『ひ』から始まる本を棚の中から探し回る。
大方、『光の玉の置場所』とかそういう単純なものな気がする。変に難しくしてくるはずが無いし。
「ひ、ひ、ひ……光の護身術……光の魔法……ヒーロー全集……たぶん違う」
下の段で頑張って探しているコーディアも本のタイトルをぶつぶつ呟いている。
「未来の見つめ方……非道な拷問集……獣人めぐり……遺物の保管所……呪い呪われ……カジノ必勝方法……」
所々、発売禁止になりそうなワードを含んだタイトルが混じっている。おそらく過去にどこかの物好きが記した書物だろう。
「光る玉とその活用法……」
それらしい本をパラパラと捲ってみるが、ヒントらしきものはどこにも無い。手に持っている一冊を戻して別の一冊を取る。
「秘密の隠し場所」
内容はこの世界の滅亡の時期が記されていて、それを回避するにはある場所にある特別な道具が必要らしい。
これかと思ったのだが、内容が曖昧すぎるし、先刻の本とは語り口が違う。次の本に移ろうとしたところ、不自然に膨らんでいるページを発見した。
心を踊らせながら捲る。妙な図形が描かれたそこには、薄汚れた紙切れが挟まっていた。
ヒントを見つけたぞ、という喜びと関係の無いメモだったらどうしようという不安が渦巻く。
「…………」
興奮を抑えながら破かないように慎重に開く。
──この本の位置から反対側の本棚へ。そこから三つ右に進んで四段目にある本を探したまえ。これでラストだ。
「よっし!」
「見つけたの?」
「ああ、反対側の棚を右に三つ進んでくれ。そこの四段目にあるはずだ」
脚立から飛び降りて足早に答えの眠る棚に向かう。右からコーディアが調べ、左から俺が探す。
「いいか、一冊一冊をじっくりと確認するんだぞ!」
「うん!」
この棚は料理や雑学、経済といった本が並んでいる。和食や洋食のレシピのようだが、こちらの世界でも作れるものなのだろうか。
ある程度似たような食材があればできるのだろう。そういえば、久しぶりに蕎麦が食べたかったりする。
ネロを倒すことに成功したら借りにこよう。
「……違う違う……これも違う……」
一冊抜き取っては流し読みして、本を逆さに振る。埃しか落ちてこない。
めげずに次の一冊へ。
「モンスターマスターの日記……?」
黒革の表紙の日記帳のようだ。日記が図書館に置かれるとはどういうことなのか。
一冊の本として認められたら自動的にこの場所へ送られて保管されるのだろうか。
しかし、そうした場合本人の手元に残らないのではないか。勝手に複製されるのか。
玉の情報を探すことなど頭から抜けて日記の方へ興味が向いてしまう。誘惑には抗えないものだ。
──今日はスライムを見つけた。どうやら人間の血肉が好きなようだ。怪我をした私の腕に食いついて血を啜っていた。それと同時に体の色が赤くなっていく。
しかし、スライムが離るとその傷口は塞がっていた。治癒効果があるのかと気になり、今度は反対の腕に傷をつけてみた。
再びスライムは食いついた。奴が離れると、傷が治っていた。
以上の事からスライムには治癒効果があると判明した。
あと、ひんやりしてて気持ちがいい。
「ふーん……俺もここまでは分からんかったな……」
──本日は凄い発見をした!
銀竜に出会ったのだ! それも三頭もだ!
