クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
だんご3

12話 チームワーク皆無

公開日時: 2020年9月3日(木) 18:00
文字数:3,510

「ユウスケ、あいつをキースと言ったな」

「ええ、魔王陸軍のお偉いさんでもあるそうですよ」

「なぜ、魔王軍がここにいる? それに姉御とは誰だ?」


「あー……この際言ってしまうと、俺の強い味方ってのはシルバードラゴンなんですよね」

「嘘だろ?」


「いや、ホントです。魔王を倒そうと持ち掛けてきて今に至ります」

「ありえない。銀竜が魔王を裏切るなど……」

「なんか、血を見るのとか無益な殺生が嫌になったそうで」


「……ふむ、そういう事にしておこう」

アンナが意味あり気に頷く。ルナが裏切る可能性を考えているのだろうか。

「それで、その獣人の子は?」


コーディアは意外と人見知りなのか、この部屋に入って以来ずっと俺の影に隠れていた。

「コーディアです。コボルトの群れに襲われているところを助けたんです」

「そうか、よろしく、コーディア」


コーディアに目線を合わせて手を差し出す。おずおずと小さな手で鉄の籠手がついたアンナの手を握る。

「もし、ユウスケに虐められたりしたら遠慮なく言うんだぞ」

「ちょっと、変なこと言わないでくださいよ」


「悪い悪い、ガラッと話が変わるんだが、今回の依頼の内容を知っているか?」

「さっき大イカを倒してくれって言われたぐらいですね」

「この村には数十日前に魔界の方から大きなイカが現れたそうだ。そいつが七日おきに村の娘を出せと言ったんだ」


「その話も聞きましたね。次の娘を差し出す日は何時なんですか?」

「明日の夕暮れだ。その時に、叩き潰す」

カシャンと籠手のついた手どうしをぶつけた。


「イカって事は海の上で戦う事になりますよね。俺とキースは乗せてくれるからいいけど……アンナさんはどうするんですか?」

「ふふ、その点は心配ない」

そう言うと、彼女は外に出た。俺達もついていく。晴天の下で何をしようというのか。


ぐっ、とアンナが両の拳を握り締めた。周囲の砂が少し浮く。じっと、見つめていると、背中から何かが突き出しているのが見えた。

だんだんとアンナの体が光始める。目が瞑れそうなほど光ると、僅かながらに宙に浮いた。


「ハァッ!!」

ボンッと小さく爆発が起きた。砂や貝殻、俺らもろとも吹き飛ばす。俺は尻餅程度ですんだが、コーディアは一回転して地面に突っ伏していた。

砂を払って起き上がる。砂塵がある程度収まると、アンナの姿が見てとれた。


水色のロングコートに盾と剣。ここまでは変わっていないのだが、背中に光輝く翼が出現していた。驚きのあまり、阿呆のように口を半開きにしてその翼を見詰める。

「なんすか……それ……」


ようやく口からでたのは数分経ってからだった。驚きように満足しているのか、アンナはくすくすと笑う。

「これはな、【光の翼】と言ってね。空を自在に飛べるのだ」

地面を蹴ると、軽やかに浮遊する。翼がはためくとアンナが高く高く昇っていく。


「どこでそんな凄いアビリティを身に付けたんですか?」

「この前、迷宮を踏破したら古文書があってな。それを読み解いて習得したんだ」

「それは……俺にもできますか?」


「無理だな。習得した瞬間に古文書は消えてなくなった。複雑な魔法陣だったから覚えてないんだ。すまないな」

「いえ……」

少々気まずい沈黙が流れる。何と切り出そうか迷っていると、後ろから突き飛ばされた。


「だ、誰だ!」

振り返ると、乳白色のドラゴンが俺を見下ろしていた。

「お前……キースのドラゴンか」

「ふん、あんたなんかキース様にかかれば一撃ね」


乳白色ドラゴンは鼻を鳴らして嘲笑する。ここまで言われて黙っている俺ではない。背負っていたリュックから斬馬刀を取り出す。

太陽の光を受けて刀身が煌めく。飛び掛かってきたドラゴンの鋭い爪による切り裂きをいなす。


着地の隙をついた突きを繰り出す。決まった、そう思っていたのだが、凄まじい速度で何かが刀にぶつかった。

右手から吹き飛び、近くの木に突き刺さる。

「少しは強くなったみたいだな……」

キースが貝殻を踏み潰してやって来た。

「キースさまぁ~」

甘えた猫なで声を出す乳白色ドラゴン。すり寄る彼女の頭をキースが撫でる。

「お前はもう下がっていろ、デラ」

「わかりました!」

キースは俺の前を横切り、太刀の突き刺さった木に近づく。自分の槍を地面から抜き、次に俺の刀を抜き出した。

「うわっ!!」

