クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
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54話 魔王の城

公開日時: 2020年9月20日(日) 17:01
文字数:1,947

魔界を飛んでいると、眼下の街からルナを讃える声援が聞こえてきた。

彼女の帰還を喜んでいるようだ。


だが、申し訳ないが今のルナは俺の仲間だ。もし仮に寝返る──いや、もとの場所に戻るというのならば止めはしない。

その場合、ここで落とされて俺とコーディアは汚い肉片になって人生に幕を閉じることになる。


「安心してください、ユウスケの側にいますから」

「それはありがたいね……」


不安が顔に出ていたのか、苦笑したルナに慰められる。

街からだいぶ離れると、アルデミアの城よりも一回り大きい城が姿を現した。


大砲やらバリスタ砲などが配置されている城壁には誰もいない。全軍、海岸の船に向かったのか。


いや、さすがにそれはないはずだ。ルナが空から攻めてくるのをわかっているのに、そこを放置するなどあり得ない。

城で何かあったのだろう。


加えてキースもいない。海岸にいないのだからここにいると思ったのだが。

デラに乗り、槍を構えて俺達の行く手を阻みに。

お前をここで殺すとか何とか言って襲ってくると予想していたのに、彼はいなかった。


ますます嫌な予感がしてくる。

「ルナ、嫌な予感がする。急いでくれ」

「わかりました」


もっと城に近づくと、壁に穴が空いているのが確認できた。そこから眩い光が漏れている。

「横田……!」


ルナが最高速度で崩落した箇所から突入する。と、彼女の足下にキースが横たわっていた。

自慢の槍は真ん中からへし折られ、緑色の胸当てには斜めの傷がついている。

デラは主人の後ろで倒れ伏していた。


「おい、キース! ダイジョブか!?」

「なんだ……来たのか……」


「コーディア、回復してやってくれ!」

「う、うん!」

キースの事はコーディアに任せて、俺はデラに駆け寄る。弱々しく目を開くと、微笑んだ。


「ユウスケ……」

「おい何があったんだ?」


「変な男が光る玉を持って……ネロ様に……」

振り返ると、横田とネロが剣を交わらせていた。あまりにも静かで気がつかなかった。


ネロの剣は光玉の輝きで消滅してしまうようで、躱す事しかできない。ニヤニヤと笑う横田はゆるゆると剣を振り回している。


「コーディア、次はデラを頼む」

腰に携えた海神の剣を抜く。柄のサファイアが燭台の光を受けて美しく輝いた。

──頼むぜ、リヴァイアサン! 


「──ッ!!」

無声の気合いと共に走り出す。狙うは横田の首。

切り落とし、床にアイツの脳みそをぶちまけてやる。


「おおっと、坂下! 気がついているぜ!」

横田の指先から黄色い光線が飛んできた。それは俺の胸のど真ん中に命中すると、鎖のように絡み付いてきた。


「ユウスケ!」

「おいおい魔王様、俺の事より坂下の方が大事か?」


魔剣がネロの脇腹を裂いた。鮮血が飛び散り、ネロが呻く。

がっちり締め付けられて動けない俺は、どうすることできない。

無理矢理引きちぎろうとすると、締め付けがきつくなる。

脇腹の傷が効いているのかネロの動きが鈍くなった。


「ハッハッハ!」

下卑た笑い声が崩壊した城の中で響く。


──リヴァイアサン! ネロが死ぬぞ! 力を貸してくれ! 


遥か彼方にいる海の底の神様に助けを求める。剣を強く握り、呼び掛ける。

と、サファイアが煌めいた。脳内に声が響く。


──坊を殺しに来た癖によく言うわ。まあ、坊もお前と戦いたがってたし、特別だぞ。


直後、爆発的な力が全身に湧いてきた。その力で黄色い鎖を引きちぎり、立ち上がる。

微かにする潮の香りを吸い込み、走り出した。横田の凶刃が今にもネロの首に叩き込まれようとしている。


「やめろおおおおおおッ!!」

剣を前に突きだし、横田の腹へ突き刺す。柔らかい腹部貫き、横田を後方へ吹き飛ばした。


「ネロ!」

寸でのところで間に合わず、彼の首から血が流れていた。傷は浅いが、切った場所が悪かった。止めどなく流れる。

手で押さえても溢れてくる。


「悪いなユウスケ……無理っぽい……」

「待てよ! 俺との約束はどーなるんだよ!」

「うん……ごめん……」


最後に微笑んで、ネロの体から力が抜けた。

「ネロ……」

彼の亡骸を丁寧に床に置く。涙を流していると瓦礫の山から横田の笑い声が聞こえてきた。


「よお、坂下……見てみろよ腹の傷が塞がってくぜ?」

俺が消し飛ばしたはずの奴の内蔵が再生されていく。

黒いオーラを身にまといこちらへ歩いてくる。


「これで俺が魔王だ。残念だったな坂下!」

「やったなシロウ殿。これで我々の勝利だ」


「……殺す! お前は絶対に殺す!」

この日、俺は初めて明確な殺意を持って殺すと叫んだ。

大爆笑する横田に斬りかかる。

回避しない横田の腹部を裂くと再び臓物がこぼれ落ちた。別段気にする様子もなく、ヘラヘラと笑い続ける。


「くくっ……坂下、お前じゃ俺を殺せねぇよ」

「そいつはどうかな?」

こんな短い会話の間にも奴の傷は全て塞がってしまった。

とにかくまずは横田を無力化させなければ。

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