「美味しかったかね?」
食後、リヴァイアサンの自室まで案内された俺達。この部屋から、潮の香りがする。。とても居心地がいい。
「とても美味しかった。感謝するよ」
「それは良かった。うちの料理人も喜ぶ」
リヴァイアサンが目を細める。これだけ見ると良いおじさんだ。しかしリヴァイアサンが魔物という事を忘れてはいけない。
今は優しいがいつ牙を剥くかわかったものではないから。
「なあ、いろいろ訊いてもいいか?」
「何かな? 我の答えられる範囲で答えよう」
「俺達が飯を食っている間、何をしていたんだ? それからなぜ優しくする?」
「ユウスケ達が食事をしている間、時間を飛ばさせてもらった。だいたい七日程度だ。それとライアーに連絡を入れておいた」
「ライアー? 誰だ?」
「魔王軍の軍師だ。歴代最高の頭脳を持ち合わせているそうだ。ネロ坊は七日間待ち続けるだろう。そこでライアーに説教を頼んだ」
「そうか……」
「それとなぜ親切にするかは、海神の剣を手にしたからだ。海神の剣は私の半身と言っても過言ではない。半身を託すから、敵が親切にしたらどのような対応をとるか見させてもらった」
それを聞いて一歩身を引く。アンナとコーディアの前に立ち塞がり、気休め程度の盾となる。
「まあ、合格だ。所持品を返そう」
リヴァイアサンは壁に立て掛けられていたハンマーをコーディアに返した。続いて剣と盾をアンナに渡す。
「最後にユウスケ、大切に使ってくれ。この剣は全ての水を操ることができる。海では最大の効力を発揮するが、その他だとその力は弱まる。一応これも神器だ。そんじょそこらの武器には負けん」
腰に付けるタイプの鞘と海神の剣を渡される。しっかりと鞘に収め、頭を下げて礼を言う。
「もう一ついいか?」
「構わん」
「何でそんなに軍の内部情報に詳しいんだ?」
「五代目の魔王だったか、その時に勧誘されてな。海軍の最高責任者として三千年程過ごし、引退した。それからも魔王との交流は続いている」
「へぇ……今の時代にリヴァイアサンが最高責任者じゃなくて助かったよ」
「何かあったのか?」
「いやね、昨日現在の海軍最高責任者を殺したんだ。たぶん、リヴァイアサンだったら皆殺しだったかな」
「そうか、だからネロ坊はもう一度やらないかと言ってきたのか」
リヴァイアサンはやれやれと首を振った。これからもここで隠居生活を続けてほしいと思っている俺がいる。
こんな知性と力に溢れた化け物が参戦したら人間に勝ち目は無くなるだろう。
「さあ、そろそろ帰りたまえ」
リヴァイアサンが手を一振りすると、青色の渦が現れた。これが地上へと繋がっているのだろう。
「いろいろとありがとう」
もう一度礼を述べて渦に飛び込む。俺の後にコーディアアンナと続く。
「おっしゃ! 外だあああああ!?」
渦を抜けると、空中だった。
重力に従って落下する。幸いにも下は海だったので怪我は無かった。
「ゆ、ユウスケ!」
名を呼ばれて上を見る。なんとアンナの足の裏が近づいて来るではないか。されに彼女はコーディアを姫抱きにしている。
陸ならばいざ知らず、水上では回避しようにも機敏に動けない。そのまま頭を踏まれて底に沈む。
「だ、大丈夫か?」
アンナに引っ張りあげられ、激しく咳き込む。
「なんで海の上に放り出されるんだよ……」
呼吸を調えながら愚痴をこぼす。周囲を見渡すが、陸はとても遠くに見えるものだけだ。
「……泳ぐのか?」
「ユウスケ、剣を使うんじゃないの?」
「剣?」
コーディアに言われて、腰に付いている海神の剣を鞘越しに触れる。すると、剣が七色に輝き始めた。
「なんだ……」
しかし、光はすぐに消えて、辺りには波の音だけが残った。
「騙されたんじゃないか?」
「えぇ……」
肩を落として落胆する。あの豪華な食事が最後の晩餐だったのだ。
「ちっくしょう!」
剣を抜き、海底めがけて投げる。滑らかに落ちていき、いずれは底にたどり着くだろう。それか、確率は低いが生き物に刺さってしまうだろう。
「で、どうします?」
「泳いで行くしかないだろう。何故かは分からないが羽が出ない」
