後頭部がパックリと裂けていた。脳みそはほとんどなく、白い頭蓋骨に髪の毛がこびりついている。
銃もナイフも持っていない。ジーンズに男物のジャンバー。
チラリと横顏が見えた。顔を見たくなかったので後ろの首すじにかじりつき首の骨を噛み折る。そのまま引きちぎり、千切れた頭部を遠くへ投げる。そして脊椎辺りから摂取し始めた。まだ柔らかい。胸元まで喰べる。
トニは立ったまま言った。
「こっちも喰っとけよ」
俺は喰べていた遺体をその場に捨て、次の遺体拾う。さっきの遺体と似たような顔立ちの女性。顔は汚れていなかった。けっこう綺麗な顔をしている。
「多分、同じだな」
トニが言った。二つの遺体は本体とそのパペット。姉妹?そんな事はない。親友だったのか?俺がポピュレーターでパペットを誰にするか?より強く頑丈なヤツ。もしくは死んで欲しくないヤツ。
気が滅入りそうになる。前向きに考える。いつもの自分を納得させる為の言い訳探しが始まる。
遺体。赤々しい肉にまとわりついてる黄色い脂肪の塊。骨。髪の毛。真っ赤な心臓。
先ほどまで動いていた。生きていた。今は肉の塊。それには慣れた。気持ち悪くもない。大丈夫。
弱肉強食。自然の摂理。喰うか喰われるか。遊びや趣味でやってるのではない。死にたくなければ逃げればいい。
ここはパーティクルを奪いに来た者同士の殺し合いの場所。殺されて食べられても文句は言えない。俺も同じだ。殺されても仕方ない。弱いからだ。
強くなりたければ喰って生き延びる。絶えず力を満タンにしとけ。
言い聞かす。自分自身に。志織を守る。その為に生き延びる。
転がった頭部。遠くへ放ればよかった。と少し後悔。幸いにも顔は見えなかった。見えていたらまた迷う事になる。
強気でいくなら顔も喰べる。でもさすがに出来ない。トニやパルは平気だ。志織はどうだろうか?喰べないで欲しいと思う。喰べられる強さを持っていて欲しいとも思う。
俺は強くなりたい。ならば頭部も喰べるべき。分かっているが出来ない。出来なかった。それでも弱気の虫は消えていた。
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