クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
だんご3

7話 獣でも女の子

公開日時: 2020年9月2日(水) 17:00
文字数:3,234

「起きてください」

ペチペチと頬を叩かれている。硬い爪が首筋を撫でた。これくらいの刺激では目を覚ますに至らない。


「あともうちょっと……」

「それを言うのは三度目ですよ」

「うーん……」

寝返りをうって太陽から顔を背ける。

「やれやれ」

ザボンと何かを川に突っ込んだ音がした。数秒後、俺の顔に冷たい水が降り注いだ。


「ぶわっ!?」

地面から跳ね起き、顔を拭う。柔らかい布団ではなく硬い土で寝たからか、体の節々が痛い。

「ようやく起きましたか。早く朝ごはんを食べて依頼を探しに行って下さい」


「朝飯、ね……俺は朝抜く派なんだ。だから行ってくるよ」

「食べないと力が出ないですよ」

「元から力なんて無いんだから変わらないよ」

「いいから食べなさい!」


鬼母の如き形相で睨みを効かせる。

「わかったよ」

カバンからパンを取り出して貪る。水は川から掬って飲む。

「今度こそ行ってくるよ」

森を抜けてイーリアの町に入る。朝だからか人通りが少なく、スムーズに進める。ギルドの戸を潜ると騒々しい冒険者達はいなかった。


「あら、早いじゃない」

「どうも、依頼を受けに来たよ」

「今日はどうする? 高いの? 簡単なの?」

「そうだな、俺ができるくらいのやつ」

「そうね……」


受付嬢はファイルをめくりながら唸る。一冊終わって次のファイルへ。中々見つからないようで苦戦している。

この事から分かるのは、俺が頼りないということだ。


下手に難しい依頼をやらせて死なれたら困るとでも思っているのだろう。

「あ、これなんていいんじゃない?」

四冊目のファイルの中間辺りで手を止める。


「最近、町の西側の平原でコボルトの群れが目撃されててね」

「コボルトって、狼っぽいあの?」

「そうそう、ゴブリンよりもお馬鹿だから対処は簡単よ。攻撃してくるのは前と後ろからだけ。しかも噛みつきと爪だけ」

「ホント?」

「昔の魔物研究者が本にそう書いたんだもの」

「ふぅん……」


実際に俺が頭の中で思い浮かべればいいだけだが。 

「さ、グリモア貸して」

ポケットからグリモアを出して手渡す。表紙に手をかざすと、緑色に光った。


内容:コボルトの群れの討伐

場所:イーリア平原(西)

