志織は子供達と遊んでいる。俺は庭を見渡す。誰もついて来ない。怪我してる兄とまだ子供の妹。警戒心も緩む。
トラクターに軽トラック。原付バイク。その向こうに学校にある校門のような頑丈なシャッター。さっきのもう一本の道に繋がるのだろう。
井戸から何本ものホース。畑や風呂や台所に通じてるのが分かる。チョロチョロと水が流れっ放し。水源は豊富みたいだ。野菜や果物の葉や木は痩せていない。ニワトリや牛の世話も手馴れたものだろう。
人間関係も良好そうだ。ツトムを中心にしっかりしている。
お婆さんに声をかけられる。
「気に入ったのなら、ずっとここにおってもいいんじゃえ」
俺は軽く頭を下げ笑顔で返す。
あとは俺の正体をどうするかだ。
志織は子供達と遊んでいる。まだ十五歳。子供の無垢で無邪気さが楽しいのだろうか?俺は志織を見慣れてるせいで、まだ十五歳なのか?と思ってしまう。こんなに、はしゃいでる志織は見た事がない。もっと大人だと思っていた。
空を見上げる。青い空に白い雲。子供達の嬌声。水がチョロチョロと流れる音。気温は感じないが陽気も穏やか。
ゾンビなど本当は居ないのかもしれない。実家に里帰りし、昼寝でゾンビになった夢を見た後に起き出して庭に出た。そんな感覚に陥る。
志織が残りたいと言うならここを終の住処でもいいと思った。ここ以上の場所は無いように思える。あとは俺を受け入れてくれるかが問題。
平和な場所に俺の役割はない。物を食べなくても済む。力がある。それだけだ。生き延びる術や知識は平和な世界では役に立たない。
何で感染するか分からない。俺が風呂に入り、その水をこの土地に流しても本当に大丈夫なのか?悪い意味で特別扱いされるだろうし、奇異な目で見られる。俺は耐えられるのか?
志織がここに残り俺だけ一人で旅する。一日、一カ月、半年、一年。大丈夫だろう。五年、十年は?
志織とずっと居たい。でもいつかは必ず離別する。志織は安全な場所で愛する人を見つけて一緒になり子供を創る。元々は他人だ。たまたま助けて、一緒にいるだけの存在だ。
今から離別しても大丈夫なように心の準備をし始める。意識的に。
無意識に刷り込んでおく。そうしないと俺はきっと、なんだかんだ言いがかりをつけて、この場所を非難するだろう。
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