コンテナは向こう側にいる男達が引っ張っていた。向こう側…大きな家と納屋、小屋の三棟。そして畑。鶏小屋、牛舎。田舎によくある大きな民家。その敷地を囲うようにベニヤ板や木材でバリケードとして張り巡らせてある。外側は一面の竹やぶ。人間もゾンビも入り込めない位にビッシリと生えている。
怖いのは火事。その事を言おうとしたが辞めた。わざわざ機嫌を損ねる事はない。多分、彼らも分かっているだろう。
三十人位居た。子供も居る。年頃の女は居ない。中年の女性とお婆ちゃん。この家の家族と親戚と近所の人達だろう。中年の男性が多かった。
話をしてる男には嫁や彼女がいるような感じはなかった。いるならそれらしい女が近寄って来るか、何かしらの目配せをするはずだ。
「俺の名前は三浦ツトムだ。ツトムでいい。何人も三浦がいるからな」
この本家を継ぐ長男だろう。俺と志織も名前を名乗る。
子供達が近付いてくる。どの子も無邪気だった。スレていない。東京に居たら真っ先に死ぬタイプ。危機感が見られない。この家や庭からはあまり出た事が無さそうだ。
本来の子供はこうなのだろう。だが今は違う。ある種の緊張感は絶えず張っていなければならない。志織のように。
「全員で四十五人だ。居ないのは遠くに出掛けてる。ここには医者が三人居るから看てもらうといい。外から来た者達だ。後のほとんどが三浦家だ」
皆、ツトムに怖れを抱いてるようではない。独裁的ではなさそうだ。一家の期待を一人で受けている。その期待に応える為に頑なにに頑張ってる感が見受けられる。
逆に取ればツトムが居なくなったら一気に力が弱まる。そんなグループに見えた。
志織は子供達にアイパッドを取り出し音楽を流した。俺とツトムだけになる。
「今までに何回位、人間が来ましたか?」
「多分十回は来た。ここ最近は数回だ。大勢のグループは堪らんな。威圧的だ。必死なのは分かるがどうにもなぁ」
ツトムは息を吸いため息を吐いた。
「水はあるんですか」
井戸を見つけたが言った。
「水の心配はほとんど無い。温かい風呂にも入れる」
志織が喜ぶ。
「布団もあるし、食い物もある。足りないのは燃料と米、薬だな」
「探しに行ってるのですか?」
「行ってるがここら辺りではもうなかなか難しい。ガソリンもサビが混じって使いものにならん」
「まぁ、ゆっくりしていってくれ。俺は寝る。何かあったら女達に聞いてくれ」
ツトムはそう言って、アクビをし女達と話しをしに行った。
女と子供は夜に寝て朝に起き、男は夜に動き朝方寝るのだろう。
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