ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.59

公開日時: 2020年12月30日(水) 08:38
文字数:1,425

  部屋に入る。誰もが話さない。

「お前、ゾンビなのか?」

男が言った。

「その前になんか言う事があるんじゃねえか。助けてもらったんだぞ」

  信長のフォロー。だが誰も言わない。

「とりあえず帰るまでは安全を保障する。着いたら出てくよ。黙ってて悪かったな」

  俺は言った。どう言い訳しても無理だと諦めた。既に三浦家から出た後の事を考え始めてる。

「いやいや、誰も出てけとは言ってないだろ」

  信長の言葉。多分、俺を認めたのだろう。俺はツトムさんに信長を殺せと言われてる。

「志織ちゃんは知ってるの?」

  ミズホさんは弱々しい声だがはっきりした口調で言った。俺はうなづいた。

「男が好きだからじゃない。ゾンビだからなのね」

  ミズホさんの言葉にヨウジ君が過剰に反応した。ピンときた。多分ヨウジ君は男が好き。ゲイなんだろう。

  俺はうなづく。うなづくしか出来ない。

  信長も殺せない。信長も連れて一緒に出て行こう。二度と三浦家に近寄らない約束をさせる。それで文句は出ないはず。

  まだ空のゴルフバッグが三つ。

「俺一人で探してくる」

  俺は言った。このまま皆と居るのは流石にキツイ。ゴルフバッグを二つ抱えて外に飛び出す。

  二階から車に飛び降りる。着地の時に柔軟に降りれば痛まない。身体が壊れると後々困るので今まで無茶はしなかった。

  ゴルフバッグを一つだけ持ち走って近くの店屋から入る。一人だと好きなように出来る。物音を立てても気にしなくていい。ゾンビの間を潜り抜ける。トイレのドアを蹴破る。棚を乱暴にどかす。気が立ってる。悪い事はしてないのに嫌な気分だった。


  志織ちゃんも嘘ついてたのね。ミズホさんの言外の言葉が浮かぶ。俺の妄想だと思うが脳裏から離れない。志織が非難された。それが苦痛だった。

  仕方ない。と志織は言うだろう。仕方ない。だが。しかし。


  やるべき事を考える。その思考が浮かぶ。タオという男も言っていた。賢く生き抜くには、それが前提なのだろう。

  やるべき事。無事に帰る。生活物資を集める。まずはそれだけを。無事に着いてから考える。どうせまた旅に出る。前と同じ生活に戻るだけだ。三浦家に愛着もない。


   少しは落ち着いてきた。そう言えばミズホさんは化粧品やブランド物が欲しがっていた。思い出す。モールへ行ける。まだ午前中。時間はある。

  適当にかき集めた生活品を詰めたゴルフバッグをアパートの二階に置く。空のゴルフバッグに持ち替えモールへ駆け出す。


  モールは人間が隠れていた。だが誰も隠れたままだ。俺の邪魔さえしなければどうでもいい。

  目当てはブランド物の服とアクセサリー。化粧品。化粧品は三年経っても使えるのか分からない。出来る限りゴルフバッグに詰める。ダメなら捨てればいいだけだ。アパートに戻る。

「ありがとうな」「ありがとうございます」と信長以外が言ってくれた。多分、信長に諭されたのだろう。だけど俺にどう対応すればいいか迷ってるのが分かる。


  俺はミズホさんにバッグを渡し、中味の選別をしてもらう。いい時間潰しになる。ウィスキーを見つけたので紙コップと共に渡す。俺は、よく眠れるから。と言った。

  信長は何も言わなかったが、神妙な顔をしていた。信長らしくない表情。

新しいゴルフバッグを担いで下に降りる。二階から信長が声をかけた。

「おい。お前スゲーな…」

  俺はうなづいていいか分からず見上げたまま。間があってから「サンキューな」と信長は言ってすぐに部屋に戻った。


  救われた気がした。いや、実際だいぶ救われた。


  探しに行く足取りが軽く感じた。


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