キースが太刀を上手投げした。放物線を描いた刀は見事俺の足元に突き立った。

「剣を取れ、この場で殺してやる」

森の中で会った時とは桁違いの殺気が皮膚をチクチク刺す。さほど暑くもないのに汗が滴り落ちる。


睨みあうだけなのにも拘わらず、息をするのさえも辛い。脂汗が頬伝って砂浜に垂れる。

「下がってろ、ユウスケ」

肩を掴まれ、はっと我に返る。自分の膝が震えているのに気がつき、何とか止めようと踏ん張る。


「アンナさん、危ないですよ」

「心配するな。こう見えても私は強いんだ」

「で、でも……」

「いいから、従っときなさい!」


反論しようとしたところ、コーディアに腕を引っ張られる。

「何すんだよコーディア」

「ユウスケじゃ勝てない! わかるでしょ!?」

「やってみなきゃわかんないだろ!」


「無理よ! あいつの前に立つので精一杯じゃない!」

「い、痛いところを突いてくるね、お前」

「ふん、死にたいなら止めはしないけど」


言ったっきり、プイとそっぽを向いてしまった。

「コーディア、おいコーディア」

砂浜に腰をおろしてキース対アンナの戦いを見ている。何度か呼び掛けるが返事は返ってこない。頬をツンツンと突っついたら噛まれそうになる。


「さっき、俺が怒鳴ったから怒ってんのか?」

頬から脇腹を突っつく。ピクピクとコーディアの体が震える。効いてる効いてると、さらに続けた。


「っ……ぅ……止めなさいっ!!」

くすぐりに耐えかねたのか、顔を真っ赤にして怒鳴った。だが、彼女の顔はまったく恐くなかった。むしろ可愛い。

「集中して見てなさいよ」

「拗ねんなよ~」


もう一度やってやろうと手を伸ばす。しかし、両手でガッチリとガードされて手が出せない。

仕方がなく、というのもおかしいが絶賛繰り広げられる戦闘に目を向ける。


「小娘にしては……やるようだな」

アンナの剣を躱し、槍を突き出す。鋭い一閃を盾で受け止める。火花がちり、キースがよろめく。


「はあッ!!」

アンナの袈裟斬りをバックステップで回避し、がら空きの脇腹へ槍を突き出す。柔らかな皮膚を突き刺す寸前で無理矢理身を捩る。

完全な回避にはならず、服が少し破れる。

「おい、見ろよあれ」


おとなしく座って見ていると、背後から誰かが言った。

振り返ると、騒ぎを聞き付けた村人達が観戦に来ていた。女騎士対竜騎士の戦いは瞬く間に村中へ広まった。

ぞろぞろと見物人が増え、歓声が巻き起こる。


「危ないから下がっててください!」

必死になって群衆を宥めようと奮闘するが、村人達は凄まじい戦闘に熱狂するばかりだ。


こうなっては収集がつかない。今やアンナは盾も攻撃に使用している。

槍を受けると同時にタックルをかます。

よろけたキースの腹部へ蹴りを叩き込んだ。

殺し合いが二転三転するごとに観客達は大声を上げる。


「これで……終わりだな……」

肩で息をしながら脳天めがけて剣を振る。デラがキャッと息を飲んだ。

「まだ……終わらんよ……」

キースがニヤリと笑い、右手だけで剣を掴む。アンナは両手で柄を握り、渾身の力を込めて切り伏せようと踏ん張る。


「な……!?」

片手対両手のはずなのに、アンナが押され始めた。片膝をついて立ち上がり、槍を突き出す。

今度こそ腹を貫通すると思われたが、一つの大きな咆哮によってキースの手が止まった。


その正体は崖の方から飛来したルナだった。鶴の一声と言うより、竜の一声だ。

「何をしているのですか!」

「姉御、これは……」

「黙りなさい。コーディア、何があったのですか。嘘を交えずに正確に話してください」


キースを一喝したルナは、俺の方を向いた。とんでもない声量を発していた群衆も、ルナの登場によって散り散りに逃げていった。

「まず、キースの竜がユウスケに飛びかかってきたのよ。それで剣を抜いて戦ってたらキースが来て、アンナと戦い始めたのよ」


簡潔に説明すると、ルナは溜息をついた。そして失望した顔でキースを睨む。

「まったく、これからイカと戦うというのに仲間意識は無いのですか!」

ガーッとルナの説教が始まり、殆ど被害者の俺まで砂浜に正座させられた。説教中、キースと睨みあい、心中で呪いの言葉を口ずさんでやった。


「──いいですか? 今後一切、喧嘩をしてはいけませんからね!」

ようやく解放された時には正午を大分過ぎていた。

時計が無いので太陽の位置から大体で割り出したのだが、全員の腹が鳴っているのであながち間違ってはいないだろう。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート