クラス丸ごと召喚されたけど、モンスターマスターは嫌われものでした

だんご3
だんご3

39話 救助当日

公開日時: 2020年9月13日(日) 16:01
文字数:3,698

「えー、遂にこの日がやって参りました。空は晴れ渡り、絶好の救出日和でございます」

家の前に整列している面々を見ながら演説を開始する。コーディアやルナが、心配そうな目で俺を見ている。

失敗はしないぞ。


「で、改めて作戦をおさらいするぞ。まずは、先発部隊。ルナ、ライジュ、レイル。この三人で兵士達を蹴散らしてくれ」

先発の方々が声を揃えて返事をした。気合い十分。最高のコンディションだ。


「で、次にギルダが魔法で残党を吹っ飛ばす」

「任せてくれ」

彼女の身長よりも高い杖を握り締めて不敵な笑みを浮かべる。こちらも問題は無いだろう。


「最後に、俺とコーディアとユーリィ。ギルダの魔法が切れた瞬間に動き出すぞ。アンナさんをささっと助けてルナの背に乗って脱出。いいな?」

おう、とユーリィが指を鳴らす。コーディアも頷き、親指を立てる。


「レイル達は上手い具合に転移魔法で逃げてくれ」

全員の士気は抜群に良い。だが、全てが上手くいくとは思えない。どこかでボロがでて計画が破綻しそうな気がする。

この作戦を考えたのは俺だ。高校生の浅はかな知恵で国を治める王に勝てるだろうか。


「指揮官が心配そうな顔をしていると士気が下がりますよ」

ルナの尻尾が優しく俺の頬を撫でた。

「うん……わかってるけど……やっぱり怖いよ。失敗した時の事を考えると、どうしても、ね」


「何のために私達がいるんですか、仲間を信じなさい」

諭すような口調でルナが言った。頭ではわかっているのだが、どうにも心が乗り気にならない。


「うん、そうだね」

一応、肯定はするが心の迷いは変わらぬままだ。リュミエルと対峙したあの時、みんなの制止を振り切って連れていかれれば良かったのかもしれない。

後の祭りでもう遅いが。


「ユウスケ、馬車の準備はできたぞ」

トントンとユーリィに肩を叩かれた。先程の暗い表情を見られたのか、彼は何か言葉をかけようとしてくれている。


「行こう」

変な気を遣わせないようにさっさと馬車まで向かう。荷台にはすでにコーディアが乗っていて、隣に来いと手招きをしている。

この荷台を引く馬は二頭で、片方が鹿毛、もう片方が白毛である。

両方とも大人しそうな顔つきでユーリィが撫でると嬉しそうに目を細めた。


「準備はいいか?」

「ああ、よろしく頼む」

ユーリィが御者をやってくれるようで、手綱を握った。初動でコーディアが落ちたり転がったりしないように、しっかり膝の上に乗せる。


「行け! マイア! デリューズ!」

ぴしっ、と一度やると馬達が一鳴きして走り出した。間髪入れずに、ルナ達が飛び立った。


大人三人を乗せたルナだが、余裕綽々といった様子で空を駆ける。しばらく見ていると、雲に突入してどこを飛んでいるのか確認できなくなった。


「いいか、町に入ったらできるだけ城門の近くに行くぞ」

「ルナ達の攻撃に合わせて中へ進入だな。で、助け出して逃げる」

手綱を握るユーリィともう一度確認する。何度しても気が気ではない。


「ところで、親御さんに許可とかは、とってるのか?」

「まあな、親父は自分が正しいと思うならやれって言ったな。後始末は任せろって」


「いいお父さんだな」

「第二の、な」

声を揃えて笑うが、コーディアには理解できなかったようだ。そもそもユーリィが転生者であると言うことを教えていないのだから当たり前か。


それからしばらく馬車に揺られる。途中、コーディアが馬車酔いを発生させ、仕方なく一時休憩をとった。

街道の端に流れる川で思い切り吐いた。朝食のパンが胃液と混ざって川に流れていく。きっと魚の餌になるだろう。

遠い目で吐瀉物の行き先を眺める。


「大丈夫か?」

水で口を濯がせ、背中を擦ってやる。何度か嗚咽を漏らすが、物体は出てこなかった。

「う、うん……」


青ざめた顔で微笑む。非常に具合が悪そうだ。

こんな所で止まっていたらアンナが死んでしまう。


「……すまん、コーディア。出発してもいいか?」

「わかったわ……」

ふらふらと足取りのおぼつかないコーディアを抱き上げる。少々酸っぱいが我慢我慢。


「大丈夫なのか?」

ユーリィも心配そうに訊く。コーディアは俺の胸に顔を埋めているが、親指を立てて大丈夫と示した。


「よし、出してくれ」

今俺の頭の中は揺れていた。コーディアも心配だし、アンナの事も気にかかる。二つの心配事を抱えるのは大変だ。

悶々と考え込んでいると、いつの間にかアルデミアの城下町に着いていた。


馬車から降りると、ユーリィがポケットから何か、紙飛行機のような物を取り出した。それを虚空へ放り投げた。


「何投げたんだ?」

