「…………」
黒フード集団を殲滅してからだいぶ時間が経った。椅子に座って何かを話そうと思うが、何も出てこない。
みんな黙り込んでテーブルの表面を見つめている。
正直に言うと、俺は焦っていた。早いとこアンナを助けに行きたい。いつ処刑されるかなんてわかったもんではない。
俺と関わったせいで捕まってしまったのだ。命に変えてでも助けに行かなければ。
何かやることが無いかと頭の中で模索してみるが、特に考え付かない。
「ねぇ……外の死体はどうするの?」
遂にコーディアが口を開いた。テーブルに肘をついて顔を隠しているためその表情は読み取れない。
「……俺が片付けてくる」
シャベルを持って外に出る。彼女達に不安を見せないように、するにはいい仕事だ。
ただ、無心になって穴を掘る。太陽に背を向けて黙々とシャベルを振り続ける。
目の前の物言わぬ死体がいくつか無くなっている事に気がついた。血の線が森の奥へと続いている。おそらく、動物や魔物が持っていったのだろう。
どの死体も首を一刀両断されており、それ以外の傷は見当たらない。それをシャベル一本でやってのけたレイルの剣術の上手さが伺える。
ガサリと数匹のスライムが茂みから飛び出した。
俺を見て襲いかかろうとしていたが、こちらが興味を示さないと、死体を包んで持っていってしまった。
人の死になんとも思わなくなってしまった俺の心は壊れてしまったのだろうか。
それ以前に、高校一年生の男子が剣という殺傷するための棒を振り回すこと事態おかしな話だ。
それでクラスメイト傷つけたり、この世界で生きるために頑張っている魔物を殺したり。
そもそも、魔物も人間を殺しているのだから人間が魔物を殺すのは仕返しとして当たり前なのではないか。
「考える事もめちゃくちゃだ……」
人一人を埋められる穴を掘った俺は、自嘲気味に笑う。首の無い死体とその体の持ち主かわからない頭を一つ抱えて穴に納める。
冷たくなる肉体に触れても、死んでいるんだとしか感じられない。申し訳ないという気持ちもあるが、自分が殺した訳ではないという責任逃れをする気持ちもある。
「参っていますね……」
「ああ、ルナ……」
自分の部屋からでてきたルナが傍らに座った。哀れむような目で俺を見つめてくる。
「何か用?」
「アンナの事で悩んでますね」
「そうかな……」
「そうですよ。大方、自分のせいでアンナが捕まったと思っているのでしょう」
「ルナが俺を殺しとけばこんなややこしい事にならなかったのにな」
「なんて事を言うんですか!」
突然ルナが怒鳴った。ビックリしてシャベルを取り落とす。
「と、突然怒鳴るなよ……」
「二度と! 死ねばよかったんなんて言うんじゃありません! いいですか!」
その気迫たるや、アビリティが無ければ腰を抜かして漏らしていただろう。アンナの件もあって彼女の言葉はさほど響かなかったが。
「ああ……そうだね。次からは気を付けるよ」
ルナから顔を反らして掘り続ける。二つ目の穴が完成してそこに首と死体を入れる。土を被せて終了。本当ならば簡易的な墓石でも置いてやりたいのだが、手頃な石が無いので断念。
それからルナとは一言も話さずに時が過ぎた。時折目が合うのだが、気まずくなって俯いてしまう。
「おーい、帰ってきたぜー」
「ユーリィ!!」
バン! と玄関のドアが開いた。ライジュが飛び出し、ユーリィに飛び付く。大きな体で少年に激突するが、ユーリィよろける様子もなく、しっかりと抱き止めた。
ライジュは目を細めて頬擦りしている。少々羨ましい。
「ほう、ここが変な家か」
彼の後ろからアレクシアを浮遊させている女性が現れた。緑色の長髪で尖った耳がつき出している。
「本物の銀竜じゃないか。ユーリィの話だからどうせ嘘だと思っていたのだが」
絹のローブをまとった女性がルナに近づく。怪訝そうな顔はするが、手を出さないでいる。
「そして、君がユウスケだな。私はギルダ、よろしく頼む」
ギルダの後ろに浮いているアレクシアは、威厳に満ちた表情は消え、白目を向いてだらしなく舌を垂らしている。
