クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
だんご3

33話 兄貴

公開日時: 2020年9月10日(木) 17:00
文字数:3,043

「ねぇ、ユウスケ。何でこんな所で寝てるの?」

腕を交差し、テーブルの上に置く。その中心に顔を埋めてセルフ枕を作る。 

しかし心地よい眠りを邪魔するものが一人。


「ねえってば」

ライジュである。朝っぱらからうざったいと言いたくなるぐらい、執拗に尋ねてくる。諦めてユーリィの所へ行けばいいものの、何故俺をターゲットにしたのか。


「うるせぇな──ウギャッ!」

上体を起こした瞬間、猛烈な痛みが背中から腰にかけて走った。


「だ、大丈夫!?」

「大丈夫じゃないから……寝かせてくれ……」

「起きてよぉ~。ボク、銀竜の部屋に行くの怖い~」


「チャンピオンが何言ってんだ……」

「むむむ……そう言うことを言うなら!」

もちっと柔らかい何かが背中に当たる。それも二つ。眠いため定かではないが、たぶんライジュの胸。

ぎゅっと俺の胸の前に手を入れて引っ付いてくる。暖かい布団代わりに丁度いい。


深い深い眠りに落ちそうになった瞬間、とんでもない衝撃が俺を襲った。叫ぶこともできずに、全身が痺れてぐったりと動けなくなる。

髪が逆立ち、所々が黒焦げになっている。


「あれ……やり過ぎた?」

がっつり麻痺しているため、そうだとは答えられなかった。

その後、さんざんライジュにつつかれた挙げ句に背負われて外に連れ出された。ひんやりとした外気が鼻をくすぐり、どでかいくしゃみがでる。


体感的に午前四時とか五時だろう。空がまあまあ明るい。

そして横田との死闘が十時過ぎ。そして眠りについたのが十一時とかだろう。


すべて憶測だが、たぶん間違ってはいないはず。

昨夜ユーリィとライジュに出会った川までやって来た。

突然、冷たい川の水を顔にぶちまけられる。驚きと冷気で完全に目が覚める。

おはよう、と微笑んだライジュが俺の姿を見たとたん、半歩下がった。


「うわっ! ユウスケ血だらけじゃないか!」

「あぁ……これはな──」

昨晩、というか数時間前に起きたことをなるべく簡潔に説明する。その間ライジュは興味深そうに話を聞いていた。尻尾を左右にぶんぶん振りながらだが。


「そっかぁ、ユウスケ頑張ったんだねぇ」

「ルナ達が起きてくれないからどうしようかと思ってたよ」

「それでも、知り合いが助けてくれたんでしょ?」

キースとネロの事は伏せておいた方がいいだろうと踏んで、匿名の知り合いということにしておいた。

魔王とその部下に出会った、しかも知り合い。なんて言ったら裏切り者、とか言われて殺されかねない。


「家の前とかも酷かったろ?」

「そうなの? ユウスケを背負うのでいっぱいでさ」

「そうか……ま、修復作業を手伝ってくれたまえ」

「えー……」


「それじゃあ、料金取ろうかな。宿泊代として」

「わかったよ」

渋々と俺の後ろについてくる。家まで戻って、物置に入る。

建てて数日なのにもう埃が舞っている。軽く咳き込みながら目的のものを探す。


「ねぇ……ごほっ、埃がすごいんだけど……」

ふかふかの手で埃を払うが、逆に絡まっている気がする。

「あったあった」

シャベルを二本取り出す。一本をライジュに渡す。


「さ、行くぞ」

庭は、改めて見ると酷いとしか言えなかった。横田の無茶苦茶な攻撃でボコボコになっている地面、デラの雷によって倒れた木。

家も所々焦げていたり、傷がついていたりする。


「よく起きなかったよな……」

「ボクはホットミルク飲んだからなぁ」

「ルナとユーリィ、起きてたかもな。わざと来なかったとか」

「さあね」

血だまりになった所を掘り返して、埋め直す。広範囲に渡って撒き散らされた血はどこかに続いていた。


「これは……」

森の奥深くに見える血痕をふらふらと追いかけていく。

「ここが終着点か」

点々とだった血の跡がここに来て水溜まり状になっている。まだ乾ききっていないようで、ねっとりとしていた。


