ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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小説.6

公開日時: 2020年9月20日(日) 08:44
文字数:985

  気付いた時には俺はまた何かを口に入れていた。死体を喰べていた。


  真っ暗闇。だがゾンビ達は光っている。身体全体が発光している。真っ暗なのに俺には暗視コープを付けたかのようにイスや死体や景色が見える。白黒だが、影の濃淡、薄さ濃さで分かる。俺には暗闇なはずの世界が灰色の世界に観える。


  目をこする。そこで俺の両手がある事に気付く。生えていた。血まみれだが、確かに俺の手だった。足元を見る。半分以上引きちぎれている死体。俺が食ったのか?足元の死体は下半身しかなかった。ズボンから見える肌は白くない。人間の死体を俺は食ったのか。気持ち悪さで吐き気がおきるが吐けない。


  ゾンビの物音で現実に戻る。俺は口の中の異物を吐き出す。気持ち悪さから離れるように、やるべき事を思い出す。夜中になっていた。女の子が不安になってるはずだ。


  人工の噴水がある池に浸かり血まみれの体を洗う。裸になる。血の気のない白い肌に違和感を感じる。白いマネキンに赤い絵の具を塗りたくったようだった。

  服屋はある。石けんとかもあるはず。裸のまま、真っ暗なデパートをうろつく。陰影のままだが位置が分かる。文字までは辞めないが、風呂場コーナーを見つけた。ボディーソープを開ける。力を入れ過ぎたのか袋から勢いよく石けんが溢れる。そのまま手で身体を洗う。洗いながら噴水まで戻る。

  冷たさを感じない。思い切り腕をつねる。分からない。強くつねる。肌が千切れ、少しだけ血が出る。痛みは感じない。ゆっくりと血は止まりジワジワと肌が膨らみ傷が治ってく。


再生能力。ゾンビ達も同じなのか?人間を食うと治るのか?


  新しく気付く事ばかり。だが何も分からない。俺の身体はどうなってる?マネキンのような身体。そもそも俺は人間なのか?


  人間でない?そう思った瞬間、押さえつけていた思考と感情が一気に溢れ出た。


  俺は何なんだ?

  声が出た。ぐぐもった呻き声ではなく、俺の声が。


  人間だよな。独り言を口に出した。

  ゾンビは俺に全くかまわずウロウロしている。出口を探しているのか?

ゾンビに近付く。ゾンビは逃げるが、動作がゆっくりですぐ捕まえられる。

俺は腕を出し、ゾンビの口に当てた。

「ほら、食えるだろ?人間を食うんだろ?」

  ゾンビは顔を背けた。食べようともしない。逃げようとするだけだ。


  俺は人間じゃないのか。認めたくなかったから、心は人間で身体はゾンビ。と自分を無理やり納得させた。

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