階段を上がってくる音。男が顔を出し、完璧だと言った。誇らしげな顔。志織を起こし、見るかい?と声をかけた。志織の返事を待たずに、早く見てくれ。と言う。
バイクの左側にサイドカーが付いてあった。タイヤは太くなって、右側に予備のガソリンタンクが付いてある。
「ほら、このサスでどんなデコボコ道でも壊れないぞ」
自慢気に言う。
「シートはないからどこかで布団を探せ。ここに置けば座れる。ガソリンタンクはこうやれば切り離せる。ほら、簡単だろ?」
男は忙しなく動かしながら説明する。楽しそうだ。
「ライトの交換はここだ。ほら二つも置ける」
「タイヤはパンクしたら、ここと…ここのネジを外して交換するんだ」
「ギア比は…」
次々と説明していく。難しい話は分からないが、この男が改造したバイクなら完璧だろう。
「名前はパルキッツァだ」
男は最後にバイクの名前を言った。俺は何回か聞き直し頭に入れる。名前の由来を聞いたが、「パルキッツァはパルキッツァだ。それ以上で以下でも無い」と言う。英語かロシア語かもしれない。ネットがあれば分かるのだが。
「よし、行くか」
と男は言った。俺は、どこへ?と聞く。
「俺は眠いんだ。お前らこれに乗って早く行け」
俺は残念というか名残惜しい気持ち。でも男は何とも思ってないように見える。
「ありがとうございます。また逢いたいです」
俺は言葉少なく言った。口を開くと寂しい気持ちまで、出そうだったから。
「お前が生きていたらまた逢える」
男はアクビをしながら言った。そっけない別れ。照れなのか?と男の顔色を伺うが分からなかった。
男がバイクのエンジンをかける。軽快なエンジン音。
「ほら一発だ」満足気な顔。俺はまたがる。
「ちょっと待て」
と男は志織を手招きし、二人して二階へ上がる。降りて来た二人の手には缶詰がたくさんあった。
「こっちがお前の。これがお前の」
とカゴに入れる。それから男はシャッターの前に立つ。
「開けたら構わず進め。パルキッツァ、頼んだぞ」
男はバイクを叩いて言った。朝でゾンビがたくさん中に入って来るはずだ。大丈夫なのだろうか?
構わずに男はシャッターを開けた。ゾンビは近くに居なかった。俺は安心しアクセルを回した。出た瞬間にシャッターは閉まる。ゾンビは周りにたくさん居た。掴まれないようにスピードを出す。
あっと言う間の別れだった。志織は大きなゴーグルをかぶっていた。二階で男から貰ったみたいだ。
もう朝方のせいか、人間は見かけない。入りやすい民家や、門にゾンビが群がっている家屋に、夜通し歩いた人間が休んでるはず。
道路は邪魔な車などはなく思ってたより快適だった。エンジン音もうるさくはない。心配なのは志織の座ってるカートの下にマフラーがある事。熱いのではないかと。早くどこかで布団か毛布を探さないといけない。
俺には感じないが、きっと風が気持ちいいだろう。道なりに走り続ける。歩きとは雲泥の差の速さで進む。下道の方が小回りが利く。急いでも仕方ない。安全が第一。
ガソリンのタンクが半分に。男はちゃんと手動式ポンプを用意してくれてた。放置してある何台かの車の一台にガソリンがあった。バイクに移し替えそうとする。が、ポンプは奥まで届かない。ガソリンの入ってる軽トラックを探す。軽トラックなら届くはず。届いた。ガソリンを移し替えす。
軽トラックを見つけ次第ガソリンを調べながら進んだ。
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