「魔法で作った伝書鳩。親父にこいつらを迎えに来てもらう」

ポンポンと二頭の馬の首筋を叩く。


「それじゃ、ユウスケはこれを着るんだ」

積み荷から引っ張り出されたのは、魔導師が着るような真っ黒いローブだった。

フードつきで目元まですっぽりと覆うタイプだ。


「えー……何で?」

「ユウスケの顔が兵士達に知られてるだろうから、見つかったら追いかけられるぞ」


「あ、そっか」

まだふらつくライジュを下ろしてローブをまとう。こんなの着ててよく戦えるな、と文句を言いたくなるほど歩きにくい。

ロングスカートもこんなもんなのかと舌打ちをする。


「さ、行くぞ」

前が良く見えないため、コーディアに手を引いてもらう。城下町に入ると、鼓動が早くなるのを感じた。

「気を付けろ、そこら中に兵士がいる」

見えない俺に変わってユーリィが先頭を歩き、逐一報告してくれる。


「まさかマルベル家のお嬢様が犯罪者とはね」

主婦達が井戸端会議を至るところで開き、盛んに話し合っている。


「その処刑はお姉さんがやるらしいわよ」

「恐ろしいわねぇ……」

「そもそも坂下ユウスケって子にたぶらかされたそうじゃない」

「悔い改めて居場所を吐けば殺されなかったっていうのに」

「洗脳されてたんでしょうねぇ」


──そこのおばさん達、本人が隣にいますよー。

ローブを脱ぎ捨てて招待を現したかったが、コーディアに小声で止められた。

それにしても、俺がアンナをたぶらかしたとは。人の想像力とは面白いものだ。


はっきりとした情報が無ければ無限に憶測がでてくる。そして話に尾鰭がついて話の原型が無くなるのだ。

噂はいつだってそんなもんだ。


「もうすぐだぞ」

少しだけ顔を上げて前を見る。巨大な城門の端に兵士が二人立っている。腰には剣を刺して直立不動の姿勢だ。


「攻撃が始まるまでこの辺りで待とう」

日陰の壁に寄りかかり溜息をつく。もうすぐ、始まるはずだ。

「おい、貴様」

突然、門番が話しかけてきた。あもりにも驚きすぎて、コーディアが数メートル飛び上がった。


「何すか?」

ユーリィが門番と俺の間に立ちはだかる。

「怪しい格好をしているからな。少し中を見せてくれ」

「駄目ですよ。この格好は呪いを封じ込めるためのものなんですから。無闇に開けると呪い殺されますよ」


ユーリィがホラーチックに脅しをかけると門番は少し身を引いた。喋らない俺がさらなる不気味さを与えたようだ。

「あ、あまり不審な事はするなよ」

と、俺に指差した時だった。一際強い風が町中を抜けた。ふわりとフードが外れて素顔が露になる。


「あ!」

四人の間に流れていた空気が凍りつく。

「さ、さ、坂下ユウスケだ!」

門番が叫ぶと、もう一人の門番も走ってきた。


「えーっと、ごめんなさい!」

謝りつつ、鎧に包まれた腹を蹴り飛ばす。重い鎧を支えきれずに走り寄ってきた門番もろとも引っくり返る。


「さっそく計画の破綻だな」

ユーリィが苦笑する。


「ルナァ!」

作戦開始の合図とか決めてないので叫んでも無駄かもしれない。

今の一声で町を徘徊していた兵士達が俺を捕らえるためにわらわらと集まってくる。


「とにかく逃げ回るぞ!」

どことなく楽しそうなユーリィが先頭を走り、まだ酔いから醒めないコーディアを抱く。

細い路地に入り込み、追っ手を遮る。


「ここに登るぞ!」

民家の裏に積んである木箱に飛び乗った。一瞬だけぐらついたが、すぐに体勢を立て直し、屋根の上に乗る。


「はっはっはーッ!! あばよー!」

アクション映画さながらのジャンプで屋根から屋根へ飛び移る。


「も、もう少しゆっくりできない?」

この揺れで吐き気が再発したのか、コーディアが呻いた。

「あ、あと少しだけ我慢してくれ!」


「ついてこい! ユウスケ!」

ユーリィが屋根の縁から大ジャンプをした。高らかに笑いながら宙を舞う。そこだけ、時間がゆっくりになったのかのように見えた。


そして、見事両足で城壁の縁に着地した。

この家の屋根と外壁が近いため、跳び移ることができそうだ。


「次は私が行くわ……」

「おい、止めとけって。俺が担いでやるから」

「私を抱えて跳べるわけ無いでしょ!」

数歩だけ助走をとり、華麗に跳んだ。苦もなくユーリィの隣に立ち、澄ました顔でこちらを見た。


「さあ、おいで!」

心なしか、コーディアが元気になったように見えた。

「おっしゃ、行くぜ!」

屋根を伝って登ってきた兵士達に捕まらないように助走をとり、一気に跳ぶ。しばしの浮遊感のあと、落下した。


ギリギリ外壁の縁に手が掛かったからいいものの、失敗していたらとおもうと──ああ、恐ろしい。

二人に引っ張り上げてもらい、城の中へ入る手だてができた。

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