「クソガキィッ!! 降りてきやがれッ!!」
城壁の下では重い鎧を身に付け、剣や槍を高々と掲げている兵士達がいる。誰もが俺達を罵倒するが、高みの見物というやつで精神的にも肉体的にもダメージは無い。
煽ったつもりではないのだが、軽く手を振るとさらに怒った。これ以上やると投擲物を使ってきそうなので早めに内側に入ることにする。
「さて、あの木を使って降りようか」
ユーリィが示す先には外壁よりも高い広葉樹が立っていた。飛び移れる距離まで、二人はすいすい歩いていくが、俺は足が震えて上手く進めない。
追加で兵士達が落ちろコールを挟んでくるので気が散ってしょうがない。
が、それでも負けずに慎重に足を出す。落ちることなく、目的地まで到達すると、兵士達はブーイングしてきた。
「ばーか!」
今度はわざと煽ってみた。手を振り数枚葉っぱを千切って落とす。
「そんな事してないで行くよ」
ユーリィが一番に移り、コーディアが続く。最後に俺が飛んで外壁の内側へ降り立つ。
「これがアルデミア城か……でかいな」
感嘆の息を漏らすユーリィ。俺は溜息しか出てこない。
初めて来た時は殺されかけ、ルナに助けられて外観を見る暇がなかった。
改めて見ると、かなりのサイズだ。
白塗りの石を積み上げてできた城は、両端に塔がある。俺達がいるのは右側の塔の裏側で、洗濯物が干してあるのが確認できる。
中央の建物のテラスには国の紋章が描かれた垂れ幕が掛けられている。
「どこで処刑するだろう」
辺りを見回すが、声らしきものは聞こえない。
「そんな時は私にお任せよ」
ポンとコーディアが自分の胸を叩いた。目を閉じて耳に全神経を集中させ始めた。
「……こっちよ」
城の反対側へ歩き出したコーディアの後に続く。しばらくすると、数人の声が聞こえてきた。
「君も気の毒だねぇ、妹を殺さなきゃいけないなんて」
リュミエルがのほほんとした口調で言った。相手は、おそらくアンナの姉であるリンシアだろう。
「……私は法に従うだけだ。私情は挟まん」
大人びた声だが、俺の苦手なタイプだ。融通の利かない、面倒な人種。
「それじゃ、始めようか。王様も来たし、ね」
「おい、ルナはまだなのか?」
「知らん!」
怒鳴った瞬間、氷塊が裏庭付近に直撃した。舞い上がる砂塵、響く悲鳴。そして轟く咆哮。
「ようやくだな……」
こそこそと壁際に寄って状況を確認する。彼方より飛来するルナが再び氷の塊を吐いた。
「来たね、レイル」
着弾寸前に、リュミエルが破壊した。
「何事だ!!」
「王は中へ避難していてください」
慌てふためくディアスに、微笑みかけるリュミエル。すぐに前を向き、好敵手を迎える。
ホバリングするルナの背中からライジュとレイルが飛び降りた。ギルダは待機している。
「隙を見て行こう」
小さな二人を背後に隠しながら戦況を見守る。
レイルの着地と同時にリュミエルが斬りかかってきた。着地の反動をものともせずに、力強い一撃を返す。
僅かに体勢を崩したリュミエル。しかし直ぐに持ち直し、攻撃を始める。
剣どうしがぶつかる度に、凄まじい衝撃波が襲い掛かってくる。
一方のライジュは雑魚兵士を相手している。槍による一突きを避け、側頭部へハイキックを叩き込む。
ボーリングのピンのように仲間を巻き込んで倒れる。
「飛べ、ライジュ!」
ギルダの一声で、ライジュが戦線から離脱した。獣人の異常な身体能力活かして、城壁を蹴り、ルナの腕にぶら下がる。
「《サンダストーム》」
突如として荒々しい竜巻が発生する。その中心からは雷が轟いていた。吸い込まれた兵士達は雷に打たれて感電し、大砲などの兵器は一瞬にして粉々になった。
これで空中にいるルナが狙われることは無いだろう。魔法を除いてだが。
「よし、そろそろ行こう」
崩壊した敵陣へ駆け足で突っ込む。転がっている兵士達を避けながら処刑台に繋がれたアンナの元へ至る。
「アンナさん!」
