「とりあえず、病院を見回ろう」
先生は廊下を出る。フルフェイスヘルメットをかぶるよう言われ、かぶり俺達もついて行く。どの病室にも家族や五、六人の人間が居た。誰もが大人しくベッドにいるか座っている。
「残念ながら全員は救えないのじゃ。家族連れを優先にしとる」
怯えてるような子供。母親の心配する顔。隣の病室から中年の女性が出てくる。
「カズヒコは、私の息子はどこに?」
先生に言い寄る。
「カズヒコ君は立派に、貴方方家族と人類の為に尽くしました。立派な息子さんです」
先生の言葉。
「そんなのはどうでもいいんです。息子をどこにやったのですか?」
女性は今にも泣き叫びそうだった。
「本来ならもう死んでるとこです。それに息子さんが居たから、貴方はここに住めるのです」
先生は病室を覗き、
「父親も弟さんも安全な場所で安心してるでしょう。ちゃんと栄養を考えた食事も出してるはずです」
先生の言葉になおも食い下がる女性。先生は病室に入りカーテンを開く。真下にはたくさんの人間達。
「またあそこに戻りたいですか?いつかはゾンビに襲われ無為な死を迎えますよ」
母親はしゃがみ崩れる。
「弟さんと旦那さんの事も考えてあげてください」
先生は母親の肩を叩き、廊下に出る。ため息を付く。
「仕方ない事なんじゃ。もうこれ以上医者を減らす訳にはいかんのじゃて」
つまり何らかの人体実験をしていたという事。
「ネズミやウサギではダメなのじゃよ。仕方ない事なんじゃ。目先の人間の命を取るか人類全体の命を取るか。どちらが正しいんじゃ?」
俺は黙ったまま。
「ワシにも分からん」
先生は気を取り直して説明し始めた。
「さて、ゾンビになる原因から話すかの。今までに発見された事のない粒子が人間の脳に巣食うのだな。それで人間はゾンビになる。その粒子は宇宙から来たのか、地中からか海底からか。元々、体内にあってそれが変化したのかは分からん。とにかく今までにない粒子が脳みそを喰べてゾンビになるのじゃ。喰べてという言い方だが、脳と化学反応を起こす。脳は固形化し、ほとんどの機能が停止する。知能と感情の低下。だがな、大脳辺緑系の部分は逆に肥大するのじゃ」
先生の部屋に戻る。ヘルメットを取りたまえ。と言われ、外す。
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