「魔法でどっかに行ったのかな」

わかるわけでもないのに、しゃがんで考えてみる。魔法に関する知識が無いに等しいため、何があったのかさっぱりだ。

不意に、背後から足音がした。


「あれ、君は誰だい?」

栗色の髪をした青年が茂みから現れた。恐ろしいほどに調った顔つきは、人形のようだ。しかし、人当たりの良さそうな顔だ。


「……俺は、ユウスケ……」

こんな早朝に森の中を彷徨いている人間だ。何かあるはずだ。横田同様、魔剣に操られているのかもしれない。


「落ち着けよ。俺は危害を加えるつもりはないぜ?」

「証拠は?」

「そうだな……俺は丸腰だ。それぐらいしか、できないけど」

ポケットを全部ひっくり返して武器を持っていないアピールをする。


「わかった。信じるよ……」

「そういや、ユウスケって言ったか?」

「ああ」

「ユーリィが世話になってるみたいだな」


「え……?」

「俺はレイル。ユーリィの兄貴だ」

確かに、似ていると言われれば似ているかもしれない。髪の色だって、目の色だって。


「ホントか?」

「ライジュって獣人がいるだろ?」

「よし、会ってみてよ」

万が一悪いやつでもルナとライジュがなんとかしてくれるだろう。 


「あー! ユウスケどこ行ってたの!」

すっかり整地してくれたライジュが詰め寄ってくる。怒っていてもかわいい。流石獣人。人にはない良さがありまくり。


「あー、レイル!」

「おっす、ライジュ。朝から偉いな」

「でしょ、ユウスケが手伝ってくれないんだもん」

「悪かったって」


「んで、ユーリィはどこにいるんだ?」

あそこ、とライジュが小屋を示した。シルバードラゴンがいることを伝えなくていいのか。もう知っているのか。

「うわっ! 銀竜じゃん!」

「何ですか……」

ルナが目を覚ましたようだ。まだ眠いのか、声にトゲがある。


「誰ですか、貴方は」

「俺はレイル。そこにいるチビの兄だ」

「ああ、ユーリィのお兄様ですか。──起きてください」

ルナの尻尾に揺り動かされてユーリィが目を覚ます。大あくびをかいて再び眠りにつこうとする。


「おい、起きろよ」

目をつぶる前にレイルが座らせる。ようやく兄が目の前にいることに気づいたようだ。


「んだよ、兄貴」

「俺もちょこっと見に来たくてね」

「ああ、そう。帰っていいよ」

「そういう訳にもいかないんだよなぁ」

ふん、と腕を組んでユーリィの隣に座る。


「そんじゃ、飯にしようか?」

みんなが起きてるしちょうどいい頃合いだろう。

「ルナは?」

「私は狩ってきます」

「ん、わかった」

ルナが大きな翼を広げて森の奥深くへと飛んでいった。金属の鱗に朝日が反射して眩しい。


「朝はパンでいいよな?」

みんなが頷く中、俺はある事に気づいてしまった。

それは、俺以外、貴族様だということに。

毎食いいものを食っている貴族様がパン一枚で満足するはずがない。


「仕方ない。少しめんどいけど……作るか」

食パン四枚と卵、牛乳と砂糖を用意する。ボウルに材料を入れて溶き合わせる。その液体に食パンを浸す。

フライパンにバターを入れて加熱を開始。

「これ……フレンチトーストか」

流石、転生者ユーリィ。日本で食ったことがあるのだろう。


「はい、お待ち」

待ちきれなそうな表情のライジュに差し出す。続いてユーリィとレイル。最後に自分のを焼いて完成。


「よし、上手く焼けたぜ」

熱いうちに食べようと、口を開けた瞬間、家のドアが勢いよく開いた。

「コーディア?」

アンナの家にいるはずでは無いのか。というか、傷だらけでボロボロだ。


「おい、何があった?」

「あ、アンナが……」

「アンナさんがどうした!」


「捕まった……」

「は?」

場の空気が、一瞬で凍りついた。事情を知らないユーリィ達も一大事だということに気づいているようだ。

次に、がくんと家が大きく揺れた。

「なんだ……!?」

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