「本当ならもっと減らしたいんだがな。厳しいよなぁ。全く」
ツトムさんの愚痴。出逢って二日目の俺に頼る。本当に頼れる人がいないのだろう。
信長を殺す。それがツトムさんの仕業だとバレたら、三浦家は疑心暗鬼になるのは必然。次は俺かも…と考える人が出る者が増える。かと言って出て行く勇気などない。ならばツトムさんを。という考えになる可能性もある。
人減らしの役目は部外者の俺が最適。バレたら俺を追放すればいいだけ。俺に人殺しが出来るか?殺し方は簡単。俺の力は強い。
志織のためなら。それに感情で悩む程甘くはない世界。生き抜く為に非情な世界。モラルや情けは通用しない。通用するのは運がいいだけ。
俺が大事なのは、志織の安全安心の生活。平穏な暮らし。
それに間接的に何人も殺してきた。見殺しも人殺しのカテゴリー。何を今更。家族を探さなかった。学校の子供達を見て見ぬフリした。全ては自分の気持ち次第で罪悪感は変わる。
「ミズホだけは絶対に守れよ。その代わり志織は絶対守ってやる」
ツトムさんは言った。その言葉を素直に受け取るべきか。もしくは、ミズホさんに何かあったら志織がどうなるか分からないぞ。という言外の脅しかもしれない。
男手はたくさんいても困らないはず。なのにツトムさんが要らないというなら、よほどタチが悪いのだろう。
小狡さや、悪賢さも賢さの内と思うのだが。
「あまり深く考えるな。こんな世の中だ。仕方ないんだ」
ツトムさんに心配される。俺の悪い癖。考え過ぎる。思考にのめり込んでしまう。大事な決断の時に思考の分岐が増えていく。そしてその道の先はいつも行き止まりだ。
やるしかない。やるべき事をやる。
ずっと自分に言い聞かせている。でも考えてしまう。ウダウダと。グダグダと。
「明後日の夜だ。よろしく頼むぞ」
ツトムさんは、帰って行く。俺は黙ったまま。
志織ならどうする?志織なら殺すと思う。志織は俺を助ける為に病院に火をつけた。俺みたいにウダウダ考えず、躊躇なく。
結局は志織に助けられる。迷いが消えた。覚悟はしていたはずだ。志織を守る。その為にやるべき事をやるだけだと。
今日はもう誰も来ないだろう。気分を変える為にも、俺は小説の続きを書き始める。
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