ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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小説.56

公開日時: 2020年11月30日(月) 07:55
文字数:1,567

  昼間は夏の残暑が厳しいが夜には志織はカーテンにくるまって寝るのが多くなった。そんな夏の終わりの夕方。大型バスが校庭に乗り込んできた。ゾンビを轢かないように、ゆっくりとバスは正面玄関まで進み、止まった。

  車の中には人間がかなり居た。学校に住む為に来たと直感した。それ以外にここに立ち寄る理由がない。


  俺は急いでヘルメットをかぶり、志織にいつでも逃げられるような準備を。と言い残し早足で階段を下りる。バリケードの一部はすぐに取れるようになっている。暇に任せて作り直した。一部だけイスだけどかせば二階へ通れるようにしてあった。


  今回の相手は大勢。友好的な話し合いは難しいだろう。と想定し始めたら、玄関から子供達の声。続いて[誰か居ませんか?]と大人の男の声。


  玄関にたどり着くと、たくさんの小学生と、先生らしい大人達が数人。大人達は慣れた手つきでゾンビを棒で子供達を守る為に押しどかしている。子供達が居るので争いにはならないはず。少しだけ安心する。


「はい。ずっとここに住んでる者ですが」俺は言った。

「迷惑だし、理不尽なのは重々承知しております。が、子供達の為にどうか寝泊まりさせていただきたいのです。なにとぞお願いいたします」

  男は深々と頭を下げた。それに続いて、他の大人達、そして子供達全員も頭を下げた。

  イヤです。と言えない雰囲気。それにイヤです。と言っても聞かないだろう。子供達を守る為なら、かなり強引に押し通すだろう。俺は何て言えばいいか分からなかった。

  一日だけなら…と言おうと思った時、男は頭を上げて俺を見た。その男はずいぶんやつれていたが、桜井先生だった。ここの学校の体育教師で俺の担任だった。生徒には人望が厚かった。つまり真剣に生徒の事を考える教師。間違いなく子供達を集めて保護してる。


  断る事が出来ない。俺は、いいですよ。と言った。言ってしまった。きっと志織は理解してくれるだろう。


  本当なら、志織と相談してからなのだが、頼み方は桜井先生と同じ理由になる。[子供達を守る為にこの学校に住ませてもいいか?]と。断れない頼み事なのだ。


  志織が降りてくる。一瞬で理解したようだ。俺が言う前に志織から言ってくれた。

「仕方ないでしょ」

  俺は桜井先生に頷いた。桜井先生は、ありがとうございます!とまた深く頭を下げた。


「全員で何名いるのですか?」

「子供達が四十六名と大人が六名です」

  桜井先生は年下の俺に敬語を使う。

「敬語は辞めてください」

  俺は思わず、桜井先生と言うところだった。俺の身体は他人の身体。

「ここに住んでもいいです。生活用品もあります。ただ、自分とこの子の事は詮索しないで欲しいんです。僕はワケあってずっとヘルメットをかぶってます。そのワケも聞かないでください」

「ありがとうございます。本来なら断れても仕方ない無茶な頼み事を聞いてくださるだけでも助かるのです。ワケは一切聞きません」

  桜井先生と他の先生も再び深々と頭を下げた。

「とりあえず、子供達を最上階へ」

  俺は言った。志織は「賑やかになるね」と俺に言った。

  落ち着いて話をする暇もなく、俺は校内のゾンビを全て外に追い出した。

飲み物のコップや食料の皿が足りない。近くのスーパーに紙コップや紙皿が大量にあるのを俺は知っている。トイレットペーパーがたくさんある家も知ってる。布団や子供服のある団地。台所の床下収納に玉ねぎがたくさんある民家も知っている。全て教えるつもりだった。


  お人好しにも程がある。と自分自身呆れるが以前、学校に住んでる人。多分子供達だろう。それを見捨てた負い目が心のどこかにあったのかもしれない。パルキッツァは子供はウソつかないから。と俺達を助けてくれた。それに俺は人間だ。助けられるのなら助けたい。


  桜井先生のように自ら助けようとはしない。だが、助けを求められたら出来る範囲で助けるべき。


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