クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
だんご3

53話 強いぞ転生者

公開日時: 2020年9月20日(日) 16:01
文字数:3,284

「来ないならばこちらから行くぞ」

ジェイスが背中の鞘から青竜刀を抜いた。その大きさはユーリィと背丈とほぼ同じサイズだ。


黒い太陽の光を受けた刀身は、血を欲するかのようにぎらりと不気味に煌めいた。少々疲れたユーリィはジェイスとは反対の方向に走り出した。


何度か転びそうになるが、懸命に走る。

嘲笑が敵陣から沸き上がる。罵声を飛ばされても気にせず、ぶつぶつと呟きながら砂浜を駆ける。

すぐ後ろまでジェイスが迫って来たところで振り返った。


「鬼ごっこは終わりか?」

「いいや、始まってすらいない。──我に仇なす悪鬼を退けよ!【ゴーレム】!」


両手を柔らかい砂に叩きつける。小さな爆発が発生し、その爆心地から人型の物体が姿を現した。


「真っ赤な砂のゴーレム。名前は……サンドゴーレムだな」

砂でできたサンドゴーレムの耐久力はお察しの通りだが、再生力が半端ではない。

上半身と下半身を両断されたとしても、乾いた砂故にすぐにくっついてしまうのだ。


「そいつの相手頼んだぜ」

別の場所に移動し、サンドゴーレムを複製する。核が存在しないと動かないゴーレムだが、今回は臨時という事で拾った貝殻を核にしていた。


貝殻ならばそこら中に落ちているから素材に困ることは無い。後はどれだけ複製できるかだ、とユーリィは作りながら考えていた。


「……行ってこい。俺はしばらく休憩する」

八体目のサンドゴーレムを作成し終えたユーリィはギルダが座っている場所までゆっくりと歩いた。


「放っといていいのか?」

「ああ、構わないよ。どうせいつかは突破される。それまで相手を疲れさせるのが目的さ。ちょこっと回復してくれるとありがたいんだけど」


「さっきも言ったが私は今、魔法を封じられているんだ。あの石板さえ破壊できれば使えるが……破壊と同時にライジュが殺される」

髪を結び直したギルダが杖で魔法陣の落書きを始めた。


「ライジュをどう思う?」

「え? どうってなぁ……」

「あの娘、ユーリィの事が好きだよ」


「好きって? どっちの好き?」

日本ではこういった、浮いた話が無かったユーリィは動揺している。今、ここで話すべき事なのかと内心で叫ぶ。


「異性として見てるね。結構前から好きだったんだってさ」

「それは……ありがたいけども……」


「獣人とは付き合えないって?」

「いや……そうじゃないけど……」


ユーリィはライジュと過ごした数年間の出来事を思い返してみた。

夜は抱えられて眠り、風呂にも一緒に入り、出かける時も一緒。大体の行動を彼女と共に過ごしてきたのだ。


それまでは一度も意識したことが無かった彼だが、改めて考えると彼氏彼女以上の関係だったと気づいた。

瞬時に顔が赤く染まり、照れているのを隠すべくギルダに背を向ける。


「照れるな照れるな。遠回しに訊いてくれと頼まれたのだが、直接訊いた方が早くて私は好きだ」

「俺は……まだライジュを幸せにする覚悟が無いし……ねぇ?」


「ねえ、と言われてもな。一度ライジュに惚れ薬の作成を頼まれてな。一応完成しているんだが……この戦争が始まってしまって渡せてないんだ」

ギルダが腰のポーチから緑色の薬液が入った小瓶を取り出した。


「どうする? 」

「どうするって……」

「ちなみに無味無臭だから何かに混ぜられても分からないからな」

ユーリィは恐る恐る小瓶の栓を開けて匂いを嗅いでみた。


「こんなものはこうしてやる」

ギルダの手から引ったくって砂浜にぶちまける。たちまち薬は蒸発し、ハート型の黒い煙が上がる。

そのハートに亀裂が走り、半分に割れて消え去った。


「本人にはちゃんと言えって伝えといてよ」

「わかった」

ちらりとサンドゴーレム達に目を向けると、半数が核を破壊されていた。もう少し時間を稼ぐために貝殻を一つ拾って魔法をかける。


「行ってこい」

物言わぬ砂の兵士は黙々とジェイスに向かって行進していく。


「ユウスケは勝てると思うか?」

ぽつりとユーリィが呟いた。不安を隠しきれないようだ。


