ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.94

公開日時: 2021年3月1日(月) 08:30
文字数:943

「シェーリーになると感情が変わるかもしれない…合理主義になるのよ。可哀想とか愛おしいとか楽しいとか怖いとかの人間的な感情が小さくなるのよ」

志織の言葉で俺は理解した。志織はシェーリーになりたくないのだ。

「いや、それが普通じゃね?」

トニは言う。ポピュレーターと人間の違い。そこまで変わるとは思えない。俺もパルの落書きや、吊り下げてる人形もどきを見ても怖くは感じない。でもそれは感情が薄まったからではなく、トニが作った物だと分かってるからだ。


「以前、人間とアリの世界の話をした事あったわよね。ポピュレーターはアリでもあるのよ。各々の役目を最優先する。つまり、私がシェーリーになったらきっと…」

語尾を濁し俺を見る。

「今と違う私になるかもしれない」

「パルみたいにか?」

トニが言い、志織がうなづく。

「でも志織は変わらないよ」

俺の願望が入った言葉。変わらないで欲しい。

「確定?」

俺は聞く。

「ううん。まだシェーリーになってないから分からない」


二人で出来る限り長く過ごそう。その為にパーティクルを回収し、死なないようにシェーリーになる。その目的が無くなる。俺の存在価値も。


「今回、私が日本にいたのはシェーリーにならないでいようと思ったからなの。アメリカや中国と違って日本は平和だし。シェーリーにならなくても生き延びれそうだったから」


「だから、回収に消極的だったのか」

トニが言った。

「なんでそれをもっと早く…」

俺は言いながら言葉に出来なかった思いが形になった。志織は俺とずっと居たいからだ。長く過ごすにはシェーリーになるしかない。でも感情が変わるかもしれない。そのせいで思考が変わり別れる可能性もでてくる。


「別に一つじゃん」

パルが正論を言う。全ては一つの個体。

「私という気持ちは無くなるわ。シェーリーになったらヒロへの愛情が無くなるかもしれない」

「愛着じゃなくて?」

トニの言葉。志織はうなづく。


愛着は私物に対してだ。


「じゃあトニに渡すよ」

パルの言葉にトニが素直に喜ぶ。


今のままだと志織と何年一緒にいられる?

「今のままだと何年ここに?」

俺は志織に聞く。

「二百年かな?」

俺には千年と同じ感覚に思える。

「俺は何歳まで?」

志織は答えない。俺はポピュレーターではない。それでも長く生きていられると思ってる。違うのか?

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