ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.60

公開日時: 2020年12月31日(木) 07:59
文字数:1,693

  夕暮れ。ゾンビが襲わなくなる時間。ツトムさんが満足する以上の量を集めた。灯油が少ないが仕方ない。その代わり、バッテリー液に重油、ロウソク、懐中電灯がある。害虫駆除の薬品もあるだけ持ってきた。ゴルフバッグも荷台もパンパン。

  六人の探索でこの量は充分過ぎるほど充分なはずだ。

  あの若い男達の姿は一切見えない。尾けて来られるのを心配したが杞憂に終わる。一本道の山道の帰り道。途中でかなりの距離まで戻ってみたが人間は俺達以外、一人もいなかった。


  隠れ家のマンションには立ち寄らないでそのまま歩き続ける。たくさんの生活用品を手に入れたのに誰も口を開かない。信長も無言だった。

  ウィスキーであの場を和ませたらと思ったのだが誰も呑んでなかった。


  俺から言い訳をする気にもなれない。言うだけドロ沼になりそうだったから。無言の時間。外は満月の次の夜なので明るく、道路を歩くだけなら懐中電灯は要らない。

  俺は出て行くつもりだった。志織と信長と共に。

  信長と居て解った。信長は三浦家では使えない。なぜなら住む場所が違うのだ。三浦家は川に住む魚達で信長は海に住む魚だ。俺も同じ。平穏な世界の住民ではない。志織は?少なくとも小魚ではない。

  俺が志織と居たいからそう思い込もうとしてるのかもしれない。


  コンビニの前、信長が立ち止まる。

「わりぃ。ちょっと休憩しねぇか」

  皆立ち止まる。あと三十分歩けば三浦家なのに誰も反対しなかった。

「俺、戻らんわ。死んだ事にしといてくれねぇか」

  そして、ゴルフバッグから俺が持って来たウィスキーとは違うウィスキーを取り出す。

「これだけは貰ってもいいよな」

  誰も口を開かない。

「ちょっといいか」と信長は俺を呼ぶ。俺だけ信長に近寄る。信長は額の汗を拭いながら言った。

「なぁ、俺が一人で生きていけると思うか?」

  珍しく弱気。というよりも素直な信長だった。

「多分、大丈夫」

「多分か」信長は笑って答えた。

「ツトムんとこにいると息が詰まるんだわ。生きてる実感が湧かねぇというか、俺が俺でなくなっちまう。だからイライラして余計うまくいかねぇ。けど飛び出す勇気もなくてな」

  信長は、フッと笑って話し続けた。

「情けねえよな。だがな、お前を見て決めたよ。やっぱツトムんとこじゃあ無理だってな。あそこじゃ俺は生きてるのに死んでんだ。ゾンビと同じだ」

信長はツバを吐き、

「どうせ、いつかは死ぬんだ。なら毎日気持ち良く居てぇじゃねえか。お前がゾンビと戦ってる時、スゲー興奮したしスゲー尊敬したよ。普段だったら悔しくてたまらなくなるのにな」

  信長は太いため息を吐く。

「お前もな。三浦家にゃ無理だよ。それに多分、なんかお前にはあるよ。うまく言えないが、使命というか、やるべき事が。生き抜くだけじゃないなんかがな」

  信長はウィスキーを一口呑む。

「うめぇ…まぁ、お前のおかげで俺は覚悟が出来たってワケだ。感謝してるぜ。いつかまた逢えたらいいな。ツトム達には逢いたくもねぇが、お前の未来には興味がある」

  信長は立ち上がる。

「皆、悪かった。最後まで迷惑かけちまったが勘弁な」

  と言って来た道を戻っていった。一度も振り返らなかった。

「俺も明日にでも出てくよ」

  俺も皆に言った。

「私達、内緒にするからさ。居てよ」

  ミズホさんが言う。他の皆も、ヒロが必要だ。大丈夫。と口々に言う。

「まぁ、当分居るかもしれない。それに気になる事も出来たんだ」

  そう、俺の他にも俺みたいなヤツが居るかもしれない。知りたかった。今までもその考えは持っていた。だが実際に見た事も聞いた事もない。だが昨日見た。俺よりも凄いヤツが。絶対、人間には出来ない脚力。ゾンビの力を使ってる。


  信長は来た道を引き返してる。俺は適当に水とかを詰めたリュックとバットを持ち信長の所に走る。

「これ。俺も信長君の将来を見たいから。すぐ死なれるとつまらない」

  と渡す。信長は笑った。俺も笑った。信長の笑顔は、今までと違って心から笑ったような真っ直ぐな笑い方だった。

「よし、なんか困った事があったら俺の所に来な。絶対に助けてやるぜ」

  信長らしい強気な言葉を聞く。俺はうなづいた。


  いつかまた信長に逢えたらいいな。と本気で思った。


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