ゾンビサバイバル 【比翼の鳥の物語】

終末世界を少女と二人で生き抜くお話(完結)
sadojam
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現実.86

公開日時: 2021年2月20日(土) 18:56
文字数:1,080

  雪も溶け始めた頃に移動する。トニと合流するまで、なんだかんだ一カ月と少しかかった。その間は人間とゾンビは見かけるものの、タオみたいな人物は一人たりとも見かけなかった。

  食料もなかなか集まりにくくなり、元気な人間は三浦家のような人やゾンビのいない田舎で自給自足が可能な場所にしか居ないように思われた。


  志織にトニと言う男を紹介された。

  背が高くガッチリとした白い黒人だった。映画によくいる黒人の警察官みたいだ。だが後ろの日本人が本体…シェーリーのトニだと知って驚いた。小太りでアロハを着てサングラス。老け顔の二十代後半か三十代半ば。四十歳代にも見えるが、とにかく陽気そうなオッさんだった。

  小説で名前だけは知っていたが、俺の想像してた容姿ではなかった。


「あんたまた肥ったわね」

  志織の第一声。

「やっぱりチョコが一番美味いよな。シリは何が美味かった?」

  流暢な日本語でパペットの白い黒人が言ったが、チョコをかじってるのはシェーリーのトニ。


  アロハのオッさんがシェーリーで、白い黒人がパペット。


  実物を見てやっと理解出来た。

確かに操っている。操ってるというより、本当に一つの思考で二体の身体を動かしてる。


「どれも美味しいわ。ヒロよ」

  志織の紹介で初めて二人同時に俺を見た。俺は頭を軽く下げる。

「え?パペットに名前つけてるの?」

  パペットの白い黒人が聞く。

「違うのよ。ヒロよ」

「イマイチ分からないな」

  パペットの白い黒人が喋るが、近づいて俺を見るのはアロハシャツのオッさんの方。

「前の記憶があるのよ」

「なんで?パペットに記憶があるの?」

  パペットの白い黒人が尋ねる。

「記憶どころかヒロの思考も感情もあるのよ」

「マジかよ。脳硬化してないのか?それじゃ、操れないじゃん」

  パペットの白い黒人が言いながら近づいく。

「こんなんで勝てるのかよ?」

「だからトニに会いに来たのよ」

  黒人とアロハ、二人のトニが遠慮なくジロジロと俺の身体を見る。

「まぁいいぜ。しかしこいつは面白い。なぁ、完全に自分の思考を持ってるのか?」

  パペットの白い黒人が俺に聞いた。俺はうなづく。

「ひょっとしてまた俺を騙している?」

  白い黒人は疑う目つきで志織に言い、志織は笑いながら首を振る。

「ちょっと、変な事言わないでよ」


「で、なんで俺のところに?」

  パペットの白い黒人が聞いた。

「ヒロに戦い方を教えて欲しいのよ」

「操り方じゃなくて?」

  志織はうなづく。それから志織は俺に目配せをする。トニがそれに気付き言った。

「マジに完全個体なんかよ。なんてこったい。そんな事可能なのかよ」

  パペットの白い黒人と本体のアロハのオッさんは同時に同じ口調で言った。


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