「ここの海水に変な成分が混じってる……とか?」
そうなると早めに出発した方がいいだろう。ここに居続けたら体にどんな影響がでるかわかったものではない。
「ほら、コーディア背中に乗れよ」
「待って……」
じゃぽんと俺の腕を掴んで頭を沈める。海底から助けでもやって来たと言うのか。
「ふ、二人とも! 何かが!」
慌てるコーディアを宥めて何があったのかを訊いてみる。しかし、質問をし、コーディアが口を開けた瞬間、俺達の周りに水柱が立ち上った。
「な、なんだ!」
鮫とかシャチとか肉食の海洋生物が現れたのかと焦る。
が、実際にはつやつやとした体表の生き物だった。
そいつらはそれぞれにすり寄ってくる。油断させて食う気か、と怪しむが、ただじゃれているつもりらしい。
しかも、その内の一匹は海神の剣を咥えていた。
「これって……剣が助けてくれたのか?」
剣を受け取って鞘にしまう。そうだと言わんばかりに頭を擦り付けてくる。
「こいつら、デリピウスだ」
「デリピウス?」
「海の深い所に生息している生き物だ。警戒心が強く、滅多に姿を見せないから相当な幸運だぞ」
「海神すげぇ……」
リヴァイアサンに感謝していると、デリピウスが背鰭を向けた。他の二匹も同様のポーズをとる。
「掴まれって事かな?」
誰に尋ねたわけでもないが、デリピウスが甲高く鳴いてくれた。しっかりと背鰭に掴まる。
それを確認したデリピウスはロケットスタートを切った。物凄い速度で海を掻き分ける。
「うわっ、もつ着いたぞ」
桟橋まで連れてきてもらい、礼を告げる。頭を撫でてやると嬉しそうに一鳴きして海の底へ帰っていった。
村へ戻るために、コーディアが俺の肩を使って跳躍する。桟橋に降り立つと、下へ向けて手を伸ばす。
当然彼女の短い腕で届くはずがなく、アンナに肩を貸す。肩に足をかけ、コーディアに引き揚げてもらう。
そして最後にオレが二人かがりで陸上に揚げてもらう。
全員バテバテで桟橋の上に大の字で転がる。
「何はともあれ、帰ってこれたな……」
と、アンナ。
「新しい剣も手に入ったしよかったよかった」
と。俺。
「一時はどうなるかと思ったわ……」
と、コーディア。
三人それぞれが感想を言って溜息をつく。もうこのまま眠ってもいいかな、なんて思っていると遠くで誰かが叫んでいる。
それはだんだんと近づいてきて、どんどん増えていく。終いには聞き慣れた羽音が二つ、傍らに着陸した。
「やっぱり生きていましたか」
「よぉ、ルナ……」
「よぉ、じゃありません。七日間もどこにいたんですか!」
「七日間……そうか、リヴァイアサンの所で七日飛ばしたんだった」
何の事か分からないルナ達はひそひそと話し合っている。
「何があったか、全部話すよ」
起き上がって話しやすいようにあぐらをかく。
分かりやすく、できるだけ簡潔に海神の剣を抜いた事やリヴァイアサンの居城に行ったことを話した。
「なるほど、だから姿が見えなかったのですね」
「あれ、あんまり心配じゃなかった?」
「ええ、あまり」
薄情な竜だ、と言おうかと思ったが、言葉を発するよりも前に鼻先へグリモアを突きつけられた。
「真ん中の星、緑色の光で満たされているでしょう? これが健康状態です。少し危なくなると黄色、生命の危機に瀕していると赤色、死亡すると色が失われます」
「はあ、それで?」
「ユウスケとアンナとコーディアのグリモアはこの七日間常に緑色でした。どこかで生きている事は分かっていたのであまり大事にならなかったのです」
「そりゃどうも……まさか、拠点作り遅れた?」
「いえ、全然。予定通り完成しました。デラは先に帰りましたけど」
「良かった……ありがとうルナ」
「私のためでもありますから、当然です」
安心したら、急に睡魔が襲いかかってきた。
先程から会話に全く参加していなかったアンナとコーディアは重なるようにして眠っていた。
俺もそこに入ろうかと想ったが、ギリギリのところで踏みとどまった。代わりにルナの背中で俯せになって夢の世界へと飛び込んだ。
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