ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.58

公開日時: 2020年12月29日(火) 08:45
文字数:1,258

  誰も何も言わない。俺は気持ちが良かった。と思う反面ミズホさん達にどう思われるか心配だった。

  見なかった事にしてくれないかな。と不可能な事も思った。一応の言い訳は用意してある。火事場のクソ力が出た。と。だが信用しないだろう。

「タオさんを呼んでこい」

  リーダー格が言った。誰も返事をしない。

「早くタオさんを呼んで来いっつっただろ」

  男は叫んだ。が固まる。後ろから中国服を着た男が見えた。俺を一瞥して言った。

「お前はシェーリーだな」

「違うと思います」

  俺は答えた。よく聞こえなった。セィリー?シェアリー?

  男は跳んだ。車三台分の高さから俺の所まで。助走もつけずに。すぐに思った。ひょっとして俺と同じ?

「セェーリーって、ひょっとして意識のあるゾンビの事ですか?」

「違う。シェーリーはシェーリーだ。なぜずっとここにいるのだ?」

「いえ、すぐに帰ります」

「お前、ひょっとして何もしらないのか?」

  男は意表を突かれたような口調で言った。

「よく分からないですが、貴方は脳のあるゾンビじゃないんですか?」

  俺は自分と同じ人間が居る現実で頭がいっぱいだ。

「お前と俺と一緒にするな。そうか、知らないのだな」

  男は黙る。何かを考えてる。

「なら、もうお前は帰れ。そして伝えろ。いつまでもここに居るなと。やるべき事をやれ。と」

  男は言った。そして少ししゃがみ込むと後ろに思い切りジャンプした。人間ではあり得ない脚力。俺でも無理だ。

「約束通り返してやる」

  中国服の男は俺にそう言ってリーダー格の男を見た。リーダー格の男は慌てて他の男達に命令する。


  俺達は解放された。荷物も全て。タオさんにシェーリー。そして誰に伝えるのか?志織?と思ったが、どう見ても中国人とは思えない。それに俺をシェーリーと勘違いしていた。ゾンビの身体をした人間をシェーリーとも呼ばない。ツトムさんが関係あるのか?三浦家の誰かがタオとかいうヤツの知り合いなのか?多分、それが一番可能性が高い。


  他に可能性が高いのはゾンビの種類の名前。俺もゾンビの一種類。普通のゾンビよりも知恵がある。その上にレベルの高いゾンビが居るのかもしれない。その種類をシェーリーと呼ぶのか?


  信長も誰も口を開かない。ミズホさんやヨウジ君達、誰も俺に近寄らない。

  囲いの外。ゾンビが集まってる。信長が返してもらったドライバーでゾンビの頭を殴る。殴りながら「おい、俺達はどこに行けばいいんだよ」と俺に向かって怒鳴る。

  そうだった。やるべき事。皆の安全を優先。考える事はいくらでもある。

  周りを見渡す。俺達の方ではなくアイツらの方にゾンビが多く移動している。アイツらの反対側に向かう。


  近くの二階建てのアパートに上がる。荷車を持ち上げる。火事場のクソ力の言い訳は通用しない。仕方ない。

  自転車とバイクで階段を塞ぐ。洗濯機でも塞ぐ。部屋はどこも開かない。信長がドライバーでドアノブを壊し皆が中に入る。

  俺はゾンビの返り血で血まみれ。中に入らず外にいる。

「なんで入らない?」

  信長が言った。俺は血まみれだと答える。

「ほらよ」と信長は部屋にあった服を投げた。


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