おそらく家族だろうと思い、近づいてみたら殺されかけたが、子供の銀竜が庇ってくれた。悪意の無いことがわかると、色々と質問に答えてくれた。
父親がファルス、母親がエリス、娘がルナだそうだ。
銀竜が住んでいるのは北の方の極寒の地と聞いているが、今回は娘の飛行訓練のために南の方まで遠出したようだ。
記念に剥がれた鱗を一枚もらったが、並大抵の武器では傷つけることは不可能に近い代物だった。
本日の探検は非常に有意義なものだった。
「ルナの両親ね……」
この先にも続きはあったのだが、あまりにも興奮して書いたのか筆跡がぐちゃぐちゃになっていて読めなかった。そっと棚に戻して次に移る。
「あ!」
コーディアが声をあげた。そちらに寄ってみると、ボロボロの手紙を持っていた。
「本じゃないけど……これかな?」
「まあ、開いてみようぜ」
ペリペリと今にも破れそうな手紙を慎重に開いていく。完全に開ききると、そこには魔法陣が一つ書いてあるだけだった。
「これだけ?」
落胆したコーディアが探しに戻ろうとすると、魔法陣が青く輝いた。
「何これ……」
陣の中央から青いローブを着た青年がこちらを見ていた。
「あー、これ始まってる?」
「おう、さっさと喋れ」
ローブの青年がこちらではない場所に向かって話しかけている。仲間だろうか。
「これって……最上級の記録魔法じゃない」
コーディアが息を飲んだ。ということはとてつもない魔法なのだろう。
「えーごほん、どうもどうも。俺はジュンです。一応賢者です。このメッセージを見てるってことは魔王と戦うってことだろう? そんでもって光玉が必要なわけだ」
ホログラムの青年は人懐っこい笑みを浮かべてこちらを見ている。
「そんで、古代図書館に隠した秘密を探ってこれにたどり着いたみたいだけど……簡単すぎたかな? ま、そんなことはどうでもよくてね。魔王の力を破る光玉は……どこだっけ」
「バーカ、樹海の祭壇の上空だろ?」
真剣な顔つきで語っていたホログラムさんだが、光玉の場所をすっかりと忘れてしまった模様。
しかし仲間のナイスフォローで事なきを得る。
「そうそう、例の祭壇の上。この話にピンときた君は流石だね。でも、空を飛ぶ手段はあるのかな? ヘリはもちろん飛行機もない。さあ、どうする?」
俺にはルナがいてくれるから空高くまで飛ぶことができる。飛行手段に関しては問題無さそうだ。
「魔法で飛んでもいいし、ドラゴンの背に乗ってもいい。ま、後者はミシマみたいな馬鹿しかやらないだろうけどな」
「なんだと!?」
この言葉を最後にホログラムが乱れ、青年は消えてしまった。しん、とした館内で俺とコーディアは顔を見合わせる。
「見つかったな」
「そうね、やったわ!」
ぎゅう、と抱き合って喜ぶ。ふかふかの少女を抱き上げてカウンターに戻る。
「お探しの物は見つかりましたか?」
「うん、十分さ」
「そうですか。お帰りになられますか?」
「もちろんさ。早く帰らなきゃね」
「それでは、ここに立ってください」
来た時と同じ所に魔法陣が点滅している。その上に乗ると、光はいっそう輝きを増した。
「またのお越しをお持ちしております」
光に包まれ、しばらくすると喧騒が聞こえ始め、粉塵が鼻をつき、くしゃみがでた。
戻ってきたのだ、アルデミア城に。
ズボンのポケットにはギルダから借りたカードが入っている。
「お、ユウスケが帰ってきたぞ」
「よう、ユーリィ」
「探し物は見つかったか?」
「ああ、ばっちし」
「今すぐにでも行くのか?」
「いや、腹が減ったよ。ルナ、もう一回家に帰ろう」
銀色の鱗を撫でるとかったるそうに目を開けた。
「ユーリィはどうする?」
「俺は自分の家に帰るよ。親父が心配してるだろうし」
「わかった」
コーディアと一緒にルナの背中に乗っかる。大きく口を開けて欠伸をした後、彼女は地面を蹴った。
風圧に負けないように姿勢を低く保つ。腹の下にコーディアを隠して飛んでいかないように守ってやる。
「それで、目的の物はどこにあるんですか?」
「ゴブリンがいた島覚えてるか?」
「ええ、よく覚えてます」
「あの上空だ」
パチパチとルナが瞬きをする。そんなものはあったかと記憶の中を探っているようだ。
「もっと上まで行かないと見つからないんだろうよ。飯食ってから行こうぜ」
「そうですね」
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