「ユウスケ! コーディア! と、誰だ?」
「ああ、俺の事は気にしないで。感動の再開を続けてくれ」
処刑台から離れてレイルの戦いを観戦しにいくユーリィ。
海神の剣で鎖を断ち切り、アンナを自由にする。
「ありがとう。どれほど感謝すればいいか、わからない……」
「そんなのは後にして、逃げますよ!」
今のアンナの金色の髪はボサボサで、生地の薄いボロボロの服を着ている。しかし、表情だけはイキイキしている。
「ルナ! 二人を頼む!」
「任せてください」
尻尾で絡めとり、二人を背に乗せる。
「ギルダ! 二人を家まで送っておいてくれ」
「ちょ、ちょっと! どういう事よ!」
翼越しにコーディアが顔を出して抗議してきた。落ちないようにアンナに支えられている。
「敵さんは簡単には帰してくれないみたいだからな。風呂にでも入っててくれや!」
「ユウ──」
ギルダの手が輝き、反論される前に二人を強制送還した。アンナは何も言わなかったが、おそらく精神も肉体も疲れているのだろう。
ゴミみたいな食事に不衛生で狭い牢屋。風呂にも入れず、女性として辛かったのだろう。
「お、お前は!」
崩落した壁から顔を出したのはディアスだった。身に纏うローブは砂埃で薄汚れ、顔には恐怖が張り付いている。
「お久し振りです」
「な、何でここに来た!」
「いや、仲間を助けるためにですね。別に復讐とか考えてないんで安心してください」
「やはりあの場で殺すべきだったなモンスターマスター! いずれは私を脅かすと思っていたわ! やれ、リンシア!」
入学当初は生徒思いの良い人だ、と思っていたが、こちらの世界に来てからディアスの株はだだ下がりだ。そして、たった今の発言で底をついた。
謝ってくれるなら許そうかとは思ったが、まさか部下を投入してくるとは。
鉄仮面に重鎧姿のリンシアは横幅の広い剣を構えた。
「やってしまえ」
世界最高峰の戦闘が繰り広げられている隣で行われる俺達の戦いは子供の喧嘩のようなものだろう。
蹂躙されないように、しっかりと相手の目を見据える。
リンシアはディアスが隠れた事を確認すると、斬りかかってきた。
女性から放たれる一撃とは思えないほどに重い斬撃だった。
一気に体勢を崩されてがら空きの胸へ剣先が迫ってくる。咄嗟の判断で左腕でガードした。
手の甲の骨が砕け、血が滴り落ちる。
「っ……アアアアッ!!」
闇雲に剣を振ると、彼女の兜に命中した。鉄製の兜はあっさりと壊れて吹き飛んだ。
兜が無くなった事に気をとられている隙にバックステップで距離を取る。
左手を犠牲にしたこの攻撃、果たして意味があったのか。
「ちっ……」
リンシアが舌打ちし、顔を上げた。右眉の少し上が切れて血が垂れてきている。
「うわわ……えと、ごめんなさい!」
左手の痛みを忘れ、剣を頬り捨てて駆け寄る。が、喉元に刃を突きつけられる。
「アホなのか貴様は……」
「で、でも、顔に傷を負わせて……早めに治療すれば痕は残らないと思いますけど……」
「ふん、傷は騎士の勲章だ。貴様にどうこう言われる筋合いはない」
ぐいっと喉に刃が刺さる。血の玉が膨らみ、首筋を流れる。
「でも、女性として顔の傷は欠点になりますよ。そこを愛してくれる人もいるかもしれませんが、無い方が良いですって!」
「貴様が私に勝ったら考えてやろう」
「速攻で倒しますから」
さっさと剣を拾って地面を蹴った。押し倒せば、おそらく敗けを認めてくれるはずだ。
そう信じて、海神の剣を振り上げた。柄のサファイアが太陽を反射し、リンシアの顔を照らした。
「くっ……!!」
眩しさにリンシアが怯んだ。この絶好のチャンスを逃さずに肩口から右斜め下に切り下ろした。
鎧だけを切り裂き、皮膚には傷をつけないように細心の注意を払ったが、どうだなるか。
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