「まぁ分かってるとは思うが、それを全てよこせ」
リーダー格の男が言った。
「渡したら、お前ら素直に逃げろよ」
俺は男達に強気で言う。下手に出たらダメだ。かといって強気過ぎても怒らせる。加減が難しい。問答無用で襲ってきてないから、多少の交渉は可能だろう。
第一優先は仲間の無事。物資はまた探せばいい。
「俺達を満足させたら無事に返す。これは今までもこれからもやるつもりだ」
周りの男達が笑う。
「俺達は退屈してるんだ。ゾンビと殺し合いをやって勝ったヤツだけ無事に返してやる」
「イヤだと言ったら?」
「ここで死ぬんじゃね?」
「全員か?」
「もちろん」
「なら、俺一人で皆の分をやる。同時でもいい」
「おいおい。まさかタイマンとか思うなよ。ゾンビ十人と戦うんだよ。つまり同時だと…六十人だ。つまんないね」
「なら、俺が死んだら、次のヤツと戦わせればいい」
「面白い。いいぜ」
連れて行かれる。信長が言う。
「俺もやるぜ」と。
「じゃあ、お前は二番目だな」
リーダー格は言った。信長の考えは分かる。ゾンビ六十体。二人なら三十体ずつで済むと計算したのだ。信長は意外といいヤツだと思った。が、今更、引けない。それに何体いようが俺は大丈夫。問題は素直に俺達を放してくれるかどうかだ。
「お前、なんでそんなに落ち着いていられる?」
俺を見張ってる男が俺に聞く。
「ビビっても仕方ねえだろが」
聞かれてない信長が答える。俺への気遣い。俺にビビるな。と言いたかったのだろう。俺は返事を返さない。どうやったら無事に六人抜け出せるか。それを考える。
両脇に車を三台縦に重ねた通路を入っていく。半分以上の男は車の上に登り歩く。俺達は下の道。少し進むと空き地に出る。周りをグルリと車でかこってあり、同じように三台重ねて壁にしてあった。
広場の中にはコンテナハウスが一つ。俺以外がそこに入れられる。ハシゴが降り皆が登る。ハシゴが外される。下には俺一人とコンテナハウスに信長達五人。
「さぁ賭けようぜ」
リーダー格は言った。上の男達が賭けを始める。死ぬまでに何体殺せるか。今まで何回もやってたのだろう。賭けのやり取りが手慣れている。賭ける物はタバコ。アルコール。お菓子。
なかなかいい退屈凌ぎだ。
「俺も賭けていいか?」と聞く。皆笑う。
「いいぜ。何を賭ける?」
リーダー格は乗ってくれた。
「俺一人で全部倒す。それも怪我をせずに。それに俺達と俺達の物全ての解放」
「賭ける物はなんだ?」
「俺達は死ぬまで、お前らの奴隷になる。女もいるぞ」
周りの男達が笑う。リーダー格は言った。
「面白れぇ。すげぇ自信だな。いいぜ。傷一つなく六十匹全て殺したら、食料も全て返してやるよ」
歓声があがる。
「嘘をついたらお前を殺す」
「生きてたらな」
俺は座り込んだ。下は砂利。余裕だった。心配なのは、俺の素性が信長達にバレる事だけ。だが仕方ない。第一優先は皆を無事に返す事。
太陽が昇る。俺はコンテナの方に移動する。両手に砂利を掴んだまま。イメージトレーニングをする。釣りのリール竿で出来る限り遠くに飛ばすように腕の遠心力で投げる。力だけで投げると脱臼する。
「よーし、開けろ。始めるぞ」
嬌声が上がり野次が飛ぶ。ゾンビが通路から這い出るように向かってくる。
俺は掴んだ砂利を思い切り投げた。ゾンビに当たり、崩れ倒れる。砂利は車にも当たり、大きな音を立て割れたり、食い込んだりする。砂利を拾い投げる。数体ずつ倒れてく。砂利はゾンビの身体や頭を貫通する。
嬌声が止む。聞こえてくるのは、砂利が車に当たる音だけ。最後に数体残る。右肩の筋がおかしい。投げる時に無理した。俺は走って近付き頭を蹴り上げる。凄い勢いで転がるゾンビ。残り二体。逃げようとする前にビンタをかます。ゾンビは地面に叩きつけられバウンドする。残り一体。逃げようと振り返ったので背後から頭を掴みひねる。顔がこっちを向く。口から血を吐き出す。俺の腕と身体にかかる。ゾンビが崩れ倒れる。
足元にはまだ動いてるゾンビ。動きのいいゾンビの頭を足で踏みつけた。少し過剰な演出をした。
文句は言わせない。俺は息切れ一つしてない。言ってやった。
「さぁ、品物を返せ。賭けは俺の勝ちだ。破るならお前らを殺す」
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