「ねぇ、聞いてる?」
志織(しおり)の声で俺は我に返る。
焚き火の火が消えかかっていた。俺は携帯電話を置き、木切れを焚き火に放って答えた。
「ごめん。小説書いてた。寝れないのか?」
シェラフに潜り込んで寝入ってたはずの志織に答えた。生態反応はいつも通り。三年も見てると志織の健康状態が微細に分かるようになった。
「ね、どこまで、書けたの?見せて」
志織は小さく笑って言った。
「まだ一ページしか書いてないよ」
それでも俺は携帯を渡す。
「なんで両手がないの?あったじゃない」
読み終わった志織は感想を言った。
「そうだけど、グジャグジャだったじゃん。それ書くの大変だからいっそ無い事にしちゃった」
「小説だからいいんだよ」
言い訳めいた言葉の追加に志織は、フーン。と答えた。
「イエロー君、ちゃんと来るかなぁ」
「朝には来てるんじゃないかな?どう?面白い?」
「まだこれだけじゃ分かんないよ」
志織の感想。あとは黙ったまま。きっと昔を思い出してるに違いない。
俺は志織から携帯に目を向けてまた書き始めた。
携帯の電池はまだ充分ある。電波は相変わらず圏外。
二十体のゾンビが俺達から、ある一定の距離を置いてウロウロしている。
うん。今日も平和だった。きっと明日も平和だろう。
俺は再び携帯を開き小説を書き始めた。
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