「さあ……私にはわからないね。銀竜がなんとかしてくれると思っているけど」

「だといいんだけど……仮に、負けたらどうする?」

最悪のシナリオを考えているユーリィの瞳には不安の色が浮かんでいる。まるで未来でも見えているかのように。


「……神のみぞ知るってところね。彼らを信じてあげなさい」

「ああ、そうだな……」

「ほら、ゴーレム達がやられたわよ」

サンドゴーレム達が負けたのを指摘された彼は立ち上がった。ズボンについたきめ細かい砂を払って短剣を手に取る。


「それじゃ、行ってくる」

砂と汗で汚れたジェイスの前に、涼しい顔で立ちはだかった。荒い呼吸のジェイスに対し、容赦なく攻める。


「小賢しい……真似を……」

「悪いね。これが俺の戦い方だからさ。無駄に怪我したくないしさ」

青竜刀の刃を短刀で軽く流して脇腹に傷をつける。小柄な体を活かして青竜刀を掻い潜る。


背後を取り、右の太股を縦に掻っ捌く。筋肉を断ち切る音が砂浜に木霊する。海の向こうにある魔界の門から笑い声がする。

誰かの死を喜んでいるかのように。


「う……ガアッ!!」

膝をついていたジェイスが突然振り返った。青竜刀による横凪ぎを短刀で受け止めるが、力の差は圧倒的だった。

人形のように宙を舞ったユーリィは腕から地面に落ちた。右肘があらぬ方向に曲がっているが、彼は気にするようすがない。


「なぜ痛がらん……!?」

「アビリティ【痛覚遮断】。俺への一切の痛みはカットされる。そして回復魔法と合わせることで、ノーダメなんだよな」

ゴキゴキと肘が回転して元の形に戻る。二度三度、稼働に支障がないかを確認してから構え直す。


「化け物が!」

「あんたに言われたくはないな」

ボロボロの敵に向かって言い返す。これではもうどちらが悪役かわかったものではない。


「おい、死にたくなければライジュを解放しろ。さもなきゃ、部下を殺した後にお前を痛め付けて殺す」

青竜刀の攻撃範囲から離れた所でユーリィが言い放つ。


「こっちはいつでもお前らを殺せるんだ。早くしろ」

短刀の先に電気が迸る。魔封じの石板に向けられた短刀はどんどん電力を貯める。


「ちっ……解放しろ」

ジェイスが大声を張り上げると、ライジュを縛っていた縄がほどかれた。自分を縛っていた魔物にパンチを喰らわせてからユーリィめがけて一直線に走る。


「ユーリィー!!」

いつもだったら快く受け止めたはずだが、先程の話もあり、あまり顔を合わせたくなかった。

そこで彼は飛び込んできたライジュの腕を掴み、後ろに倒れながら腹に足をかける。


そして勢いに任せて後方へ投げ飛ばす。柔道の技である巴投げを綺麗に繰り出したユーリィは少し嬉しかった。

が、すぐに切り替えてジェイスを睨む。


「……降参するなら殺さない。さっさと帰れ」

「俺達の同胞はお前らの仲間によって殺された。仇を打たなければ収まらん」


「止めとけ。兄貴とリュミエルには勝てねえよ。瞬殺がいいところだ。俺が止めてきてやるから帰れ」

レイルとリュミエルのいる場所まで向かうユーリィの背を、ジェイスはただただ見つめていた。

異常な強さを誇る少年に負けた自分が情けなくて動けなくなっているのだ。


その辺に散らばっている魔物の残骸を踏まないように進まんでいくと、レイルとリュミエルが海をバックに佇んでいた。


「終わったのか?」

「まあな、俺は三百以上殺したぞ」

「僕は三百五十を越えたからね。僕の勝ちだ」

レイルが何かを言う前に先にユーリィが口を開いた。


「いいか、ここでの戦いは終了だ。後はユウスケ達が帰ってくるのを待つんだ。いいな?」

「んだよ、これからなのに……」

幼い子供のように駄々をこねるレイルを一喝し、話を進める。


「俺達が勝った後に、一応恩を売っておくんだよ。そうすりゃ変な衝突を避けられるだろ?」

「確かにそうだけど……全滅させれば反撃の心配もないよ」


「あのなあ、俺達にも家族がいるわけで魔物にも家族がいるんだよ。家族が殺されて恨みを抱かない奴なんているか? いないだろ? だから下手な戦いは避けるべきなんだ。分かった?」


「仕方ない……彼の仕事が終わるのを待とうか……」

ユウスケ達の飛んでいった方向に目を向けたリュミエルが呟いた。

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