ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.133

公開日時: 2021年4月5日(月) 23:56
文字数:980

思考のバランスが難しい。勇気が過ぎれば無謀に。慎重が過ぎれば臆病に。

そんな考えが浮かぶのは、良くない事。淡々と平常心。がベストなのだが、無理。それでもライフルと同化するよう気持ちを傾ける。

余計な事を考えずに、スコープの目になり的が視野に入ったら引き金を引く。その繰り返し。右耳の耳鳴りが小さくなる。集中し始めた。俺はいつしか何も考えずに射的内に入ったポピュレーターを撃つだけの存在になってた。

真っ暗になりやっと我に返る。眼下では変わらず戦いが続いている。ここらからだとただ発光が入り混じってるだけしか見えない。

明るい。彩る光の中でポピュレーターが踊ってるようにも見える。死ぬまで踊り続ける死のダンス。


本当にただ自分の生きる時間を獲得する為だけに戦ってるのか?本能的に戦ってるのではないか?思考が麻痺してるのではないのか?


死体の山を造る為に戦ってるようにしか見えない。全員がAZに操られてるように見える。


真下の光の色はほとんど赤。このビルが拠点になったように思う。階段や反対側の地上を覗く。発光してるポピュレーターは居ない。


下に降りる。一階の部屋。血の付いてない服や靴。ナイフやオノ。鉄パイプ。銃。無造作に積んである。本当に拠点と化している。

パルやトニは居ない。隣のフロアで数人が喰べている。俺も摂取する。


人間の戦争もこんな感じなのかな?

とふと思った。

血まみれの死体。細切れになった肉。頭部や片腕。内臓。脳味噌。

全て見慣れた。無意識に、足元を滑らないように気をつけて歩くようにすらなってる。血がついても拭かなくなった。

喰べてるポピュレーターの顔を覗く。疲れもなく、嫌悪感もなくただ黙々と喰べてる。


当たり前なのだ。と閃きに近い確信を感じた。長く生きる自分の欲望の為に死を恐れずに戦えるのか?AZの為のパーティクルの回収が義務に近い本能。


人間だった俺とは価値観や思考が違う。まるでアリのようだ。備え付けてあった本能に従うだけ。

トニや志織、ダビデのように長く生きてきたポピュレーターは、経験則から辿り着いた思考が混ざってる。いやひょっとしたら普通のポピュレーターとは違うのかもしれない。


また余計な事を考えてしまう。現実だけを考える。左腕に老廃物が出てきてる。ライフルの掃除もしなければ。

やる事をやる。やるべき事をやる。そして早く志織と一緒になりたい。早く終わらせたい。

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