「あ、貴女は……エルフですか?」
「その通り。私はエルフだ」
「それと、アレクシアはどんな状態なんですか?」
「精神を破壊してしまってね。もう廃人さ。かなり強情で禁術を使ったら一瞬だったよ」
面白そうに話すギルダ。俺はこの女性に狂気を感じた。
「私がおかしい事をしているみたいな顔はしないでくれ。友達を助けたいんだろう? それならば、必要な犠牲だ」
「それでも、誰かの未来を奪っていい事にはならないはずだ」
「戦争になれば、情報を引き出すための拷問は必ず起きる。痛め付けてね。だから私は肉体的な痛みではなく、精神的な痛みにした。心が壊れてしまえばもう何も感じない」
「あんた、イカれてる」
「よく言われるよ。さ、こいつから聞き出した情報をみんなに伝えようではないか」
死体埋めを一時中断して家の中に戻る。少し立ち止まって、手を合わせて頭を下げた。
「よし、集まったな。これから話されることは全て真実だ。あんまり難しい追求はするなよ」
ギルダが二度手を叩くと、アレクシアの口が動いた。依然として白目のままで話すのは不気味だ。
「我々は坂下ユウスケを殺すために、やって来た。こちらの都合で喚んだが、モンスターマスターを保持していると魔王軍の手先にされる可能性がある。よって、殺すことにした。そして坂下ユウスケに関わりを持つ者は全員処刑というきまりになった」
「これが全ての真相だ。簡単な質問には答えられるだろう。ユウスケ、何か訊きたいことはあるか?」
ギルダが腕を組ながら言う。まるで実験動物か何かを見るかのような目でアレクシアを見つめている。
「なぜ、俺にモンスターマスターを与えた? これさえ無ければ俺は殺されないはずだ。そもそも高校生じゃなく自衛隊とか喚べばいいだろ?」
「アビリティは思春期に多く発現する。故に、君達のような学生が最適だったのだ。なぜ異世界人を喚んだのかは……わからぬ。王の判断だ。アビリティは完全に運だ。仕方のない事だ……」
アレクシアは心のこもっていない声で淡々と語る。その様に、俺は怒る気にもならなかった。
「アンナさんの処刑日はいつだ?」
「三日後。アルデミア城の中庭で公開処刑だ。処刑者はリンシア・マルベル。アンナの姉だ」
「あ、姉が妹を殺すっていうのか?」
「そうだ。彼女は規則に従って生きている。法に背いたものは家族であれ裁く」
中々にヤバい姉さんだ。真正面からぶつかって勝てるかどうか。
「そしてリュミエルもいる。貴様らに勝ち目はない」
アレクシアの顔が嫌味ったらしい顔に変化した。少しだけ感情が戻ったのかと思ったが、ギルダが指を鳴らすと、苦悶の表情に変化した。
「三日後、我々はアルデミアにいるわけだ」
「ギルダも来るのか?」
ライジュの膝の上に座ったユーリィが尋ねる。微笑んだギルダは彼の頭に手を置いた。
「ああ、もちろん行くさ。こんな面白いこと、生きているうちに合うことはそうない。でも、ユーリィは来るなよ」
「何で!」
「危ないからだ。わかるだろ? 最大の国に戦争を仕掛けるんだぞ?」
「で、でも! 俺には【模倣】のアビリティがある!」
「一度見れば使えるようになるあれか。やめておけ。あんなものは役にたたん」
「ユウスケはどう思う!?」
突然話を振られて戸惑う。キラキラと輝く瞳が俺に訴えかけてくる。
「お、俺もやめておいた方がいいと思う。親も心配するしさ」
「よし、わかった! ユウスケ、俺と戦え! 負けたら素直に家で待っててやる!」
勢いよく立ち上がって外に出ていった。みんなの視線が俺に集まる。
こうやって注目されるのは苦手だ。
「叩きのめしてやれ」
ギルダがヒラヒラと手を振った。ライジュもコーディアも頷いている。仕方なしに海神の剣を手に取る。
「どんな怪我を負っても私が治してやるから安心しろ」
頬杖をついたギルダがにやりと笑った。
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