階段を上がり二階の廊下を覗く。
二階には白いシーツで作った大きなてるてる坊主がぶら下げてある。
ご丁寧に看護服や院内部屋着を着させてスリッパまで付いている。
その人型のてるてる坊主があちこちと天井からぶら下がってる。
「悪趣味だなぁ」
トニが、呑気な声で呟く。人間対策だと思ってる。俺も同じ事を思った。
三階の廊下には無数のゾンビが移動ベッドにくくりつけてある。どのゾンビも動いていない。人間対策にここまでしなくてもいいと思いながら屋上のドアを開ける。
「よー」
トニがパルの姿を見つけ声をかける。パルは医者が着る白衣を着ていたが、油やオイルまみれ。
「早かったな」
バイクをくれた男ではなかった。声が落ち着いていた。トニと同じ三十代の男。背が高いが痩せていて物静かな出で立ち。
「あれ?パルは?」
トニは聞く。
「知識を吸収してる」
「何の?」
「原発さ」
屋上の扉の方から声が聞こえた。
皆、振り向く。懐かし顔のパルキッツァだった。が、会った時とは正反対の落ち着き払った風貌だった。その変化を聞こうと思った矢先に、
「何で?」
トニの質問で俺の質問する機会は失った。
「カムトゥになるんだ」
パルが答えた。
「カムトゥかよ。なら今回で最後かぁ」
トニが名残惜しそうに言う。俺はパルにカムトゥの事を聞く。
「世界の滅亡を防ぐ現象を防ぐ役目がカムトゥ。今の世界は電気が止まると、原発の稼働も止まる。世界には五百もの原子力発電所があり、三日でメルトダウン。放射能の雨で地球が終わる。なぜ今回それが起きなかったか?カムトゥ達が無力化してるんだ」
「ポピュレーターとは違うの?」
「ポピュレーターでもあるな。人間でいうと、目や手や内臓のような感じかな。それぞれ違う形に役目だが、同じ人間の一つでもある」
パルがトニの説明を待ってから口を開いた。
「そこで、もう少ししたら俺のパーティクルを志織に譲るよ」
パルは志織をチラリと一瞥し言った。突然のパルの申し出に俺は喜ぶ。だが志織は浮かない顔。何故だ?
「貰っとけよ。このままじゃずっと人間のままだろ?」
トニが促す。
「ねぇ、この病院を見て怖くなかった?」
志織は話を変える。
「パルの悪趣味だと思った」
俺が答える。トニもうなづく。怖くは感じなかった。
「私は不気味に感じたの」
「それとパルとどういう関係が?」
俺は話を元に戻す。
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