ホテルの部屋に戻る。志織は起きていた。今日の出来事を志織に話す。
「志織ならどうした?」
俺は聞いてみた。もし生存者がいたらどうするか?
「弱そうなら近寄らない」
俺はホッとした。自分が無事に生き抜く事が最優先。生き抜く確率を自ら下げる行動はしない。部屋に一カ月閉じこもっても退屈とか、つまらない。という言葉を志織は口にしないだろう。多分。
志織は現実を決して軽視しない。だから贅沢を言わない。普通の小学生なら甘えてどんどん要求してくるだろう。多分。
「このままここに居ても、いつかは動かなければならなくなる。必ず助かってる人間が居るはずだ。そこに合流しよう」
「私を一人にする気なの?やっぱり私、邪魔なのね」
俺の思ってたのと違う答えで戸惑った。素直に納得すると思っていた。
「たくさんの人達の中に居た方が安全だと思って」
うまい言い方が出来ない。俺一人で守るよりも大勢の中の方が安全なはず。俺一人では出来る事は少ない。病気や怪我をしたら?不慮の事故にあったら?俺が死んだら?しかも今の俺ではゾンビは逃げない。当然ゾンビは志織に襲いかかってくるはずだ。何から言えばいいか分からなかった。志織が先に口を開いた。
「そうね。私は足手まといだしね」
違うんだ。そうじゃないんだ。俺の気持ちがなかなか言葉に出ない。言う時期をしくじった。今言うべきではなかった。たった今、小学校にいるかもしれない子供を見捨ててきたのだから。ご丁寧にも志織に意見を求めたばかり。志織の言った、弱そうなら近寄らない。の言葉。
「俺は…」
そこから言葉が出ない。
「俺に妹が居るんだ。志織は妹に似てるんだ。だから助けたいんだ」
咄嗟に思い付いた嘘を言ってしまった。でも助けたい気持ちは本当だ。一人位なら助けられるだろう。そんな気持ちが強い。それに一人は寂しい。その為に誰でもいい。志織でもいい。そんな気持ちもある。
素直に言うべきか。いや、言えない。
志織は黙ったまま。俺は黙るしかなかった。
「とにかく、ここは衛生的によくないんだ。ずっと住めるかと思っていたが甘かった」
やっと口から出た言葉。こんな事しか言えなかった。俺の考えは全て甘い。生きる事にも、志織に対しても。
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