ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.143

公開日時: 2021年4月14日(水) 08:28
文字数:1,270

志織が着替え終わった雰囲気で振り返る。少し大きめのズボン。濡れた髪。その姿格好が志織は少女なんだ。という事を強調させた。女の子だ。見た目と中身の違和感が大き過ぎる。

「どうしたの?」

志織は笑って尋ねる。思わず見とれていた。素直に言えず誤魔化したいが上手い言い訳が出来ず黙ったまま。志織は濡れたTシャツのままジャンバーを羽織った。

「いや、そこを見てたんじゃない。志織が女の子っぽか見えたから」

よく分からない言い訳をしてしまった。


戦闘の鮮やかさと血で汚れた格好の志織は女の子と意識しなかった。

志織に渡した服はTシャツに大きめの迷彩のジャンバーとズボンだけ。それしか無かった。ブラジャーは無かった。パンツも。

だから勘違いされた。薄っすらと見えたであろう乳首の突起。俺はそこに意識は全くなかった。


「私をなんだと思ってたのよ」

志織は笑った。やはり見た目はどう見ても少女だ。それが何百人ものポピュレーターを葬った。そして何百年も生きている。

「不思議な存在」

素直に出た言葉。そう。本当に不思議だ。

「私から見たらヒロも不思議な存在だわ」

お互い少し沈黙。

「ヒロも身体洗いなさいよ」

志織が沈黙を破る。俺はうなづき海に飛び込んだ。志織をチラリと見る。

志織は崖を軽々と登ってる。多分、俺の服を取りに。俺は海の中で服を脱いだ。


波の音。誰もいない。でも志織はそばにいる。それだけで平和に感じる。

志織が器用に崖を飛び降りてくる。足の踏み場が出来てるかのように一瞬の躊躇もせずに降りて来る。

飛び跳ねるように岩をつたい俺の所に。俺は丸裸。志織が手渡しで服を渡してくれる。服を取ろうとした時に志織が抱きついてきた。今までにこんな事はなかった。

「濡れるよ」

思ったままの言葉を言った。違う。志織の喜ぶ言葉を言おう。

「今までありがとう」

違う。志織はそんな言葉を望んでない。俺の本心を言葉に。俺の本心。

「志織を守りたいのに」

志織は首を振った。俺は急に悔しさが込み上げてきた。

「悔しいな」

考える余裕がなく、心で浮かんだ想いを口にした。俺の心の奥底にある本心。そう。物凄く悔しい。


志織は何も答えず更に強く抱き締めた。それが答えだ。と感じたので俺も強く抱き締め返した。


愛してる。とか、好きだ。とかではなく、一つだったのが離れてまた一つになった。そんな感覚。

俺と志織で一つなんだ。一緒に暮らしたい。いつまでも。それには、やはりパーティクルをたくさん集めなければ。


志織から腕を離した。俺は着替える。抱き合った恥ずかしさは無いが、もう少し抱き締めあっていたかった。その気持ちがバレるのが恥ずかしかった。


「これからどうする?やはり回収する?」

俺は言った。一緒になって数時間しか経ってないが、充分満足だった。


「回収する気がなくても、向こうからたくさんやってくるわ」

志織の返事。志織を殺しにやってくる。殺しに。というより回収しに来る。

ポピュレーターには、殺すという概念が薄いのかもしれない。罪ではないと思ってるのかもしれない。少なくとも回収するのが悪だとは決して思っていない。


あくまでもAZの一部なのだ。

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