志織は読むのが早い。その代わり何回も読む。途中、何回かカチカチといじってる。誤字脱字があるのだろう。
読まれる恥ずかしさもあるが、誤字脱字があるのも恥ずかしい。時間があるのに何やってんの?と。志織は言わないだろうが、俺ならそう思ってしまうからだ。
当分かかるはず。俺は外に出てる。と言ってコンテナハウスから出る。
道路の遠くを眺める。違和感は感じない。道路に耳を当てる。何も聞こえない。以前、映画で線路に耳を当てて列車が近づいてるかを調べる場面が記憶にあって、たまに俺も真似する。
静か。よほどの地響きでない限りは分からない。
志織が出てくる。
「面白いというか、私がネタを知ってるから、懐かしい。ってのが私の感想だわ」
笑って志織はそう言った。
「話の流れが丁寧だけど、小説だとダラけるんじゃない?」
「でも現実はそんなんだよ」
言い訳を言った。そんなに毎日、大きな出来事があるわけではない。
「もっと嘘というか、誇張したら?」
ウソは書きたくなかった。でも日記調にもしたくない。と俺には難しい書き方で書いたために、間延びした物語になってるのかも。
「まぁ、客観的に読んだら面白いと思うわよ。人間なのにゾンビの身体なんてあり得ないしね。他の人は小説だと思うわね」
「でも書き手の気持ちは充分伝わったわ。こういうの好きな人にはハマるんじゃないかな」
志織が俺に携帯電話を返す。
「じゃあ、戻るわ。私を愛しいと言ってくれてありがとう。あと、ミズホさん当分来ないと思うよ」
と笑って志織は帰りだす。
「ありがとう。なんて言っといたんだ?」
「お兄ちゃんは多分、男の人が好きなんだと思う。って」
俺は返事を返せなかった。確かに筋も通るし、納得せざるおえないだろうし、いい案なんだが、もう少しマシな理屈にして欲しかった。
だが、俺の気持ちは小説の事に向いていた。俺は志織を楽しませる為に書いてたつもりだったが、俺の気持ちや思い、考えてた事を知って欲しい。その為に書くようになっていた。
正しいのか間違いなのかは分からない。書きたい事を書く。その気持ちは強くある。
何の為に書いてるのか。志織を喜ばせる為に。暇つぶし。過去からの復習。新しい気付きを得る為。そして俺の事を知ってもらいたい為。
志織が帰り、俺は続きを書き始める。
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