補足:特になし


「頑張ってねー」

やる気の無さそうに手を振って送り出され、小走りでルナの所に帰った。

「ルナ、西の平原まで行こうぜ」

「西の平原ですね。どんな依頼を受けたんですか?」


「コボルトの群れの討伐」

「コボルトですか、爪の攻撃が厄介ですが、なんとかなるでしょう」

リュックを背負って蛮刀片手にルナの背中に乗り込む。


助走無しで飛翔し、大空に向かう。人に見られると面倒くさい事になるから雲の上を飛んだ。

朝の涼しい空気が肌に優しく触れる。ぺたりとルナの背中に倒れ伏して目を閉じた。


「コボルトは一人で対処するんですよ」

「えー……危なくなったら助けてくれるよね?」

「考えておきます」

何度か雲の下を覗き、目的地までの距離を確認する。五度目でぐるりと大きく旋回した。


「ユウスケ、コボルトが何かに群がっています」

起き上がってかなり遠い地面に目を向ける。

よく見えないが、灰色の綿埃のような集団が数匹集まって何かを取り囲んでいるのが確認できた。


「コボルトが群れている時は大抵獲物を弄んでいます」

「それじゃあ誰か襲われてるってこと?」

「その通りです! 蹴散らしますから処理は任せましたよ!」

飛び降りれる程の低速になり、高度も下がる。蛮刀で自分の体を傷つけないように気を付けて飛び降りる。


アクション映画さながらの着地をきめてコボルト達を見据える。そこにルナが脅しをかけるように大声で吼えた。俺の鼓膜まで破れそうになるほど強力なものだった。


ルナの咆哮に驚いたコボルト達はルナを見上げ、次いで俺を睨んだ。リーダー格の一匹が一声鳴くと、したっぱ達が四足で走ってきた。

最初の一匹が大口を開けて跳躍した。


咄嗟に蛮刀を突き出し、屠る。

仲間が倒され、頭を使おうと動きがゆっくりになったところへ高々と掲げた蛮刀を振り下ろした。


「ギャンッ!?」

さすが獣、と言うべきか。恐るべき反射で後方に飛び退いた。剣先はコボルトの鼻頭を掠めただけだった。

サクサクと背後から草を掻き分ける音がした。手の中で蛮刀を反転させ、振り向きながら振り抜く。第三のコボルトの横っ面を切り裂いて倒す。

「あと二匹!」


策が尽きたのか、ボス格としたっぱが一直線に突っ込んできた。奴らを切るために構える。

右斜め下に振り下ろし、一匹始末。そのまま自然な流れで反対方向に切り上げる。


喉笛を切り裂かれたコボルトは突進の勢いが衰えて絶命した。辺り一帯は噴き出したコボルトの血液で真っ赤に染まっていた。

だが、雨が降ればすぐに綺麗な平原に戻るはずだ。



「ふぅ……」

今回も俺は大量の血を浴びたが、不思議と気にはならなかった。

「襲われてた奴はどうだった?」


呼吸を調えながらルナに尋ねる。

「ちょっと怪我してますが生きてはいます」

気を失っているようでピクリとも動かない。着ていた服はビリビリに裂かれ、半裸だ。


それよりも気になるのは兎のように大きな耳だ。ツンツンと耳に触れると、ふさふさの毛が指をくすぐる。

「ぅ……」


僅かにまぶたが動いた。

「お、復活か?」

パチパチと目をしばたき、俺とルナの顔を交互に見る。黄色い卵形の大きな瞳が不安そうに潤む。


「落ち着いてください。私達に敵意はありません」

ゆっくりと身を起こした獣の少女は胸を隠して頬を赤らめた。

「あ、あんまり見ないで……」

「え、なんで?」


「な、なんでって……」

頭上にクエスチョンマークが浮かんでいる俺は彼女を見つめて返答を待つ。

「裸を見られて喜ぶ女がどこにいるのよッ!!」

細い腕のどこにそんな力があるのかと尋ねたくなるような左ストレートが飛んできた。拳は顔面にめり込み、俺はぶっ飛ぶ。


「うちのユウスケが馬鹿でごめんなさいね」

ルナが謝りつつ、カバンからシャツを渡す。

「痛い……」


「ちょっと強く殴りすぎたかしら。ごめんなさいね」

少女が俺の鼻に手を触れると、痛みが消えて鼻血も止まった。 

「あら、血だらけじゃない。《クリア》!」

水色の光が俺の全身を包む。風に吹かれた落ち葉のように血糊が飛んでいく。


文字通り飛んでいくのだ。風に乗ってさよなら、という具合に。

「さて、これで一段落ついたわね。私はコーディア。はるばるイーリアまでやって来たけどコボルトの群れに襲われてた路銀やら色々奪われてしまったの」


「それは、気の毒に」

「貴方達はギルドに登録してるでしょ? 私が怪我を治したり血とかを消したりするから、貴方達の家に住ませてくれないかしら?」

上目遣いでパチパチとしばたく。

それはもう、パッチパチにだ。


「俺は構わないけど……」

「私も構いませんよ。ただ、当分は野宿になります」

「野宿か……まあ、ゆくゆくは家が建つんだよね?」


「もちろん、大きめの拠点を作るぞ」

「決まり! よろしくね、えーと……」

「私はルナ。こっちがユウスケ」

「ルナとユウスケね」

小さくて可愛らしい獣娘が仲間に加わった。


「とりあえず、ギルドに報告に行くか。その後でコーディアに服を買わなきゃな」

「分かりました。送ったら先に戻ってますから」

「うん、よろしく頼むよ」

びょん、とウサギさながらの跳躍力で背に乗る。

「コーディアって何?」

「え!? な、何って言われても……」

「すまん、言葉が足りなかった。種族……とかそういうの?」


「ああ、私は獣人っていう括りなんだ。正式名称は無いよ」

先程まで明るかったコーディアの表情が曇る。地雷を踏んだと感じ、頭を下げる。

「何か悪いこと訊いちまったな……すまん」


「いやいや、気にしなくていいよ。人間に優しくされたのは久し振りでさ」

「ふぅん?」

「二人とも、着きました」

ルナが柔らかく木陰に降り立つ。硬い背中から地面に滑り降りる。

「それじゃあ行ってくるから」

「気を付けるんですよ」

「大丈夫だって、そんな子供じゃないんだからさ」


昨日はそんな事言わなかったのに、何かあるのだろうか。

不安そうなルナの瞳はコーディアを見ていた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート