がない。きっと飛空挺や気球なんかがあるのだろう。


全くもってまとまらない考えが頭の中で木霊する。

「だいぶ焦ってるようだけど、この事を知っているのは私だけだから安心していいよ。銀竜の存在はあまり知られていないし、だれも君が関わっているとは思ってないさ」 


「ほ、ホント?」

「もちろん。私、【読心】っていうアビリティを持っててね。他人の考えが読めるのよ。君が頭の中で考えている事がすぐにわかるの。銀竜がいるなら楽勝だよ。頑張ってね」


「え……まだ受けるとは言ってないけど……」

受付嬢が指をパチンと鳴らすと、カバンから緑色の光が漏れ出た。中のグリモアが依頼を受注したという事だ。


「さて、最後に私の名前を教えておこうかね」

「名前を……?」

「そ、名前。だって君は私の名前を知らないでしょ?」

「そっちこそ、俺の名前を知らないだろ?」


「残念だけど分かってるわよ、ユウスケくん。お隣のコーディアちゃんが貴方の事を考えていたようだから、拝借したわ」

「ちょっと! 人の心を勝手に読まないでよ!」

コーディアが胸を隠す。読心術相手にあまり効果は無いと思うが。


「私はクリア。ま、よろしく頼むよ」

「はいはい、分かりましたよ」

渋々了承してギルドを出る。


「まったく、漁村の問題ってなんだろうな?」

「グリモアを見ればわかるでしょ」

コーディアがカバンの中に手を突っ込んでグリモアを取り出す。


内容:漁村の事件の解決

場所:フィレッジ村

補足:一切合切不明であるため、注意すべし。


「不明って……」

「何が待ってるのかしら」

「行けばわかるだろうよ」

足早に仮拠点に戻る。ルナに内容を聞かせるとすぐに出発しましょうと言った。


俺とコーディアが背に乗ると、地面を蹴って空へ昇った。雲を突き抜けて燦々と輝く太陽をバックに東の方へ移動する。

「海の幸とか楽しみね」

「魚、貝……確かに楽しみだ」

くっくっくっとコーディアと俺は顔を見合わせて笑う。


「図々しくしてはいけませんよ。私達は対価をもらって働くのですから」

「報酬代わりでもいいんだよね。美味いものが食えれば、さ」

まったく、と溜息をついたルナ。


その後何度か休憩しながら飛び続ける。浜辺に村があるのを発見したルナはその上空を旋回し始めた。

「おや、旗を振っていますね」

雲間から顔を覗かせて、ルナが呟いた。俺とコーディアも覗き込んでみるが何も見えない。ただ、砂浜に黒い点がぽつぽつといるくらいだ。


「このまま降りてもいいのでしょうか」

「いいんじゃないか? ルナを見ても慌てないってことはさ」

「降伏のために旗を振ってるのかもよ」

三人で話し合っても埒が明かないため端の方に着陸した。すると、村人達がぞろぞろと駆け寄ってきた。


「ギルドから来たんだよね!?」

最前列の子供が、眼を輝かせながら言った。その後ろに群れる大人達も真剣な眼差しを向けてくる。

「えっと……」

「そうです、ギルドから派遣されました。この村で何か起きているとの事ですが」


俺が口ごもっていると、ルナがテキパキと答えた。

「いやぁ、ありがたいですな。三人ともなると心強いです」

筋肉粒々の漁師が笑った。彼らを見る限り、そこまで深刻な問題ではないのかもしれない。


「あの家に大イカの討伐に参加してくれる方々がいらっしゃいますので、顔合わせでもいかがですか?」

「その前に大イカって……なんすか?」


「それはそれは巨大なイカです。七日に一度、村の若い娘を差し出す代わりに我々に食料を渡すのです。そろそろ若い娘もいなくなって来てしまったので……」


「ははぁ……だいたい理解しました」

私がいるとまずいだろうと、崖の方へ飛んでいった。コーディアと並んで待機所のドアを開ける。


中には金髪青目の女騎士と槍を壁に掛けて椅子に座っているグレーの眼の男。兜はテーブルの上に置いてある。

「アンナさんに、キース……」

「ユウスケ! 久しぶりだな!」


相変わらず元気一杯のアンナは俺の手を握ると、上下にぶんぶん振った。

「痛いです」

「おっと、すまない……ここにいるってことは、ユウスケもイカを倒しに来たのか?」


「ええ、まあ。そうです」

「それなら、ユウスケご自慢の強い味方がいるんだろう?」

「あー……いますね。崖の方にいますよ」

この話を聞いたキースは立ち上がり、兜を被った。槍を持ち、外に出ようとこちらへ歩いてくる。


「どこに行くつもりだ」

「姉御の所へ行く。貴様には関係ない」

互いに数秒間睨み合い、先にキースが眼をそらした。乱暴にドアを開け放ち、口笛を吹いた。 


どこからともなくルナより小さいドラゴンがやって来た。背中に飛び乗ったキースを連れ、崖の方へ飛翔する。


やはり、気にくわない奴だ。雷に打たれて墜落すればいいのに。

とは言え、呑気に日向ぼっこでもしたくなる程の陽気だからそれは望めないだろう。

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