誰も何も言わない。俺は気持ちが良かった。と思う反面ミズホさん達にどう思われるか心配だった。
見なかった事にしてくれないかな。と不可能な事も思った。一応の言い訳は用意してある。火事場のクソ力が出た。と。だが信用しないだろう。
「タオさんを呼んでこい」
リーダー格が言った。誰も返事をしない。
「早くタオさんを呼んで来いっつっただろ」
男は叫んだ。が固まる。後ろから中国服を着た男が見えた。俺を一瞥して言った。
「お前はシェーリーだな」
「違うと思います」
俺は答えた。よく聞こえなった。セィリー?シェアリー?
男は跳んだ。車三台分の高さから俺の所まで。助走もつけずに。すぐに思った。ひょっとして俺と同じ?
「セェーリーって、ひょっとして意識のあるゾンビの事ですか?」
「違う。シェーリーはシェーリーだ。なぜずっとここにいるのだ?」
「いえ、すぐに帰ります」
「お前、ひょっとして何もしらないのか?」
男は意表を突かれたような口調で言った。
「よく分からないですが、貴方は脳のあるゾンビじゃないんですか?」
俺は自分と同じ人間が居る現実で頭がいっぱいだ。
「お前と俺と一緒にするな。そうか、知らないのだな」
男は黙る。何かを考えてる。
「なら、もうお前は帰れ。そして伝えろ。いつまでもここに居るなと。やるべき事をやれ。と」
男は言った。そして少ししゃがみ込むと後ろに思い切りジャンプした。人間ではあり得ない脚力。俺でも無理だ。
「約束通り返してやる」
中国服の男は俺にそう言ってリーダー格の男を見た。リーダー格の男は慌てて他の男達に命令する。
俺達は解放された。荷物も全て。タオさんにシェーリー。そして誰に伝えるのか?志織?と思ったが、どう見ても中国人とは思えない。それに俺をシェーリーと勘違いしていた。ゾンビの身体をした人間をシェーリーとも呼ばない。ツトムさんが関係あるのか?三浦家の誰かがタオとかいうヤツの知り合いなのか?多分、それが一番可能性が高い。
他に可能性が高いのはゾンビの種類の名前。俺もゾンビの一種類。普通のゾンビよりも知恵がある。その上にレベルの高いゾンビが居るのかもしれない。その種類をシェーリーと呼ぶのか?
信長も誰も口を開かない。ミズホさんやヨウジ君達、誰も俺に近寄らない。
囲いの外。ゾンビが集まってる。信長が返してもらったドライバーでゾンビの頭を殴る。殴りながら「おい、俺達はどこに行けばいいんだよ」と俺に向かって怒鳴る。
そうだった。やるべき事。皆の安全を優先。考える事はいくらでもある。
周りを見渡す。俺達の方ではなくアイツらの方にゾンビが多く移動している。アイツらの反対側に向かう。
近くの二階建てのアパートに上がる。荷車を持ち上げる。火事場のクソ力の言い訳は通用しない。仕方ない。
自転車とバイクで階段を塞ぐ。洗濯機でも塞ぐ。部屋はどこも開かない。信長がドライバーでドアノブを壊し皆が中に入る。
俺はゾンビの返り血で血まみれ。中に入らず外にいる。
「なんで入らない?」
信長が言った。俺は血まみれだと答える。
「ほらよ」と信長は部屋にあった服を投げた。
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