時計だらけの部屋でオペレーターが奮闘している。
『おい! 花博って確か1990年代のイベントだろうが!?』
くぐもった声が毛羽立つ。わかってる。いちいち投げないでくれ。
あんたの苛立ちは十兆と七千億光年を千基のジャゴン超時空機で中継してる。
こじれた世界線の果てで狭いポッドを操るストレスは手に取るようにわかる。
あんたは一人じゃないんだ。
『ああ、国際花と緑の博覧会は1990年4月だ』
俺は努めて冷静に訂正する。
『だよな。俺の立ち位置は1970年4月。うん、クロノグラフは問題ない』
改めて彼の五次元座標を確認する。26.20920683,127.6706016。
『那覇港。関西汽船、沖ノ島丸名瀬那覇行き。3月20日21時半着』
メインデッキの彼に確認を取る。
『なら、時空遷移《ドリフト》をさっさと直してしまおうぜ。乖離が酷くなっている』
博覧会の時系列だ。花博が花魁あげくは鼻毛フェアに化けている。
『そこから何が見える? 何かランドマーク的なものは』
『沖縄製粉のサイロだ』
彼の義眼が尖塔をとらえた。それを現代で共有し拡大する。
『間違いない。辻《ちーじ》の三文殊《さんもうじ》公園に行け』
『了解』
彼は船を降りて沖縄市の歓楽街へ向かった。辻は琉球王国時代から続く遊郭の一つだ。しかも1970年当時のアメリカ占領下で日本の法律は通用しない。
交通ルールも通貨も何から何まで全然違う。
「アメリカ世《ゆ》」と呼ばれる黄金時代であった、
『予防接種はちゃんと機能しているだろうな?』
俺は返還前の沖縄に降り立った彼に抗体検査を指示した。手首の腕時計に偽装したハンディ端末が彼の血液を検査する。
『ああ、新型伝染病の備えは出来ている。それで例の女は公園のどこで待っている?』
彼こと鎌倉豊洲は売春婦とコンタクトした。